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立ちはだかる敵

 今のソムニの説明を聞いて色々と思い当たる節があった。起点を必要とするのも記憶がないのも全部中途半端に成功しているせいだったんだ。


 でもそうなると、一つ重大な問題があることに気付いた。僕は少し震えながらソムニに尋ねてみる。


「ソムニ、今の佳織の状態ってどうなってるの? 魂が抜けたままで体を維持する方法が思いつかないんだけど」


”たぶん冷凍睡眠状態だと思う。魂が抜けて生きられなくなった体を維持するんなら、その方法しかないし”


「ということは、解凍しなければ問題ない?」


”現状維持ならね。でも佳織を蘇生させるとなると、魂はどうしても必要になるわよ”


「それってつまり」


”アタシが佳織の体に還るってことね”


「いやでも、還るってソムニの半分は精霊なんでしょ!? 還れるの?」


”やってみないとわからないけど、不可能じゃないと思うわよ。恐らく、今の優太とアタシの関係に近くなるんじゃないかなぁ”


「ということは、ソムニは残るんだ」


”今のままかどうかはわからないわよ。佳織は佳織、アタシはアタシで分かれてるかもしれないし、佳織の性格がアタシみたいになってるかもしれないし”


「佳織やソムニの片方が消えてなくなるわけじゃないんだね」


”元々混ざって一つになっちゃってるんだから、片方が消えるってのは正しい表現じゃないわよ”


 何とも複雑かつ微妙な回答だった。つまるところよくわからないってわけなんだけど、最悪の事態は避けられるらしい。


 僕が安心すると隣のミーニアさんが首をかしげる。


「ところで、佳織という人物が冷凍睡眠されているとなると、優太と佳織はどのようにして会話をしているのでしょう? 佳織は眠っているのですよね?」


「あ。あれ?」


『それは私も考えたことなかったわ』


 何気なく尋ねられた質問に僕も佳織も答えられなかった。冷凍睡眠状態ということは、眠っているのではなく仮死状態なわけだ。


 少し間を置いてからソムニが口を開く。


”もしかしたら、精神感応(テレパシー)とはまたちょっと違うのかもしれないわね。これといった手がかりがないから推測に推測を重ねることになるけど”


「いいよ。僕達は推測すらできないんだし」


”うーんとね、アタシが精霊と佳織の魂がくっついたのでできてるじゃない。その魂の方が肉体とわずかに繋がってて、佳織の記憶をや意識を受信してるのかもしれない”


「そして、それを僕に送信してるわけ?」


”そ! これが一番まともな推測かな”


「しかしそれなら、なぜわたくしに佳織の声を聞かせられないのですか?」


”あー、それはたぶん優太がアタシの起点になってるから”


「となると、僕はソムニと会う前に佳織の姿だけ見えてたのはどうしてなんだろう?」


”え? えーっと”


 何やから考えるほどに謎が深まってきた。ソムニもついに黙ってしまう。


 しばらくして佳織が声をかけてきた。


『今はあんまり大切なことじゃないから、このことは後回しにしない?』


”そ、そーね! そうしましょ!”


「まぁ、僕もそれで良いと思う」


「防衛機構に襲われなくなったとはいえ、長居しすぎましたね。早く行きましょう」


 最後はミーニアさんに促されて、僕達はようやく話を切り上げた。


 ソムニがシステムへ偽装登録してくれた後は静かに歩ける。たまにすれ違うロボット群も僕達を無視してすれ違った。本当に敵と認識されなくなったらしい。


 最初はおっかなびっくり進んでいた僕達だったけど、ソムニの偽装が完璧だとわかると堂々と進むようになった。これなら手に入れた地図の通り歩けば良い。


 そうして緊張感がなくなってきた頃に少し開けた場所に出る。幅を三倍ほどに広げたような通路だ。あちこちに大小の箱や機材が散らばっていた。通電しているらしく明るい。


 防衛機構が攻撃してこないのならば特に用のない場所だ。さっさと通り過ぎようとした。


 そのとき、突然ソムニに警告される。


”優太、ミーニア、左右に跳んで!”


 わけもわからずに僕は左、ミーニアさんは右に跳んで転がった。その直後、僕達のいた場所を銃弾が通過する。


 床を転がって物陰に隠れた僕は前を窺った。金属製の大きな箱と用途不明の大型機械が赤枠で囲まれている。あの奥に敵がいるらしい。


 いきなり攻撃された僕はソムニに小声で確認する。


「防衛機構はもう襲ってこないはずなんだよね?」


”ええ、襲ってこないわよ。あれは人間ね。アタシ達以外の侵入者だわ”


「上の人達が下りてきたって可能性は?」


”ないわね。真っ当なハンターならまず相手に声をかけるわよ”


 同士討ちになりかけているのなら声をかけてお終いにできたのにと僕は肩を落とした。そして、不意を突いてきたということは最初から僕達を殺すつもりなんだと知る。


 忘れかけていた緊張感を思い出した僕はどうやって反撃しようかと考えた。とりあえずもう一度向こうの様子を見ようと物陰から顔を出したときに、何かかが放物線を描いてこちらへ飛んでくることに気付く。


「何あれ?」


”手榴弾! この場を離れて伏せる!”


 言葉で鞭打たれた僕は急いで別の機材の山に隠れた。そうして体を縮こめる。


 一瞬の後、強烈な破裂音が二つした。どうやらミーニアさんにも投げ込まれたらしい。


「ふははは! 会いたかったぜ、ミーニアァ!」


 爆発音が途切れた直後、煙る周囲がまだ晴れきっていない間にその男は猛然と突っ込んで来た。僕にではなく、ミーニアさんに。


 何事かとその姿をちら見すると浅黒い男だった。体堂(たいどう)だ。


 まさかこんなところで会うとは思わなかったけど、そうなるともう一つ僕に手榴弾を投げた人物に見当が付く。


 前方を見ると物陰から物陰へと移りながらこちらへと近づいてくる姿があった。銃撃を加えると当たりそうな銃弾を腕で弾き返される。こちらは冷川(ひやかわ)だ。


 渋い顔をしている僕の右後方ではミーニアさんが遠慮なしの風刃(ウィンドウカッター)を体堂に撃ち込んでいる。


「またあなたですか。いい加減諦めたらどうなのです?」


「胡散臭いジジイに命令されてばっかでつまんねぇと思ってたけどよ、こんな運命的な出会いがあるなら悪かねぇな!」


 全然話を聞かない相手にミーニアさんは容赦なく魔法攻撃を加えた。けれど、勘が鋭いのか、大半を避けて可能なら素手で止めている。


 分の良い相手ではないらしく、ミーニアさんは逃げながら魔法で牽制していた。これはできるだけ早く助けに行かないといけない。


 けど、目の前の冷川はそう簡単に僕を放っておいてはくれなかった。的確に銃撃を加えてくる。


”ちょっと面倒ね。動きを解析しないと”


「それまで逃げ回らないといけないわけだね。よし、それじゃ時間稼ぎに話しかけてみようか」


”答えてくれるかしら?”


「ダメ元だよ。ねぇ、初めて魔窟(ダンジョン)で会ったときにいた魔法使いにおじいさんは近くにいるの?」


 冷川相手に僕が声をかけると、ふわっと黒い小さな塊がこちらに放物線を描いて放り込まれてきた。


”閃光弾! 逃げて!”


「うわぁ!」


 別の大きな金属製のコンテナの裏へと移った僕は耳を塞いで口を開いた。次の瞬間、強烈な閃光と爆音が発生する。


「冷川てめぇ、周り見て使いやがれ!」


 こちらとしては幸運なことに体堂にも影響があったようだ。主張は正しいけど、限られた空間で縦横無尽に動き回っていたらそんな目にも遭うと僕は内心思う。


 ともかく、理由は不明ながら体堂と冷川に僕達は待ち伏せされてしまった。こうなると迎え撃たないといけない。ただ、一度だけ会ったあの魔法使いの姿が見えないのが気がかりだ。どこで何をしているんだろう。

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