第5話 フォーチュン
次の町まであと少し。
ミドは想いを語りだす。
結局、切株に座って休んでいる間、ミドはろくに口をきかなかった。
先に食べ終わると足の爪先で地面を叩きながら、イライラと無言で俺を急かした。
魔法使い候補の居場所はわかっているんだし、なにも今日スカウトしなきゃならないわけじゃないよな。
ミドはなんでそんなに急ごうとするんだ?
「なあミド、あんまり肩に力入れずにさ、ゆっくり行こうぜ」
今度はハッキリとした舌打ちが聞こえた。
ええー?
怖いよこの子。
「なんでそんなに急ぐんだ?」
心配になって訊くと、ミドはため息と共に俺に一瞥をくれた。
整った顔のしかめっ面って、威力あるよなぁ・・
「早くしないと、魔法使いがコイントスに負けるからです」
はあ。
コイントス?
「交渉の難易度に関わるからですよ」
わかんねぇ。
さっぱりわかんねぇ。
けど、占い師のミドには何かが見えていて、
それは重要なことなんだな。
「わたくしだって、好きで急ぐんじゃありません。無事に契約を成立させたいからです。わたくし、このパーティーの一員ですから」
最後に早口になったミドの言葉に思わず顔がにやけた。
何だよ、ツンデレかよ。
日差しはマックス。
小鳥のさえずりは祝福のようだ。
昨日占い師が加入して、今夜魔法使いをゲットする予定。
何だか、俺の冒険って、滑り出しかなり順調なんじゃないか?
俺の悪い癖。
すぐ調子に乗る。
悪いな、村のみんな。
俺に後戻りの選択はないぜ。
いっぱしの勇者になって、故郷に錦を飾るまではな。
もう、学者ばかりのガリ勉村なんて呼ばせない。
勇者を輩出した村になるんだ!
「わかった。よし、出発しよう!日暮れまでにトレントに着こう」
俺はブーツの紐を結び直した。
まあ、あれだ。
靴に関しちゃ、人間界(でいいのか?)のほうが、圧倒的に出来がいいな。
いつか思い出しながら作ってみたら、案外バカ売れしたりして。
ミドは既に立ち上がって足首を回している。
頼もしいやつ。
よし、一気にトレントまで行ってやる!
そこからの道中は、ミドはポツポツ、会話をするようになった。
勇者を目指したきっかけを訊かれたのが始まりだ。
「何か理由があったんですか?」
歩みは止めず、ミドが訊く。
俺は正直に答えた。
「自分で動くから・・かなぁ?勇者って、主体的に道を切り開いていく感じがするじゃんか。そこかな、一番は。
俺の村は学者になる奴ばっかりで、生涯村から出ないなんて奴もいるくらいで。なんか、俺はそういうの、嫌だったんだよな」
ミドは少し驚いたような顔をしてから久しぶりに笑顔を見せ、
「だから、オトメさんの仲間になろうと思ったんです。わたくしも、同じような考えだから。
占いは運命を掴むことと言ったけど、占いに縛られたり振り回されることも多いものです。
わたくしは矛盾を感じてきました。自分で、選び取ることをしてみたかったんだと、思います。何もかも、決められていたから。・・矛盾してますけどね、占い師なのに」
話してみれば、ミドは素直で、自分を持っている少女だった。
占い師一家に生まれ、逸材と期待され、双子の妹からは尊敬の眼差しで見られ。
応えてきたんだろうなぁ・・。
妹にはいつも笑っていて欲しい、そう言っていた意味が少しわかった気がした。
とにかく、自分の内側で、何かが強く自分を突き動かす、
それって多分、大事な大事なことだよな。