今後の仮方針
真面目に考えてみると驚くほど何も思いつかないことに僕自身衝撃を受けていた。将来のことはわからないのは確かだけど、一つくらいやりたいことが出てくると思っていたんだ。なのにまったく湧いてこない。
完全に行き詰まった僕はふと周りのみんなはどうしているのか気になった。助言なんて大層なものでなくても、何をどう考えているのかだけでも知りたい。
ただ困ったことに、僕には遊び友達もいないからそんな相談ができなかった。クラス内で耳をそばだてても進路希望調査票の話は全然出てこない。そりゃ普通は一人で考えるものだから当然だよね。
どうしたものかと考えていると、大海さんから昼ご飯のお誘いがあった。たまに誘ってくれて木岡さんと三人で食べることがあるんだ。
最近は寒くなってきたからこういう機会は減ったけど、今日みたいに晴れて暖かい日になると大海さんは誘ってくれる。いつも行く北校舎屋上はがらんとしていた。
いつも三人で食べる場所には誰もいない。とりあえず腰を下ろすと僕はテーブルにお弁当を置いて大海さんに尋ねる。
「木岡さんはまだなんだね」
「今日は学校を休んでいるよ。推薦の面接があるって聞いてたし」
「推薦? 大学のですか?」
「そうだよ。学校推薦だから気合い入れないといけないってぼやいてたなぁ」
持って来たパンの袋を開けた大海さんがしゃべり終えるとかぶりついた。こんな時期に推薦の面接があるんだと思いつつも、僕も持って来たお弁当を食べ始める。
木岡さんの話が出てきたおかげで進路の話をしやすくなった。ここぞとばかりに僕は大海さんに尋ねてみる。
「木岡さんの話で僕達も来年三年生になるってことを思い出したよ。それでついでに進路希望調査票のことも」
「あったねぇ。大心地くんはもう書いたの?」
「それが全然なんだ。何を書いたら良いのかさっぱりで。大海さんはもう書いたの?」
「大体は決まってるんだけど、まだちょっと調べたいことがあるから止めてる感じかな」
ある意味やっぱりと僕は思った。大海さんなら自分のやりたいことを既に持っていて、それに向けて迷わず進んでいると思ってたよ。
興味を持った僕はちょっと踏み込んで聞いてみる。
「どこかの大学に進学するのかな?」
「アメリカの大学に行こうかなって思ってるんだよね」
「海外に行くの!?」
「そんなに意外かなぁ。わたし、成績は結構良い方だと思うんだけど」
「頭の善し悪しっていうんじゃなくて、国内の大学に行くものだとばかり思ってたから」
「まぁ普通はそうだよね。でも、今年の夏にジュニアハンターの活動でアメリカに行ったじゃない。あれであっちのハンターの活動に興味が湧いたんだ」
その様子をSNSで追いかけていた僕はすぐにそのときのことを思い出せた。最初は戸惑いつつも楽しんでいたよなぁ。
それに引き換え、僕は日々の生活で精一杯だ。ジュニアハンターの活動も目の前の件を片付けるのに必死だったもんね。最近は少し余裕が出てきたけど基本的に前と同じだ。
やっぱり出来る人は違うなと思いつつ僕は話を続ける。
「それじゃ高校を卒業したら完全にばらばらだね。ウルフハウンズを存続させるためにも、代わりの人を早く見つけないといけないんじゃない?」
「実を言うとね、そこも今迷ってるんだ。もしかしたら年内にはウルフハウンズを解散させるかもしれないんだよね」
「ええっ!?」
さすがに目を見開いて大海をまじまじと身ってしまった。海外の大学へ進学する話よりも衝撃的だったからだ。
「三年生の二人が十一月にチームから抜けたから今二人なんだけど、思うような人が見つからないんだ。それで今、どうするべきか話し合ってるところ。今月の前半には結論を出すつもりだよ」
「そんなことになってたんだ」
「まぁね。それに実のところ、わたしが来年の春にアメリカの高校に留学しようかなって考えてるから、これを機会に解散させようかなって思ってるの」
「随分と急いでいるように聞こえるけど、何かあるの?」
「どうせなら早く動きたいっていうのがあるんだ。じっと待つっていうのは苦手でね」
そんな理由でと言いかけて僕は言葉を飲み込んだ。失礼だからというより、僕と違ってあまりにも能動的に動いていて羨ましかったから。
結局、この後の昼休みは雑談をして終わった。なんだか何となく打ちのめされた気分だったけど、同時に何か動かないとも思えるようになる。
なんだかんだと言って、結局は有意義だった。
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学校から帰宅して一日のすべての作業を終えた僕は自室でいつも通りごろごろしている。とはいっても、今回はネット巡りをしていない。考え事をしていた。
そんな僕を見て宙を漂うソムニが声をかけてくる。
「どうしたのよ、珍しく何にもしないで寝転がってるだけだなんて」
「ちょっとこれからのことを考えているんだよ。進路希望調査票のこともあるしね」
「いきなり真面目になったわね。でもいいことじゃない」
ちょっと茶化すようなソムニ言葉は無視してうんうんと唸った。なんとなくまとまりそうでまとまらないこの感覚が実にもどかしい。
「先のことはやっぱりわからないから、とりあえず大学に行くと仮定しよう」
「どこの大学に行くのかは決めないの?」
「それは今の僕の学力で手の届く範囲にしようと思う。来年の春にもう一回提出するんだから、今はそれで充分だと思うんだ」
「なるほどね。それじゃアタシがちゃっちゃっと探しておいてあげるから、そこからいくつか見繕えばいいわ」
「助かるよ。そうなると受験勉強をしないといけないけど、これは三年生になってから本格的にしようと思うんだ。これって間に合うかな?」
「どの大学を狙うか次第ね。逆に一年間頑張ったら狙える大学を春に選ぶっていう方法もあるけど」
「そんな器用なことができるのか不思議だけどまぁいいかな。となると、来年の春休みまではジュニアハンターの活動に専念できるわけだ」
「その間に例の女の子を探すってわけ? まぁ悪くはない案だけど、実際のところ見つかるかどうかはわからないわよ?」
ソムニが懸念を示すのももっともだ。何しろ手がかりがなさ過ぎて今は探せない状態だからね。でも、問題はそこじゃないんだ。
「わかってる。今言ってることは、僕が進路を決められないから全部仮定の予定を組み立ててるだけだから。本決まりしたらまた変更するけど、それまでも仮の方針があった方が良いでしょ?」
「なるほどね。確かに漫然とやってるよりかはマシね。となると、当面の最優先事項はあの女の子の件っと。それでリミットは来年の春休みの終わり。それまでに見つからなかったらどうするの?」
「高校卒業まで延期かな。あの女の子には悪いけど、さすがに僕の人生がかかってるし」
「まぁいーんじゃない。あ、ミーニアの件はどうするのよ?」
「同じだよ。三年生のとき、特に夏以降は我慢してもらおう。ミーニアさんが帰還した後も僕はこっちで生きていかないといけないしね」
「そりゃそーね。オッケ、いいわよ。それじゃこれからその線の計画を立ててあげる」
そう言ってソムニはいくつもの半透明な小画面を出して何やら作業を始めた。更に僕の目の前に僕の学力で狙えそうな大学の一覧を表示した画面を滑らせてくる。学部も含めると意外に多くて驚いた。
やるべきことがはっきりとした僕はすっきりとした表情で進路希望調査票を表示させる。そして、大学一覧表とにらめっこしながら少しずつ記入していった。