輸送警備
遺跡探索機材で輸送するのは魔法の道具のみになった。すべての機材をまとめて輸送しようとすると、輸送車両一台に対してハンターの数が少なくなるかららしい。
輸送車両二台に載せた魔法の道具の移送先は軍用兵器を取り扱う倉庫だ。ここなら警戒は厳重だから襲撃者も手出しはできないと聞いている。
遺跡探索機材の輸送車両への積み込みは倉庫関係者がやってくれた。さすがに本業だけあって丁寧で手際が良い。
輸送中の警備は主に僕達ハンターが担当する。警備は、輸送車両一台につき佐伯警備の警備員二人で二台、随伴車両一台につきハンター四人で四台となっている。
もちろん僕と荒神さんもこの中にいた。輸送車両の後方を走る随伴車両二台のうち前の車両の後部座席で待機している。
「慌ただしかったですね」
「いきなりだったからな。乗っちまえば後は何もないことを祈るだけなんだが」
外の様子を見ながら僕と荒神さんがやや小さい声で言葉を交わした。
佐伯さんから説明を受けた僕達ハンターは、その場で随伴組と居残り組を誰にするかをまず決めた。次いで移動中の車両の配置を確認してから誰がどの車両に乗るかを振り分けていく。そして、輸送車両と随伴車両の確認と佐伯警備の警備員との顔合わせが続いた。
昼ご飯も合間に挟んでいたから一連の流れは慌ただしかったな。朝の間に少しでも横になっていて良かった。でないとふらふらなまま輸送警備をすることになっていたよ。
ちなみに、僕と荒神さんの前の座席に座っているのは佐藤さんと斉藤さんというハンターだ。微妙に区別しづらい名前だけどいずれも十年以上の経歴を持つベテランである。
あごひげを生やしている佐藤さんが助手席でぽつりと漏らす。
「ここから一時間の旅なんだが、襲ってくるやつらはいるのかな」
「昨日の今日でまた襲撃されるのは勘弁してほしいぜ。こっちはほとんど寝てないんだ」
彫りの深い顔の斉藤さんがぼやいた。人によっては襲撃後も警備があったり警察の対応をしていたりしていたから寝不足の人も少なくない。
佐藤さんと斉藤さんの話は続く。
「こっちは警備員入れて二十人、普通ならビビッて襲ってこないんだけどな」
「それを言ったら、昨晩の襲撃だってありえねぇだろ。俺達ハンターがいるって知らなかったとしても、普通財閥の倉庫なんて襲うか?」
「言えてる。立ってるだけの仕事だと思ってたから正直ナメてたところはあった。俺が外回りの警備だったらやられてたかもしれん」
「おいおい、油断しすぎだろ」
「何言ってんだ。お前だって大して変わらなかっただろ。だからこそ、後ろの二人には感謝してんだ。あんたら、よく敵の襲撃に気付いたな」
話の先を向けられた僕はどう答えるべきか迷った。褒められるのは嬉しいけど、どう対応したら良いのかわからない。
一方、荒神さんの方は慣れたものだった。肩をすくめて返答する。
「たまたまだよ。やつら、北の門を開けて入って来やがったんだ。まさかあんな礼儀正しいとは思わなかったね」
「はは、外壁はよじ登ってきたのにそこだけ律儀だったんだな。それならいっそのこと、正面玄関から入って来てほしかったぜ」
苦笑いしながら佐藤さん同意した。
のんびりと二人の話を聞いていると、斉藤さんが僕に話しかけてくる。
「そういや、お前ってジュニアハンターなんだってな。よくこの仕事を引き受けられたな」
「僕も不思議だなとは思ってます。回りにジュニアハンターが一人もいないんで不安になりますけど」
「俺がそんくらいのときは、まだ何にも考えずに遊んでたなぁ」
「ジュニアハンターにはなってなかったんですか?」
「あんときは興味なかったからな。高校卒業してからだ」
色々な経緯をたどってハンターになることは僕も知っていたから、それ以上は聞かなかった。明るい話ばかりとは限らないからね。
車内で話をしているうちに僕達輸送集団は人気のない場所に入った。二車線で両脇は放棄された畑や空き家が点在していて右側には小さい川が並走している。更にその両脇は山麓だ。ちょっとした谷間と言える。
その風景を見ていた荒神さんは眉をひそめた。しばらくしてつぶやく。
「イヤな地形だな」
”襲ってくるならここでしょうね。優太、警戒しておきなさい”
ソムニからも警告されていよいよ本当に危険なんだと僕は知った。自分の武装に視線を向ける。完全装備で車内にいるのは狭苦しいけど、今はこの装備が僕の命綱だ。
更に走り続けていると、佐藤さんの顔が険しくなる。
「おかしいな。さっきから対向車線に車が一台も走ってねぇぞ」
「山ん中だからだろ? 俺が山陰の道を車で走ってたときなんて三十分くらいは自分一人だったことがザラだったぜ」
「そんな田舎道と一緒にすんな。この道は町と町を繋げるバイパスなんだ。平日の昼間ならもっとひっきりなしに走ってなきゃおかしいんだよ」
斉藤さんの意見をばっさりと切り捨てた佐藤さんは、すぐに全車両へと警告メッセージを送った。すぐに全車両から反応が返ってくる。
後部座席でその様子を見ていた僕と荒神さんは周囲へと真剣な眼差しを送った。
襲撃があるのならいつなんだと緊張していると、ソムニが僕に警告してくる。
”来るわよ!”
その鋭い声と共に僕の視界には赤枠は次々と現れた。正確には敵のいる地域に僕達が入って行ったんだけど、今はそんなことはどうでも良い。
車両が減速する。パソウェアの通話機能で自動車が道を塞いでいるという連絡があった。どう考えても罠だとみんなも気付いている。けど、どうにもならない。
『全員、全周囲を警戒! バックするぞ!』
誰かが通話機能越しに叫んだ。ここでじっとしていてもやられるだけなのは目に見えているから必死だ。
僕も後部座席の窓を開けて銃を構えた。射撃範囲に赤枠が二つあるから、遮蔽物から出てきたらすぐに撃てるように待つ。
一旦停まった車両が後退し始めた。そのとき、遮蔽物に隠れていた襲撃者が姿を現す。一人は小銃を構え、もう一人は大きな筒を肩に担いでいた。
僕は迷わず筒を担いでいる方を狙う。引き金を引くと発砲音と共に白い線に沿って銃弾が襲撃者の顔に吸い込まれた。直後に敵は仰向けに倒れる。
「敵襲!」
叫ぶと同時に僕はもう一つの赤枠に向かって銃撃を加えた。けど、その叫びも銃声も後方の爆発音にかき消されてしまう。
振り向くと、最後尾の車両が爆発していた。車両の左右から一人ずつが飛び出したのを見る。
「後ろも塞がれた! 大心地、出るぞ!」
荒神さんの声を背中に聞きながら僕は急いで車両から出た。最後尾の車両から脱出できなかった人達のようにはなりたくない。
地面に伏せて周囲を見ると赤枠がいくつも見えた。仲間のハンターや警備員は青枠で囲まれているけど、明らかに赤枠の方が多い。
順番に倒していくしかないと腹をくくった僕は赤枠内の敵に反撃を始めた。とにかく数を減らさないと動けない。
ところが、不幸は更に続く。最後尾の車両に続いて、魔法の道具を積んだ輸送車両が続けて二台とも爆発したんだ。
「え?」
輸送対象をいきなり失った僕は呆然とした。そりゃ対車両兵器を持ってたら使うことは理解できるけど、いきなり任務失敗になるなんて予想外だ。
ではこれで襲撃者の目的は達成されたのかというとそうではないらしく、攻撃は今続いている。どうも僕達を殺すことも目的の内らしい。
そうなると何としても襲撃者を撃退しないといけない。僕は攻撃してくる敵へと順に反撃していった。




