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期末テスト中に来た話

 学生には定期テストというものがある。僕の高校にも当然あって現在実施中だ。一年生のときよりも成績はかなり良くなったからテストに対しての恐怖心はもうない。


 でも、やっぱり受けるときは緊張する。今度はテストの点数を下げたくないという思いが強くなったんだ。父さんと母さんは関係なく。


 幸い、ソムニの指導のおかげもあって今のところはどうにか八割前後を維持できていそうだ。このまま後半戦もテストをやっつけていきたい。


 ということを週末の夜に考えていた。僕の学校はテスト期間が中間テストは四日間、期末テストが五日間あるんだけど、必ず間に週末が入るんだ。その間に勉強しろということなんだろう。一部羽目を外しすぎる生徒もいるけど。


 ともかく、昼間に勉強を終えた僕は夜をのんびりと過ごしていた。息抜きは必要だし。


 自室のベッドの上でネットを巡っているとソムニが声をかけてくる。


「冬休みになったら、優太は何をするつもりなの?」


「そうだなぁ。年末までに一回くらいは依頼を受けておきたいな。最近はこれっていうやつを引き受けていないから」


「まぁミーニアもようやく動けるようになったんだし、それがいいかもね。年末年始に何も用事がなかったら、長期の依頼を受けてもいいんじゃない?」


「えーやだよ。年末年始くらいは家でごろごろとしてたい」


「疲れたおっさんみたいなことを言うわね、アンタ。それにしても、長期休暇の真ん中にこんなイベントがあるなんて不便よねー」


「逆じゃない。年末年始のために冬休みがあるんでしょ」


 ゆっくりとくるくる回るソムニに対して僕は緊張感のない言葉を返した。今年はソムニと出会って以来忙しいから働く人並みに疲れているんだ。だから休ませてほしい。


 内心で強く主張していると、パソウェアの通話機能が立ち上がってコール音が鳴った。荒神(あらがみ)さんだ。僕は通話をオンにする。


大心地(おごろち)、仕事の話があるんだが今いいか?』


「良いですよ。仕事って何ですか?」


『お前さんとミーニアに魔物駆除の仕事を手伝ってほしいんだ』


「第二公共職業安定所を経由しないで直接ですか?」


『俺が第二職安で依頼を受けたやつなんだよ。元々チームで引き受けるやつだから、そっちにお前さん達の名前も書いておく』


「普通そういうのって単独(ソロ)の人は受けないですよね」


『はっはっはっ、まったくだ。その辺の話もするからミーニアも呼びたい』


 投げ槍っぽく笑う荒神さんのバストアップ表示を見ながら僕はその提案を承知した。


 少ししてからミーニアさんの半透明な立体映像も表示される。


「これで全員揃ったな。それじゃ一から説明するぞ。事の発端は、俺が藤原から仕事を持ちかけられたことから始まるんだ」


 荒神さんの話によるとこうだ。


 以前僕が引き渡したデータを解析した大蔵財閥が純化計画の別の遺跡を発見した。そして探索しようとしたんだけど、近くに魔窟があって危険な状態なんだそうだ。そこでまずは魔窟の魔物を駆除しようということになったらしい。


 ちなみに、藤原さんとは以前僕が会ったあの秘書さんのことだ。確か名前は怜香(れいか)さんだったはず。


 その藤原さんと荒神さんは以前からの知り合いで、今回指名依頼されたらしい。なるほど話の流れは大体わかった。けど、それでもわからないことがある。


 それはミーニアさんも同じだったようだ。僕よりも先に荒神さんへと尋ねる。


『チーム単位で募集をかけているのに、なぜあなただけは単独(ソロ)にもかかわらず指名されたのですか?』


大蔵財閥(あいつら)とは腐れ縁なんだよ。だからこういうときにはよく依頼されるんだ。それと、あっちはお前さんらのことをよく知っていたぞ。知り合いだったのか?」


『以前、誘拐されていた次期当主を助けたことがあります。恐らくその縁でしょう』


「なるほど、そういうことか。ということは藤原の奴、お前さんらの力も最初からあてにしてたってことか」


『それならわたくし達のところに直接話が来ても良いとは思いますが』


「確かにな。案外俺を引っ張り込んだら何とかなるって思ってたのかもしれん」


 ミーニアさんも荒神さんも首をかしげた。もちろん僕にだってわからない。少しの間だけ静かになったけどすぐに会話が再開した。


 最初に荒神さんが口を開く。


『ま、藤原の思惑がどうあれ、やることは変わらん。要は魔窟(ダンジョン)の掃除だ』


「荒神さん、そこってどんな魔窟(ダンジョン)なんですか?」


『奥行きはないが噴出する魔力量が多いと聞いている。だから魔窟(ダンジョン)の規模の割に出現する魔物は強力だそうだ。それを短期間で駆除しないといけない』


「そんなことできるんですか? それに、できたとしてもまたすぐに魔物は湧いてくるんですよね?」


『すぐとは言ってもさすがに数日でってことはない。それに、発掘中も魔窟(ダンジョン)内にハンターを常駐させて駆除は続けると聞いている』


「そこまでするんですか」


『それだけ大したお宝があるんだろうよ、その遺跡にはな』


 肩をすくめる荒神さんを見ながら僕は唸った。どんな遺跡なのかはわからないけど興味が湧いてきた。


 気になることを僕は尋ねてみる。


「荒神さん、その遺跡の探索には僕達も参加するんですか?」


『そこまでは聞いてねぇな。今回の話はあくまでも魔窟(ダンジョン)での魔物駆除だけの話だ。遺跡の探索中に魔窟(ダンジョン)へ常駐する件も含まれていないからな』


「そうですか。となると、個別で募集するのかなぁ」


『なんだ、遺跡の方に興味があるのか。てっきり前ので懲りたかと思ってたんだが』


「前のは魔物の大量発生に巻き込まれたから大変なことになったんじゃないですか」


『確かにな。けどよ、今回だってわからんぜ? 何しろ遺跡の隣に魔窟があるんだからよ。また地下のどこかで繋がってる可能性は大いにあると思うんだが』


 指摘されて僕も気付いた。そうなると二の足を踏む気持ちが強くなる。あれは本当に大変だったもんなぁ。


 考え込み始めた僕にミーニアさんが声をかけてくる。


『優太、荒神の依頼を引き受けるつもりですか?』


「僕は引き受けても良いように思います。ミーニアさんはどうですか?」


『その前に荒神へ二つ質問があります。一つは魔力の噴出量が多いということですが、魔力噴出(マナバースト)が起きる可能性が高いということですか?』


『俺が聞いた範囲ではそんな話はなかったな。単に魔力の噴出量が多いとだけだった。やっぱり危険なのか?』


『以前から安定して噴出しているのであれば危険は少ないでしょう』


『なら大丈夫なんじゃないか? その辺りが不安定だっていう話は聞かなかったらしいしな』


『ではもう一つ、強い魔力に晒され続けると危険ですが、その対策はどのようにするのでしょう。わたくしと優太は問題ありませんが、あなたはどうするのですか?』


『魔力用リトマス試験バンドは支給されるそうだが、後は気合いでどうにかするしかないのが実際らしい』


 難しい顔をした荒神さんが黙った。


 魔力の耐性が強いミーニアさんとソムニのいる僕はどんなに魔力が強くても平気だけど、それは雇い主が何もしなくても良いということを意味しない。


 ただ、これには今のところ有効な対策がないのも事実だった。潜水服みたいなのを身に付けて酸素ボンベを背負うのが一番確実な対策だったりする。難しいところだ。


 その後も三人で話し合ったけど、結局僕とミーニアさんは荒神さんの依頼を引き受けることにした。何と言っても遺跡のことは気になるしね。


 これがどんな結果になるのかはわからない。けど、何かしら夢の中の女の子に繋がれば良いと僕は願った。

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