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拮抗する力(荒神武士、ミーニア視点)

 大心地(おごろち)がいきなり振り向いて銃を撃ったとき、一体何事かと訝しんだ。その先には何も見えなかっただけに気が触れたのかとも一瞬思う。


 だが、何もないはずの左側の通路から三人の人影が現れたことで認識を改めた。ハンターらしき二人と魔法使いっぽい奴が一人が襲いかかってくる。


「くそ、敵がいたのか!」


 悪態をつきながら俺も三人に銃を向けた。魔法か何かで姿を消していやがったな。


 仲間に指示を出す暇もない。一番左側にいる角刈りの厳つい風貌の男が発砲寸前だったから、俺も迷わず引き金を引く。


 ほぼ同時に発砲しつつ俺は左腕に取り付けていた簡易展開盾(スモールシールド)を展開する。手首当たりを中心に直径八十センチメートル程度の丸盾が現れた。


 敵の銃弾をはじき返す音を聞きながら俺も反撃する。


「なんだありゃ!?」


 見たところ強化外骨格を装備していなさそうなのに、生身の人間にしては異常に素早い身のこなしで大半の銃弾を避けやがった。しかも、たまに命中したかと思えば腕で銃弾を弾いただと!


「あいつ、サイボーグ化してやがんのか!」


 人間離れした身体能力をの理由を察した俺は顔をしかめた。生身の一部を機械と交換したことで得られる身体能力は強化外骨格に引けを取らない。


 今までの動きから少なくとも手足は機械に換装しているだろう。こういった手合いは体をサイボーグ化することにためらいはない。高い確率で頭の中にAIチップも埋め込んでいるはず。つまり、処理能力も抜群というわけだ。


 簡易展開盾(スモールシールド)で銃撃を受けながら俺も小銃で反撃する。通路内は遮蔽物がない上にそれほど広くないから銃撃戦はかなりきつい。


 条件は相手も同じはずだが、俺からはあまり苦しんでいるようには見えなかった。神経まで加工処理しているとなると、強化外骨格を装備しているだけの俺は不利だ。処理能力が追いつかない。


 形勢が徐々に不利へと傾いていく中、相手は突然突っ込んで来た。銃を乱射しつつ距離を詰めようとしてくる。


 距離を離そうと小銃を撃ちつつ後退しようとするが途中で弾切れとなった。弾倉を交換する時間はない。仕方なく小銃を手放して対魔物用小型鉈を抜いた。


 次の瞬間、相手が殴りかかってくる。


「くそっ!」


「いい判断だな。やるじゃないか」


 どうも俺の行動を目の前の相手が褒めたらしい。無表情だから褒められたというより冷静に指摘されたという気になってしまうが。


 ただ、攻撃の手はまったく緩まなかった。ボクシングのように拳で殴りつけてきたかと思うと、思い出したかのようにローキックを入れてきやがる。格闘戦になると考えて対魔物用小型鉈を引き抜いたまでは良かったが、使う機会が全然ねぇ。


「こなくそっ!」


 それでもやられっぱなしというのはまずい。何でもいいから反撃するべく、牽制紛いに突き出された腕を斬りつけてやった。ところが、袖と薄皮一枚を斬っただけで弾かれてしまう。この感触はやはり機械か!


 まるで避ける気がなかったということは、鉈程度の攻撃なんぞ効かないと考えているわけか。となると、両腕と両足は換装してるんだろうな。残るは頭と胴体だが、大きく踏み込むとこっちが捕まっちまう。


 まずい、じり貧だ。


 対人戦の用意をまったくしていなかったこともあって打つ手がない。このまま長期戦になれば不利になる。


 内心焦りながら、この状況を打開する方法を俺は考え続けた。


-----


 優太を吹き飛ばして向かってきた浅黒くて体格の良い男に見覚えがあった。以前レッドサラマンダーに勧誘してきた男、体堂(たいどう)です。


 その体堂が叫びながらわたくしのところへと走ってくる。


「ふはははぁ! ミーニアァ、会いたかったぜぇ!」


「迷惑ですね。勧誘はきっぱりとお断りしたではありませんか」


「てめぇはオレのもんなんだよぉ!」


 魔法によって身体能力を強化したわたくしは、素手で襲いかかってくる体堂の突進を横に跳んで躱しました。わたくしを押し潰すつもりですか。


 あの速度ですと立ち止まるまで少し時間がかかるので距離を稼げるとわたくしは判断しました。その考えの基に次の手を考えます。


 ところが予想外なことに、体堂はわずか数歩先で突進の勢いを完全に止めてこちらに振り向くと、またしてもわたくしに向かって来るではありませんか。


「そう逃げるなよぉ! 抱きしめてやるぜぇ!」


「何を気色の悪いことを」


 充分な間合いが稼げなかったために応急処置で魔法を一つ唱えました。後退するわたくしの足下から石板(ロックボード)が急速に延び出てきます。


 体堂の姿が石板(ロックボード)で見えなくなると、わたくしはすぐに横へと飛びました。何となく嫌な予感がしたからです。そして、その勘が正しかったことはすぐに証明されました。決して薄くない石板(ロックボード)が破砕されたのです。拳によって。


 元いた場所に破片が吹き飛ぶのを見ながら、わたくしは魔法を唱えてすぐに放ちます。三本の氷槍(アイスランス)が体堂めがけて高速で飛んで行きました。


 しかし、何ということでしょう。一本は右腕で弾かれ、一本は左手で掴み取られ、最後の一本は腹に命中したのに突き刺さりませんでした。


 顔がこわばるわたくしに対して体堂が笑いかけてきます。


「くくく、肉体を強化しているオレには、この程度じゃ通用しないぜ?」


「薬物投与などを施すあの処置ですか」


「違う違う、そんなチャチなヤツじゃねぇよ。超人化技術って知らねぇのか? 耐性や快復力を大幅に強化できるんだ。上流階級御用達の安全な技術さ」


「あなたもそれを施していると?」


「そうなんだ。とは言ってもあれはべらぼうに金がかかるから全部ってわけにはいかねぇけどな」


 わざわざ体堂が説明してくれたおかげで魔法が通用しない理由は判明しました。しかし、状況を打開する方法はないままです。


 会話が成立したことで発生した奇妙な間を維持し、わたくしは優太か荒神のどちらかを待とうとしました。どうにも戦いにくい相手に思えたからです。


 けれど、さすがにそれは体堂の望むやり方ではなかったようでした。にやにやと笑いながら再びわたくしに近づいてこようとします。


 やむを得ず、わたくしも魔法の呪文を唱えました。先程と同じ石板(ロックボード)を地面から突き出したのです。ただし、今度は体堂の足下に小さな出っ張りのような感じで。


「うおっ!?」


 わたくしに気を取られていた体堂は、足下の出現した小さな石板(ロックボード)に足を引っかけてくれました。そして、思惑通り地面に転びかけます。


 そこへ続いて地面から岩槍(ロックランス)を三本撃ち出しました。倒せればそれで良し、そうでなくても時間稼ぎになればと願って。


「おもしれーことすんなぁ!」


 体に岩槍(ロックランス)がぶつかるのを無視して、体堂が前転の要領で体勢を立て直しました。当然のように体は無傷です。


 ほとんど時間を稼げなかったわたくしはそれでも迷うことなく後退しました。例え立ち止まって対峙したとしても打開策がない以上じり貧にしかなりません。


「おいおい、どこに行くんだよ!」


「お構いなく。あなたには関係のないことですので」


「はは、つれないじゃないか。そんなこと言うなよ!」


 わたくしの言うことなどまったく聞く耳持たないという様子の体堂が追ってきました。今まで言い寄ってくる男は何人もいましたが、ここまでしつこい男は初めてです。


 ここまで来るともう倒すしかないと思いますが、困ったことに今のわたくしでは難しいです。あまり強力すぎる魔法を使うと自分自身も危険ですし。


 やはり、どうにかして他の二人と合流する必要があるでしょう。わたくしは後退しながらその方法を考えました。

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