人手不足なので助けてほしい
終業式が午前中に終わるといよいよ冬休みだ。僕の場合は既に冬休みみたいなものだったけど、補講を休んで何となくあった後ろめたさがなくなったのは嬉しい。
昼からは第二公共職業安定所へ行って訓練をしつつ、この一週間でどんな依頼を引き受けようかと考えていた。けど、ここで一つ問題が発生する。
夕方、帰宅して自室に戻ってからミーニアさんに相談するため、パソウェアで通話することにした。コール音四回でミーニアさんがバストアップ表示される。
「ミーニアさん、ちょっと相談したいことがあるんですが」
『構いませんよ。何でしょう?』
「これから年末までの予定についてなんですが、どの依頼が良いか話し合いたくて」
『その件についてなのですが、わたくしからも話があります』
「ミーニアさんも?」
『はい。実は今年いっぱいはハンター活動ができないのです』
「どうしてですか?」
『わたくしが魔法の道具を作って販売していることは前に言いましたよね。あちらの仕事が今忙しくて手が離せないのです』
珍しく申し訳なさそうな表情をしたミーニアさんを見た。そういえば主な収入源はそちらだったな。そうか、そんなに繁盛しているんだ。
驚きで固まっている僕に対してミーニアさんが謝罪してくる。
『ペアを組んでいるというのに申し訳ありません。急に注文がいくつか入ってきたものですから』
「そっちの仕事が中心だとは前から聞いていたので構いません。でもそうなると、依頼を受けるとなると僕一人になるんだ」
『一人で受けてもらう分には問題はありません。正月明けは大丈夫なのですが』
「わかりました。それじゃ年末の予定は自分一人で組んでおきます」
あえなく当てが外れた僕はミーニアさんとの通話を切った。バストアップ表示されていた立体映像が消える。
それと入れ替わって、ソムニが目の前に現れた。そういえばこの妖精、真冬なのに素っ裸だ。寒くないのかな。寒くないんだろうな。
「残念ねー。どうする? 一人で依頼を受ける?」
「どうしようかなぁ。一人だとそんなに良い仕事はなさそうだし。ずっと訓練でも良いような気がしてきた」
「前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない意見ね。まぁでも、実際迷っちゃうわよねぇ」
見慣れた依頼一覧法を僕はゆっくりとスクロールしてそのタイトルを見ていった。検索条件をチームから単独に変更したから内容が一新される。
良い条件や面白そうな依頼はめざといハンターに取られていた。この残りから選ぶとするとどれにしようかとやや後ろ向きな姿勢で迷う。
渋い顔をしながら僕が半透明の画面とにらめっこをしていると、パソウェアの通話機能からコール音が聞こえてきた。相手は藤原さんだ。珍しい。
不思議に思いつつも僕は通話機能を起動させる。
「こんにちは、藤原さん。どうされました?」
『少しお願いがありまして、お電話いたしました』
「僕にお願いですか? どういった用件です?」
『先日、探索予定の遺跡近くにある魔窟内の魔物駆除をしていただきましたよね。そして、初日に敵対者の襲撃を受けてハンターに多数の死傷者が発生したこともご存じかと思います』
「ええ、覚えてます。まさかあんなに多いとは僕も思いませんでした」
『それで、あの死傷したハンターやそのチームの多くはこの後の仕事も契約していたんですが、履行できなくなってしまったんです』
「なるほど」
『そこで、急遽大心地様にお願いできないかと思いまして、ご相談させていただきました』
どうしていきなり藤原さんが電話をかけてきたのか僕は理解できた。猫の手も借りたい状態であろうことは簡単に想像できる。
でも、こっちはこっちで悩ましい事情を抱えていた。まずはこれを伝えないといけない。
「事情はわかりました。けど、こちらもちょっと困った状態なんですよ。まずはそれを聞いてから判断してください」
『承知しました。それで、その困った状態というのは?』
「実は、ミーニアさんが年内はハンター活動ができないそうなんですよ。ですから藤原さんの申し出を受けるとしたら僕一人だけなんです」
『まぁ、そうなんですか』
さすがに二の句を継げなかった藤原さんが黙った。バストアップ表示された立体映像の表情が驚いたものになっている。
「どうですか?」
『そうですね。年内はということですから、年明けは大丈夫なんですか?』
「正月明けからは大丈夫だと本人は言っていました」
『でしたら、年内の仕事は大心地様のみで、年明けからはミーニア様もご一緒ということでよろしいですか?』
「どんな仕事なのかにもよりますが、ミーニアさん本人が良ければ。ちょっと今から本人を呼びますね」
さっき通話したばかりでまた呼び出すのは気が引けるけど仕方ない。意を決して再びミーニアさんに連絡する。
少し驚いた様子のミーニアさんが現れると僕は手短に経緯を説明した。すると、すぐに納得してくれる。
『話はわかりました。わたくしは仕事を引き受けるのならば年明けからになります。それで藤原さん、その依頼内容というのはどういったものなのですか?』
『年内の依頼は遺跡探索の機材を警備する仕事で、年明けの方は遺跡探索のメンバーの一員として参加していただくというものです』
”願ってもないチャンスじゃないの。これは引き受けるべきね”
今まで黙っていたソムニが口を挟んできた。もちろん言われるまでもなく僕も内心でうなずく。
前向きな僕とソムニに対してミーニアさんは冷静だった。疑問点を尋ねていく。
『機材の警備は保管場所の警備員がするものではありませんか?』
『もちろんそうなのですが、先日ハンターが襲われた件もありますから機材の保管もあまり安心とは言えません。そこで、探索メンバーのハンターにも参加していただこうということになりました』
『なるほど、それで年明けの探索まで警護するわけですね』
『はい』
「ちょっと待ってください。年末年始も警護するんですか?」
『希望者は休んでもらっても構いません。年末以降は我が財閥系列の警備会社から人員を都合できますので、事前に申し出てもらえれば調整します』
さすがに年末年始は休めるらしいことを聞いて僕は安心した。僕にとって依頼を辞退する選択肢はないだけにこの条件はうれしい。
それ以外にも細かいことをミーニアさんが尋ね、藤原さんが答えていく。淀みない質疑応答に僕が口を挟む余地はなかった。
やがて二人の話し合いが終わると、ミーニアさんが僕に顔を向けてくる。
『優太、今の条件でしたらわたくしは受けても構いません。あとはあなた次第です』
「そうですか。それじゃ年内は二十九日まで、年始は五日からということで良いですか?」
『承知しました。それで引き受けてくださるのですね』
「はい」
『ありがとうございます』
『資料は後日わたくしと優太宛に送っておいてください。それでは、わたくしはこれで』
話し合いが終わるとミーニアさんはすぐに通話を切った。そういえば、今忙しくしていることを思い出す。
『今日中に詳しい資料をお届けしますのでご覧ください。質問はメッセージにしていただければご返答いたしますのでお気軽に。初日は二十五日ですのでお間違えなく』
「わかりました」
『それでは、私もこれで失礼いたします』
丁寧な一礼と共に藤原さんは通話を切った。
僕は大きく息を吐き出す。なんかいきなり話が飛び込んできて決まったな。
ともかく、近日中の依頼に備えて僕はソムニと準備を始めることにした。