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警備と襲撃

 遺跡探索のための機材が保管されている倉庫は二十四時間警備だ。けれど、僕達がずっと見張っているわけじゃない。


 昼間は通常の警備員だけがいつもどおり警備して、夜間に僕達ハンターが一緒に守るんだ。襲撃するのなら普通は夜だしね。


 なので、僕達ハンターは二人あるいは三人一組になって割り当てられた時間に定められた場所を守ることになっていた。


 荒神(あらがみ)さんと組んだ僕達は倉庫北側の周辺警備だ。昼間なら北の端に別地区との境界である壁が見える。また、壁と倉庫の間は野ざらしできる資材を置く広場だ。


 短期保管の資材がビニールシートを被せされてあちこちに置かれている場所を、僕は荒神さんと一緒にゆっくり歩いて回る。


 時刻は夜の一時過ぎだ。早めに寝て一応睡眠時間は確保したけど、いつもならもう寝ている時間なので眠い。更に、強化外骨格をはじめ装備一式を身に付けた僕は震えていた。


 手を擦りながら僕はつぶやく。


「寒い。厚着してもこれかぁ」


「確かにたまんねぇな」


「倉庫の中の方が良かったなぁ」


「そんなに変わんねぇぞ。何せ物を置いておく場所だからな。人が快適に過ごせることなんてまったく考慮されてねぇし」


「事務所は暑いくらい温かいんですけどね。あの十分の一くらいでも分けてくれないかな」


「カイロは持ってこなかったのか?」


「持って来てますけど、手足の先が冷たくて」


「手袋型と靴下型のカイロを買ってないのか。俺はそうだぞ。ほら」


「いいなぁ! 僕も買っときゃ良かった。この辺のコンビニで売ってますよね?」


「この倉庫近くは半々だな。何しろみんな買っていくから、行ったときにあるかは運次第だ」


 ちらりと見せてもらった手袋は見た目が通常のカイロと同じ材質っぽかった。温かくなりすぎて暑くならないように発熱の温度は抑えられているらしい。


 明日絶対に買いに行こうと決意すると前を向く。点在するビニールシートの塊が見える以外はほとんど黒一色だ


 警備の時間は夜の一時から三時までの間でそれまでは持ち場をぐるぐると回り続ける。じっとしているよりかましと荒神さんは言うけど、寒いものはやっぱり寒い。


 巡回が始まって眠いわ寒いわでもう帰りたくなってきている僕だったけど、ソムニに声をかけられて意識を覚醒させる。


”監視カメラに誰かハッキングを始めたわね”


”なんでそんなことがわかるの?”


”だってアタシも使ってるんだもん。あ、乗っ取られそう”


 随分とのんきな口調でソムニが大雑把に実況してくれた。けれど、今の僕には何もできない。ソムニが違法なことをしていることもバレてしまうからだ。


”突破したわね。へぇ、やるじゃない”


”もう突破されたの!? だったら、監視カメラ全部が使えなくなるのかな?”


”全部じゃないわね。こいつら、特定の監視カメラだけ何事もない映像を表示し続けるように細工をしたわ”


”ということは、そこから侵入してくるんだ”


”そうね。経路は北東の外壁からここの北隣の地区経由でやって来るみたいよ”


”僕達の真正面じゃないか!”


”どうにかしないと真っ先にやられちゃうわね”


 思わず生唾を飲み込んだ僕は北側の壁に目を向けた。コンクリート製の壁で確か厚さはそんなになかったはず。両開き白い鉄製の門は中型トラックがすれ違えるくらいの幅がある。今は鍵がかけられているけど、本格的な戦闘には耐えられるものじゃない。


 壁から倉庫北側までにはビニールシートに包まれた資材が点在している。大きさはまちまちで、二メートル以上の高いものもあれば、五十センチメートル程度の物もあった。


 そのうち、北側の壁に東側から順に赤枠が西側へと移動してきた。まだ何の騒ぎも起きていないということは見つかっていないと考えるしかない。


 壁の奥にいる集団は五人、十人と数を増やし続け、白い鉄製の門の前で止まる。


 さすがにここまできたら僕にも何をするのか予想できた。あの扉をこじ開けて倉庫に入るつもりだ!


 どうにかしないといけないと思った僕は立ち止まって白い鉄製の門へと顔を向けた。横を歩いていた荒神さんは怪訝そうな表情を向けてくる。


大心地(おごろち)、どうした?」


「何か扉の方で音がしたような気がして」


 とっさに僕は嘘をついたけど、しばらく荒神さんと白い鉄製の門を見ているとかすかに動くのをみた。そして、一瞬だけ何か金属製の音がしたと思うとゆっくり扉が開く。


「荒神さん」


「こんな時間に搬入予定なんて聞いちゃいねぇよな。俺は右側から攻撃する。お前さんは左側からだ。俺が簡易照明弾を撃つから、それを合図に攻撃しろ」


 うなずいた僕は配置につくと白い鉄製の門へと目を向けた。扉から一人ずつ黒い影が入ってくる。


”武士が本部に連絡を入れたわ。これで奇襲されることはなくなったわよ。あとは、アンタ達がここでどれだけ頑張れるかね”


”できるだけ頑張らずに済む方が嬉しいなぁ”


”増援が早く来るか、敵が腰抜けかのどちらかを期待するしかないわね”


 ソムニが言い終わるとすぐに荒神さんが撃った簡易照明弾が打ち上がった。その瞬間、僕は目に付く赤枠へと片っ端から銃弾を撃ち込んでいく。


 もちろん侵入者も黙っているはずはなかった。隠密行動がばれた時点で一斉に反撃してくる。こちらは二人に対してあちらは十数人と数の差がそのまま飛び交う銃弾の数に反映された。


 真正面から撃ち合うと負けることは最初からわかっていたから、僕は資材から資材へと駆けては隠れて敵を撃っていく。ソムニの索敵能力があってこそできる大胆な行動だ。


 けど、それでもきつい。たまにソムニの警告を聞いて反撃をかわしつつ敵の裏をかく。


「手榴弾とか持って来たら良かった!」


”今更ね! でもこの調子だといい感じに敵を足止めできてるわよ!”


「そうかな? どんどん敵が倉庫に向かっていくのを何度も見てるよ!」


”どうせ二人だけで全員なんて抑えられないんだからそこは諦めなさい。それに、倉庫にいる連中にも仕事をさせるべきよ”


 気付いたら背後の倉庫近辺からも銃撃音が聞こえていた。四方八方から銃声が聞こえるから、僕の感覚ではもうどこで何が起きているのかわからない。


 そのときふと荒神さんの存在を思い出した。周囲に真剣をとがらしながらパソウェアの通話機能を音声のみで立ち上げる。


「荒神さん、生きてます!?」


『生きてるぞ! お前さん今どこにいるんだ? こっちからは見えねぇぞ!』


「門のちょっと左側の資材裏です。こっち側から少し大回りして倉庫に向かう敵がいたんで」


『そのまま踏ん張ってろ! 味方がもうすぐ来る! 倉庫の連中はうまくやってるそうだから無理はすんなよ!』


「はい!」


 通話を切るとまた周囲に意識を向けた。赤枠の数は撃つ度に減るけど白い鉄製の門から入ってくるからなかなか減らない。


”あと何人いるの?”


”門の奥に十人、こっち側に十四人ね。ちなみに、アンタと荒神で十人倒してるわよ”


”増援はどのくらいで来そう?”


”三分以内ね。ただし、倉庫を優先するでしょうから、こっちに来るのはもうちょっと後になるわよ”


 ソムニの指摘を聞いて僕は顔をしかめた。わかっていたけど、いざ言われると嫌だな。


 そうは言っても、投げ出すわけにはいかない。ここが踏ん張りどころだ。倉庫内の機材が破壊されると来年の遺跡探索ができなくなってしまう。


 簡易照明弾の効果はもうなくなって当たりは暗い。ソムニの支援のおかげで敵の位置には困らないがやりにくい。


 今度暗視装置を買おうと僕は心に決めながら引き金を引いた。

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