妖精さんの補正
拳銃の整備のやり方を教えてもらった後、僕はブースに戻って射撃の練習を再開した。一発ずつ丁寧に撃ってインストラクターのお兄さんの意見を聞いて修正していく。
そうして午前中は指導をしてもらった。ちょうど四十発を撃って指導が終了となる。
「あとは慣れです。撃ち方はそのままでたくさん練習してくださいね」
最後に僕へと言葉を継げるとお兄さんは去って行った。その後ろ姿を見送ると僕は頭の中でソムニへと話しかける。
”やっと終わったね”
”朝わね。お昼ご飯を食べたらまた練習をするわよ”
”え? またするの!?”
”教えてもらったことを覚えているうちに体に染み込ませないとね。一発ずつ丁寧に四十発撃つわよ”
”簡単に言ってるけど、これ結構反動が大きいからきついんだよ?”
”となると、体力作りも必要ってことね。今後のメニューを考えておかなきゃ”
”えぇ”
不満を漏らしたら新たな対策を提案されて僕は膝から崩れ落ちた。余計なことを言わなきゃ良かったよ。
家から持って来たお弁当を本館一階にある打合せコーナーで食べて終えると、再び射撃場へと戻った。体もそうだけど気も重い。
受付カウンターで手続きを終えるとまた奥へと進む。今度は一人で。
ブースに入るとベンチに大型拳銃と予備弾倉と銃弾の箱を置く。弾倉は二本とも空なので銃弾を込め始めた。
その作業中にソムニが僕の頭の中で声をかけてくる。
”手は休めずにそのままで聞いて。昼からはアタシがサポートするわ”
”サポート? 僕の体を操るとか?”
”それは最終手段って前に言ったでしょ。そうじゃなくて、パソウェアの戦闘支援機能のもっとすごいヤツよ。ほら、初めて会ったときに真っ暗の施設内で助けてあげたでしょ”
当時のことを思い出した僕は小さい声を漏らした。あのときは遺跡内の壁や床がどうなっているのかわかって助かったな。
”あれかぁ”
”あんまりわかっていないようね。まぁいいわ。弾を込めたら朝と同じように銃を構えて。的の距離は十メートルよ”
ブース内にある半透明の操作盤を操作すると、僕はさっきと同じように両手で銃を握って構えた。だいぶ体が覚えてきてくれて嬉しい。
そのままじっとしていると、人型の的を囲むように赤線の枠が現れた。その左下には小数点付きの数値が表示され、その右端にmってある。
”ソムニ、あの赤い枠と数値は何なの?”
”赤い枠は敵のしるしね。味方だと緑、他にもいくつかあるけど後回しでいいわ。それと、枠の左下にある数値は相手までの距離よ”
”へぇ、便利だね”
”優太の知識とアタシの集めた情報を基にその都度表示するから。あと、アンタからリクエストがあったらそれもまとめて処理するわよ”
”識別ってやつ?”
”その通り。それで、これに更に拳銃の情報を重ねると、こうなるわ”
ソムニが言い終えると、今度は僕が手にしている大型拳銃の銃口から白くて細長い線が現れた。それはまっすぐに延びて的の一点にぶつかっている。そして、そのぶつかった点の右上にOKという緑のアイコンが表示されていた。
それを見て僕は感心の声を漏らす。
「おお、パソウェアの戦闘支援機能みたいだね」
”明るい場所で標的が止まったままだとそう見えるわね。でもこれ、特別なセンサー類がなくても表示できるし、真っ暗なところでもちゃんと使えるわよ?”
「え?」
説明を聞いて初めて僕は疑問を抱いた。パソウェアにインストールしている戦闘支援機能は高性能なセンサーを使うほどにその精度が上がる。逆に言えば、センサーが低性能だと精度は低くなる。更に暗視装置がないと暗闇では何も見えない。
でもソムニはそれらの装備が必要ないと言った。前に言ってたことと矛盾してない?
”高価な装備を付けたら精度が上がるって前に言ってたよね? 装備がないと何もできないんじゃないの?”
”なくてもある程度のことはできるのよ。現に前は暗闇の中で建物の構造を表示してみせたでしょ。それに、今だって何も装備していないのに戦闘情報を表示してるじゃない。でも、優秀なセンサーがあればもっと精度が上がるってことよ”
指摘されて僕は気付いた。そう言えば、今はパソウェア以外何も身に付けていない。こんなセンサー類のない状態で戦闘支援機能を起動しても、本当なら赤い枠も銃口からの白い線も表示されるはずがないんだった!
次第にソムニがやっていることに気付いてくると僕は驚きで呆然とする。
「すごいね」
”ふふん、やっとわかったみたいね!”
嬉しそうなソムニの声が頭の中に響いた。
半透明な妖精のすごさを理解した僕は改めて大型拳銃を構える。銃身の先から見える白い線を的に描かれている円の真ん中に合わせて、撃った。
反動を逃がしてから意識を的に向けると狙い通り円の真ん中に穴が開いている。
「本当に真ん中に当たってる。え、こんな簡単に当たるの?」
”どう?どう?どうよ!? これがアタシの実力よ!”
「でも、こんなに簡単に当たるんなら、朝みたいに練習する必要なんてあるのかな?」
”なーに言ってんのよ。アンタ自身の実力が上がんなきゃ、アタシの能力をフルに使えないじゃない。楽ができるのはいいことだけど、それに寄りかかるだけじゃダメだからね”
「う、うん」
頭の中で会話をすることも忘れるほどに僕は驚いていた。そして、努力する意味を見出せなくなりかけていたことを窘められて恥ずかしく思う。
それからはソムニのサポート付きで大型拳銃を一発ずつ撃っていった。途中で的までの距離を二十メートル、三十メートルと遠ざけて、ついには五十メートル先でも命中させられた。サポートなしだと十メートルがやっとなのに。
四十発を撃ち終わるとソムニが分析結果を伝えてくる。
”アタシのサポートありだと銃の性能を一応引き出せるみたいね。問題はサポートなしの場合か。まぁ初日なんだし、十メートルでも当たってれば御の字ね”
”合格、なのかな?”
”今日はね。明日から毎日四十発ずつ撃っていくわよ。平日は学校から帰ってきてからだから夕方ね。アタシのサポートなしで重点的に練習っと。せめて二十メートル、できれば三十メートルが目標よ”
”できるかなぁ”
”や、る、の、よ! あと、木曜日からは強化外骨格を装備して練習ね。あっちでも慣れておかないと”
このペースで練習すると一週間後には手元の銃弾が十分の一以下になることに気付いて、僕は青ざめた。苦労して稼いだお金が一瞬でなくなったと思ったら、買った物もほとんど手元に残らないなんて!
そんな僕の嘆きなど気にすることなくソムニは僕に練習を課した。途端に平日が忙しくなる。朝起きて勉強し、夕方学校から戻ってきたら射撃練習の日々が続く。
でもこのままだと銃弾を消費する一方で収入がない。確かに春休みにやっていたような依頼を週末に受ければ収入はある。けど、それはあまり嬉しくないな。
どうするのかとぼんやり思っていた僕だったけど、ある日突然ソムニに指示される。
「拳銃を使う依頼を週末に入れて。これまでの射撃訓練の成果を見せたら許可は下りるはずよ。ちゃんとデータベースを見て確認したから大丈夫」
もちろん違法行為だ。だからそれはやめてほしいと言ってるのに。
ともかく、言われた通りに僕は本館の受付カウンターで職員さんに相談した。すると、あっさり要望は通る。依頼が表示された半透明の一覧画面を見ると確かにあった。
何はともあれ、ようやく依頼の報酬金額がランクアップした。それが例えわずかでも僕は嬉しい。




