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サイボーグを超えろ!

 箱、機材、コンテナが乱雑に置かれている広めの通路で、僕とミーニアさんは体堂(たいどう)冷川(ひやかわ)の二人相手に戦っている。ただし、実際は乱戦というよりかは一対一の戦いという方が正しいかもしれない。


 コンテナから機材へ、機材から箱へと隠れながら僕は冷川と戦っている。手足をサイボーグ化している男だからその狙いはかなり正確だ。


 逃げてばかりでは追い詰められてしまうから僕も反撃するけど、命中しそうな銃弾はすべて手足で防がれていた。銃弾に反応できるということは、脳内にコンピューターチップを埋めているのだろうというのがソムニの予測だ。僕もそう思う。


 ソムニの表示する赤枠や白い線を信じて戦っても今は押されている。この支援がなければ僕なんてすぐに殺されていた。


 正確無比なその戦い方に舌を巻きながらも僕がひたすら耐えていると、ソムニから声をかけられる。


”大体解析できたわ! 反撃しましょうか”


「簡単に言うけど、僕の攻撃全然当たってないよ?」


”そんなことないわ。いくらかは当たってるじゃない”


 何を言っているのかわからなかった僕は内心首をかしげた。けれど、のんびりと考えていられないから、すぐに目の前の処理で頭がいっぱいになる。


「で、これからどうするの? 当てるだけでも一苦労なのに、当たりそうなのは手足で弾かれちゃうんだけど」


”弾くってことは当たるのはイヤってことよね。つまり、銃弾が当たると怪我する箇所があるってことよ”


「そりゃ頭とかに当たったら無事じゃ済まないんだろうけど、どうやって当てるの?」


”鉈で斬りつけてもいいじゃない。とにかく、きっちりと攻撃してダメージ入れるわよ”


 簡単に言ってくれると思いながらも、僕は半透明の自分の姿が連続して表示されたのを見た。これに沿って動けということだ。


 今までも散々練習してきたし実際に使ってもいるけど、今回は要求される反応速度が特に厳しかった。ゲームをノーマルモードからハードモードに変更したときみたいなもので、追いつくだけで精一杯だ。


 これに対して無表情だった冷川が眉をひそめた。更に、つい先程までとは違って明らかに余裕のない対応をしている。


「ふん、今から本気を出すということか? ナメるなよ」


 何かつぶやいた冷川の動きが途端に速くなった。早速対応されたわけだ。


 僕にとっては高速戦闘だったけど冷川を倒すにはまだ力が足りないらしい。


 この状況でソムニが更に厳しい要求を課してきた。半透明の自分の姿が追い切れなくなる。


”優太、他のことは何も考えないで目の前のことだけに集中して。回りのことはアタシが全部やってあげるから”


”いやもうこれで限界なんですけど!?”


”アタシがアンタの体を操ったらこなせるわよ。アンタの体で実行可能な動きなの、このシミュレートって”


 しゃべる余裕さえなくした僕が悲鳴を上げたけど、ソムニはそれをばっさりと叩き落とした。理論上の話と実際の話は違うと思うんだけどなぁ。


 ただ、今までのソムニの提案はどれも僕ができる範囲あるいはそのぎりぎりだった。特に実戦ではそうだ。ならば、この動きも可能ではと思うことにする。


 小銃を撃って隠れ、コンテナの奥から別の機材へと移り、そしてまた小銃を撃つ。これをヒットエンドランの要領で重ねていった。


 余計なことは考えないでひたすら半透明の自分の姿を追いかける。再び自分の体と合い始めた。すると、冷川の動きが少しずつ僕から遅れ始める。


「バカな! こんなガキに、しかも生身の奴に後れを取るだと!?」


 いつの間にか僕を懸命に追いかける側になった冷川が驚愕の表情を浮かべていた。その気持ちは僕にもわかる。


 ソムニとの会話さえままならない僕は冷川に答えることなくひたすら動いた。けどそのせいで体が悲鳴をあげる。


”ソムニ、体がいつまで動くかわかんないよ!”


”我慢して! もうちょっとだから!”


 そのもうちょっとがいつまで続くのかをものすごく知りたかったんだけど、ソムニはそれ以後黙ってしまって答えてくれない。仕方がないからひたすら我慢する。


 一方、冷川の方は表情にまったく余裕がなくなっていた。ミスをするようになり、その分だけ更に追い詰められてしまう。


「くっ、こいつ!」


 呻く冷川はこれ以上は無理と判断したのか、いつの間にか十メートル近くまで近づいていた僕から離れようとした。急に後方へと後ろ飛びを始める。


 もちろん僕は、というより半透明の自分の姿はそんな冷川を逃そうとはしなかった。ここは踏ん張りどころと言わんばかりに急接近するように表示される。


 一瞬本当にこんなに近づいて良いのか、近づきすぎてあのサイボーグ化された腕で殴られるんじゃないかと不安に思った。けど、僕には他に選択肢なんてない。


 急速に近づいた僕は間合いに入ると対魔物用大型鉈を鞘から引き抜きつつ、そのまま冷川を斬りつけた。形としては居合いになる。


「はっ!」


 ここが勝負所とばかりに僕は対魔物用大型鉈を思い切り振り切った。しっかりと踏み込み、全体重を乗せて一撃を放つ。


「くそっ!」


 その一撃から逃れようと冷川は全力で後退しようとした。けれど、このときばかりは無傷でとはいかなくなる。ついに右腕の肘から先の半ばくらいを切断されてしまった。


 いけると思った僕は更に半透明の自分の姿を追って冷川に追撃しようとする。


”ダメ!”


 それまで僕に攻撃を任せていたソムニが、突然体の自由を奪って冷川から離れようとした。まったく意識が追いついていない僕はめまぐるしく動く視界の端で、冷川がのけぞりながら右足を蹴り上げているのを見る。その靴先で紫電が光っていた。


 状況を充分に把握していない僕はソムニを呼ぶ。


”今のあれ!?”


”アイツ、刃を仕込んでる靴でアンタの頭を蹴ろうとしたから緊急回避したのよ。しかも電撃付きのね”


”電撃!? そんなことできるの?”


”脚もサイボーグ化してるからこそね。蹴り単体だけでも即死する威力があるし、あれ以上の追撃は危なかったわ”


 僕の体が横っ飛びで一回転した後に立ち上がると体の自由が戻った。そして冷川が後退した方へと顔を向けると煙幕がたちこめている。


「はぁはぁ、あ、あれなに?」


”煙幕よ。逃げたみたいね。敵わないと思ったんじゃないかしら”


「あんなサイボーグ化した体ったら、もっと戦いようがあったんじゃないのかな?」


”どうかしらね。アイツの動きは大体解析してパターンを読んだ上でアンタに動いてもらっていたから、やりにくいと思ったんじゃない?”


 ついていくだけで精一杯だった僕は相手のことを考える余裕なんてなかったけど、冷川からしたら常に自分の動きを読まれ続けていたわけか。確かにそれはやりづらい。


 だからこそ、ここで逃したのはまずかったのではと今になって思う。あれ以上僕が動くことはできなかったとはいえ、もうちょっとうまくやっていたらとも考えてしまう。


 いくら考えても今更なことだから頭を切り替えていこう。猛烈にだるい体を強引に動かしてミーニアさんを探す。


「いた。ああ、まずいな」


 超人化処理をしている体堂の身体能力の高さは僕も知っていた。だから、その体堂相手に近接戦闘で攻撃を躱し続けているミーニアさんはすごいと思う。魔法で身体能力を高くしているとしてもだ。


 でも、やっぱり戦士タイプと魔法使いタイプでは体の動きが根本的に違う。ミーニアさんは体堂に少しずつ圧倒されつつあった。


 疲れた体に力を入れて僕は前に足を出す。まだ戦いは終わっていなかった。

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