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小さな疑問

 年が明けた。周囲の山々には雪が積もり、風は刺すように冷たい。


 例年通り年末年始を迎えた僕はすっかりだらけきっていたけど、それも正月の間だけだ。年始の気分も抜けきらないうちに仕事場へと向かう。


 去年の暮れに魔物を駆除した魔窟(ダンジョン)からそう遠くない場所、小山一つを隔てた所に目的の遺跡の入口はあった。


 朝一番で現場にやって来た僕はミーニアさんと合流した。更に荒神(あらがみ)さんとも会おうとするとミーニアさんに告げられる。


「荒神はわたくしたちとは別のチームになると本人から聞いています」


「ということは、僕達二人だけで一区域担当するんですか?」


「はい。理由までは聞いていませんが」


 前日に実施された遺跡の予備調査の資料を読んでいた僕は眉をひそめた。遺跡内の防衛機構は生きていて、その攻撃が結構激しいという報告がまとめてあったからだ。


 不安を抱えながら僕はパソウェアの通話機能で荒神さんに通話してみた。本部よりも知り合いの方が聞きやすいからね。コール音二回で出てくれる。


大心地(おごろち)か。どうした?』


「おはようございます。チームが別々になるってミーニアさんから聞いたんですが」


『その件か。確かにその通りだぞ。ハンターの数が足りなくてな、一チームの単位が二人か三人一組に変更されたんだ』


「遺跡の中は防衛機構が活発に動いているんですよね。大丈夫なんですか?」


『ハンターは随時募集してて順次投入していくらしい。とにかく今は探索を急ぎたいんだとよ』


「なんでそこまで急ぐんです?」


『去年立て続けに襲撃されたからだ。待ってたらまた襲撃されるかもしれないからな。だから正月明け早々に探索を始めたんだと』


 理由についてはとりあえず納得できた。けど、それで危険にさらされるのは僕達ハンターなんだから正直困る。今回も犠牲者はたくさん出そうだな。


 僕が黙っていると荒神さんは続けてしゃべる。


『藤原によると、優秀な連中は二人組にしてるそうだから、お前さんらは見込ありって思われているんだろうよ』


「別に嬉しくないです。それじゃ、荒神さんは?」


『去年の襲撃であぶれた奴とペアを組むことになった。佐藤ってやつだ。一緒の車に乗ってたの覚えてるだろ』


「確かあごひげを生やしている人でしたよね」


『そうそう。斉藤は怪我でしばらく無理だから、あいつと遺跡に潜るんだ』


 機材輸送の護衛で一緒だった人のことを僕は思い出した。たくさんの犠牲者が出た中で、同じ自動車に乗っていた二人が無事だったのは数少ない喜びだったことを覚えている。


 知りたいことを聞いて荒神さんとの通話を切ると、今度はすぐに佐伯(さえき)さんから本部前に集合するようメッセージが届いた。


 訓示だとわかっているので僕達二人はのんびりと向かう。佐伯さんは既に立っていた。


 全員が揃うと佐伯さんが口を開く。


「初めての奴は新年明けましておめでとう。知っての通り、この探索チームは既に機能から稼働している。予備調査の結果はレポートとして上げてあるからみんなも読んでいると思うが、中の状況はかなり厳しい」


 というように事前会合(ブリーフィング)を兼ねた訓示が始まった。資料をあらかじめ読んでいる人にとっては大半が知っていることだ。


 気になっていた一チーム当たりハンターが最大三人という件にも言及があった。被害が大きく四人編成にするとチーム数が足りないからというのが理由なんだけど、予備調査で慣れた二人組なら何とか進めることがわかったから決断したらしい。


 自分がその中に入っているのが何ともむず痒いんだけどやるしかない。


 佐伯さんの訓示が終わると、僕達ハンターは順次遺跡へと入っていくことになった。今回は武器弾薬は多めに持っていくことを推奨される。なので僕は軍用背嚢(バックパック)に入れる予備弾薬を多めにしておいた。


 一方、ミーニアさんは服装こそいつもと同じ中世風というか異世界風の衣裳なんだけど、頭のてっぺんから足下までいくつもの装飾品を身に付けている。


「ミーニアさん、その髪飾りとかの装飾品って、今まで身に付けていなかったですよね?」


「これですか。確かに今回が初めてです。帰還のための品なのですが、どの程度使えるのか試すために身に付けているのです」


「へぇ、なんかすごい魔法を使えるようになるんですか?」


「いえ、そういう類いではありません。わたくしの体を巡る魔力を制御したり、効率良く魔法を発動させたり、威力を増幅させたり、あとは魔力を貯蔵しておいたりなどです」


 説明を聞いた僕だったけど、具体的にどういうことなのかはさっぱりわからなかった。とにかくすごいものということしかわからない自分の頭が恨めしくなる。


 そんな悔しい思いをしながらも僕とミーニアさんは遺跡の中へと入って行った。


 遺跡に入ってすぐにいつも思うことがある。それは、こんな古ぼけたところに現代でも役に立つものなんて本当にあるのかということだ。もちろん今までの経験であることは知っている。でも、感情的にはどうしても納得できないところがわずかにあった。


 今回もそうだ。設備が機能しているおかげで通路や部屋は暗くないけど、その荒れた様子からは役に立ちそうな物が見つかるとは思えない。


 ただ、割り当てられた区域に行くまではなかなか大変だった。遺跡の防衛機構がひたすら僕達を攻撃してくる。天井の隅から狙撃してくるレーザー銃、小銃が通用しない自立型警備ロボット(セキュリティーガード)、地味に嫌なトラップ群など多彩だ。


 ようやく自分達の担当区域にたどり着き、探索を始めるために休憩をする。


「これ、どう考えても僕とミーニアさんだけで進むの難しいですよね」


「不可能ではないのでしょうが、かなり歩みは遅いとわたくしも思います」


「ソムニ、防衛システムにハッキングってできないの?」


”配線の一本にでも触れてくれたら試せるけど、今のところないからね~”


 さすがに侵入経路がないとソムニもお手上げだった。僕も期待していなかったから責めはしない。


 けれど、ソムニの返答を聞いて僕は首をかしげた。夢の中の女の子は一体どうやって僕とやり取りしているんだろう。一定範囲内だと誰でも聞こえるってわけでもなさそうだし、ピンポイントで指向性の電波を飛ばしているんならどうやって僕の位置を知るのかな。


 そういえば、この遺跡に近いところで寝泊まりしたときだけはっきりと会話できたんだった。やっぱりここに何かあるのかもしれない。


 ぼんやりと考え事をしていると、ミーニアさんから声をかけられる。


「わずかにですが、この先に水の気配がしますね」


「水の気配ですか? 湧き水とかですか?」


”地下で湧き水なんてきついわね。地図があってもそれ以上は進めないじゃない”


「水を凍らせれば渡れることは渡れますが」


「それは最終手段ですね」


 水が漏れているということは、周辺の建築物なんかが脆くなっている可能性が高い。迂闊に進むと崩れて帰れなくなってしまう。


 気になった僕はミーニアさんに尋ねてみる。


「水がたくさんあったりするんですか?」


「ここからではそこまではわかりません。今は単にあるかないかくらいしか」


 何とも曖昧な話だ。気付かないよりかはましだけど。


 返答を受けて黙っている僕にソムニが声をかけてくる。


”とりあえず、行ってみるしかないでしょ。それに、水以前に防衛機構をどうにかしないといけないし”


「そうだね。それじゃ行こうか」


 ソムニの言葉に僕はうなずいた。さて、それじゃ休憩はお終いだ。


 立ち上がった僕とミーニアさんは自分達の担当区域を進み始めた。

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