改めて相談
期末テストが終わった。テスト結果はどれも八割前後だ。微妙に上がった科目もあれば下がった科目もある。これ以上成績を上げるのならば更に勉強時間を増やさないといけない。
とりあえず成績を維持できたことでこれから約一ヵ月は自由だ。今月中旬は補講期間が続いて、終業式の後は冬休みを迎えることになる。
結果がわかった翌日、僕は昼から学校を休んだ。休みたかったからではなく、用事があったからだ。帰宅して昼ご飯などを済ませると自室にこもる。
午後二時になるとホスト役の藤原さんから連絡がやって来た。パソウェアの通話機能を立ち上げて繋げると、荒神さんとミーニアさんもバストアップ表示される。
『皆さんこんにちは、藤原です』
軽く会釈した藤原さんに僕達も挨拶を返した。すると、笑顔の藤原さんが僕達に向かって話し始める。
『今日は二日後の魔窟内の魔物駆除に関する説明をいたします。ある程度は前に荒神からしているはずですので、全体的に補足説明が中心になります』
最初に断りを入れると藤原さんは説明を始めた。大筋に関しては確かに荒神さんが話してくれたことと変わらない。
けれど、補足説明のところで色々と知らないことが出てきた。特に、遺跡は比企財閥も狙っているというのは初耳だ。
少し眉をひそめた僕が藤原さんに尋ねる。
「純化計画って秘密の研究だったんですよね? それなのに大蔵財閥や比企財閥って次々と遺跡を探索するところが現れるのはどうしてなんですか?」
『当時は厳重に秘匿されていましたが大厄災の混乱で計画は良く言って中止、悪く言えば放棄されたんです。そのため、極秘資料や施設の廃棄が不充分なところがありまして、そこから色々と情報を掴めるんですよ』
「ということは、比企財閥もどこかで純化計画の情報を掴んだということですか」
『その可能性が高いです。今では半ば都市伝説扱いになっている純化計画ですが、実際に施設が遺跡として見つかることがあるので、不老不死を本気で信じている人もいるんです』
「大蔵財閥も信じてるんですか?」
『私達の場合は、魔法と科学の融合の成果物の方を狙っています。不老不死は荒唐無稽ですが、その研究過程で生み出された副産物は手に入れる価値があると思っていますから』
”ふーん、錬金術みたいな話ねぇ”
こっそり話を聞いているソムニがぽつりと漏らした。言い得て妙だと僕は変に感心する。
ただ、直近で死ぬような目に遭ったから可能なら比企財閥関係とは関わり合いたくない。女の子を探す手がかりに触れられるかもしれないから逃げるわけにもいけないけど。
僕が悶々としていると藤原さんが話を続ける。
『話を戻しますと、比企財閥は私達と同じ遺跡を狙っていますが、今のところこちらが一歩先んじています。といいますのも、向こうは人員が揃わない状態で足踏みしているからです』
『マッドサラマンダーがポカやらかしたせいだよな』
『荒神の言う通りです。おかげで助かりました。大蔵財閥を代表して私はこの二人にお礼を言わないといけませんね』
『ってことは、あの襲われたハンターってのはお前らだったのか!』
あの事件の一端を知った荒神さんが声を上げた。進んで話したいことじゃなかったから黙ってたけど、知られたからには話した方が良い。ミーニアさんが荒神さんへと簡単に説明した。
話を聞き終えた荒神さんがため息をつく。
『ミーニアを見てると、美人ってだけで損してるよな。うまくやってる奴もいるってのに』
『まったくです。世の男はもっと落ち着くべきです』
『返す言葉がねぇ。都合が悪いから話題を変えるぞ。ミーニア、魔力濃度について藤原に聞いたらどうだ』
『あの件ですね。わかりました。藤原さん、魔窟の魔力関係についていくつか質問があります』
『なんでしょう』
ようやく打ち合わせらしくなると、ミーニアさんと藤原さんを中心に話が続いた。たまに荒神さんも加わるけど僕はほとんど入り込む余地がない。
それでも打ち合わせは順調だった。わかっている人達が話し合うと話はトントン拍子に進む。
更に十分程度続けて打ち合わせは終わった。魔窟に関することは最初に荒神さんから聞いた以上の情報はない。
比企財閥のことは気になったけど、とりあえず今は目の前のことに集中することにした。
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藤原さんとの打ち合わせが終わると荒神さん共々通話がオフになった。残るはミーニアさんだけとなると、僕はしばらく留まるようにお願いする。
『どうしました?』
「実は相談したいことがあるんです」
話を切り出した僕は夢の中の女の子についてミーニアさんに説明した。あらましから始まって最近不完全ながら会話ができるようになったことまでだ。
そうして一番聞きたかったこと、女の子とどのような手段で対話し、ソムニはどのように関係しているのかということを問いかける。
聞き終えたミーニアさんは目を閉じてしばらく黙った。
その間、僕はソムニに声をかける。
「魔法でもないってなると、やっぱり答えてもらうのは難しいかな」
「何となく自分を経由してるのはわかるんだけど、はっきりとしないのが気持ち悪いのよねぇ」
「でもなんで最近になってそんなことができるようになったんだろう?」
「それが不思議なのよね。アタシ、別に何もしてないのに」
さっきの打ち合わせが終わってから姿を見せるようになったソムニが、目の前でくるくる回りながら返答した。
僕達二人が堂々巡りの話をしていると、ようやくミーニアさんが目を開いてこちらに顔を向けてくれる。
『思い返してもそう言った事例は知らないですね。ただ、わたくしとソムニが使う精神感応に似ているかもしれません』
「あれって魔法なんですか?」
『精神感応という魔法は確かにありますが、精霊やそれに近い者などが生まれながらに持っている会話手段という形態もあります』
「人間が口を使って声を出すことで会話をするみたいな感じですか?」
『そうです』
精神感応が会話をするための一形態ということに僕は驚いた。てっきり魔法だと思ってたけど、そうじゃない場合もあるんだ。
「ということは、ソムニは誰かの精神感応を拾って僕に伝えてくれているわけですか。あれ? でも、ソムニと出会う前から女の子の姿は見えていたけど」
「アタシと出会う前はぼんやりと見えていただけよね。それで、アタシが来てからはだんだんと会話ができるようになっていったんだから、アタシは一種の増幅装置か中継機器みたいなもの?」
『そうだとしても、ソムニがなぜその役割を果たせているのかはわかりませんね。もしかしたら、その女の子と何かつながりがあるのかもしれません』
「会ったことのない子とのつながりなんて言われても」
『ソムニの持っていないはずの記憶が誰のものなのかがわかれば、何か手がかりになるかもしれませんね』
腕を組んでしかめっ面をしているソムニにミーニアが語りかけた。僕もそう思うけど、手がかりがなさ過ぎて取っ掛かりさえ掴むのも難しいだろうなぁ。
一度女の子に聞いたことがあるけど、聞き取れない言葉ばかりで何を言っているのかわからずじまいだったな。すぐそこに答えがあるのに手に取れないというのはもどかしい。
その後もしばらく話を続けた僕達だったけど、結局これと言った案は出てこなかった。相談しないよりかはましだけど徒労感は強い。
最後は雑談交じりに仕事の話となってこのときは解散した。気にはなるけど、まずは目の前の仕事から片付けよう。