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終わらない襲撃

 いきなり警備対象を破壊された僕達が次にできることは自分達の命を守ることだった。地面に伏せて四方から降り注ぐ銃弾を避けながら反撃する。


 襲撃者の目的が機材だけだと思っていた僕は、目的を達成したのだから相手はすぐに引き上げると思っていた。ところが、一向に敵の攻撃が止む様子がない。


 赤枠の敵を一人ずつ倒していきながら僕はソムニに尋ねる。


”こいつらの目的って機材だけじゃないの!?”


”アタシだって知らないわよ! この様子じゃ皆殺しも目的に入っているっぽいわね”


”何の恨みがあってそこまでするの!”


”少なくとも昨晩ぶちのめしたことは恨まれてるんじゃない?”


 指摘された僕は妙に納得してしまった。同時に、まだ半日しか過ぎていないのに随分と昔のことのように思えてしまう。


 赤枠の数が多いことに僕が苛立っていると荒神(あらがみ)さんからの通話が入ってきた。通話機能越しにも銃声が聞こえる。


大心地(おごろち)、生きてるか!?』


「生きてます! こっちは身動きできません! 敵が多くて隠れる場所が少ないくて!」


『同じだな! くそっ、いい場所で仕掛けて来やがった!』


「味方は何人生きてるんですか?」


『十五人くらいらしい。けど、このままじゃジリ貧だ』


 同意見だけど、僕は何をどうすれば良いのかわからなかった。焦りつつも反撃を続ける。


 そんな僕に対してソムニが提案してくる。


”ちょっと厳しいけど敵のいる方に迫って突破しましょうか”


”蜂の巣にされない? 敵があんまりいないところの方が良いと思うけど”


”そういうところは罠が仕掛けてある可能性が高いのよ。わざとそこへ追い込んで一網打尽にされる事例は山ほどあるわ”


”うっ、それじゃ仕方ないか”


 あっさり論破された僕は少し意気消沈した。けど、めげてる暇はない。すぐに荒神さんへと相談する。


「荒神さん、敵の包囲網を突破しましょう!」


『できるんならやってる! どこから突破するんだよ!?』


”アンタの正面からにしましょ。こっちの方が他と比べて敵の数が多すぎも少なすぎもしないわ。つまり、少なくとも罠はないってことよ”


「僕の正面からです! 敵の数はあんまり多くないですから。それに、こっちに罠は仕掛けてないでしょう」


『だといいな! ちょっと待ってろ!』


 ソムニの提案をおおよそ伝えると荒神さんは納得したらしかった。反論もせずに受け入れてくれる。


 待っている間、僕は一人でも襲撃者の数を減らすべく反撃していった。赤枠の動きを見ていると、手薄になったからといって他の場所からカバーが入るわけではないようだ。この状況が続けば何とかなるかもしれない。


 しばらくすると荒神さんが随伴車両の陰から姿を現した。その表情には余裕がない。僕の隣に伏せる。


「本当に敵は多くないんだろうな? あっちは他の奴らに任せたが、結構ぎりぎりなんだ」


「あの正面の住宅に敵が何人かいますけど、左手の畑の向こうの山の際には今は誰もいません」


「なんでそんなことがわかる?」


「最初に何人か倒してから、山の際からは一度も攻撃されてないからです」


「なるほど。となると住宅に取り付いて建物沿いに進んでいけばいいわけだ。よし、やるか!」


 僕の意見を聞いた荒神さんが笑顔を向けてきた。


 他の仲間からの支援は期待できないから僕達二人だけでやらないといけない。まずは身動きが取れるくらいまで襲撃者の数を減らさないといけなかった。


 もちろんそんな簡単にはいかない。相手だって死にたくないんだから物陰に隠れている。それを僕がつり出しては荒神さんが仕留めるということを繰り返して倒していった。すると、ある時点から急に反撃がまばらになってくる。


「もういいだろう。大心地、前に出る。援護してくれ」


「わかりました!」


 うなずいた僕を見た荒神さんが前を向いて走り出した。その荒神さんに銃を向けようとする襲撃者が現れると僕は撃っていく。


 目差す住宅の手前にある背の低い壁に荒神さんは滑り込む。立つと上半身が露出するけど、座ると体を丸々隠せるブロック塀だ。


『よし、いいぞ。いつでも来い!』


「はい!」


 こちらへの射撃が止んだ隙を突いて僕は走り出した。距離は六十メートル程度、大した時間はかからない。


 これならいける、そう思ったとき、何か嫌な予感がした。何とはなしに顔を上げると、先にある住宅の屋根の上に誰かが立っている。さっきまで誰もいなかったのに。


 その誰かは大きく飛び上がると僕に向かって落ちてくる。


「え?」


「死ぃねぇぇ!」


 明確な殺意を僕に叩き付けながら男が手にしている小銃を乱射した。まっすぐ走れば命中すると理解すると僕は横に跳ぶ。


 地面に転がった僕が立ち上がるのと地面に着地した男が僕に振り向くのがほぼ同時だった。この浅黒い大男は見たことがある。体堂だ。


 見たところ強化外骨格を装備していなさそうだったので、こいつもサイボーグ化しているのかと思った。でないと二階建て住宅からあんな飛び降り方なんてできない。


 顔をしかめて体堂と対峙する僕に荒神さんが声をかけてくる。


『大心地、そいつは!』


「ミーニアさんを狙ってるストーカーです。先に行っててください。この人に構い過ぎて包囲網を突破できないと味方が全滅しちゃうんで」


『ちっ、わかった』


 話が終わると荒神さんは壁を乗り越えて住宅へと走って行った。これで遠方の襲撃者を除けば、この近辺には僕と体堂だけになる。


 銃を突きつけ合った僕達は少しの間黙って対峙していた。けど、先に体堂が口を開く。


「鬱陶しいヤツがいると思って来てみれば、てめぇはミーニアのペアだったか。おい、ミーニアはどこにいる?」


「ここにいないのは確かですね。何回もフラれてるんですから、いい加減諦めたらどうなんですか?」


「うるせぇよ!」


 逆上した体堂が小銃の引き金を引いた。


 それよりも一瞬速く僕が動く。直前までいた場所を複数の銃弾が飛び去った。こんな芸当ができるのもソムニの予測のおかげだ。


 文字通り紙一重で避けながら僕も反撃する。体堂も避けようとしたが一発だけ脇腹に当たった。けれど、何の反応もない。


「あれ、どうして?」


「ははは! 弾が当たったのに平気なのがそんなに不思議か? オレみたいな上位の人間になると体を超人化してんだよ! そんな豆玉なんぞ効きゃしねぇ!」


 実に楽しそうに笑う体堂が小銃を捨てて間合いを詰めてきた。


 小銃は使えないと判断した僕は対魔物用小型鉈を抜いて左手に持つ。すぐに体堂が殴りかかってきたので横に避けた。その際伸びた腕を切りつけようとしたけど、嘘みたいな速さで引き戻されて空ぶる。


 本能的に格闘戦はまずいと判断して尚も距離を離そうとするけど、体堂は僕が向ける銃口をまったく恐れることなく突っ込んで来た。今度は連続して殴りつけてくる。


「どうしたぁ! 反撃しねぇと死んじまうぞぉ!」


”挑発に乗っちゃダメよ! たまに斬りつけて牽制して!”


 ソムニに言われるまでもなく、格闘戦では体堂の方が圧倒的に上だということは理解できていた。まともにやり合って勝てるとは思えない。何としても避け続ける。


 反撃する糸口もなければ、加勢してくれる人もいなかった。その上で自分よりも強い相手と戦い続けるというのはきつい。


”ソムニ、これどうするの!?”


”もうちょっと待って! こいつの癖さえわかれば!”


 つまり解析できるまでしのぎ切れということだった。徐々に押されていく趨勢に焦りを覚えながらも、それならばと我慢する。


 ただし、体堂に捕まるまでもうあまり時間はなかった。

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