第27話 街が眠る夜
その晩は休み、翌朝ホウジを借り出す交渉に向かうことにした、勇者オトメ一行。
番頭は許可するだろうか?駄目なら無理やり連れだしてでも・・・。
そのくらい、ホウジを妹に会わせることは、やらなきゃいけないことのような気がするんだ。
いろいろ気になって眠れないかと思ったがそんなことはなく、俺は気持ちのいい朝を迎えた。
ルーは先に起きて壁に背をもたせながらパイプを磨いている。
俺に向かって目と唇だけで「よ」と合図した。
その目線の先に、穏やかな寝息を立てているミドがいた。
朝日がふっくらした頬に差し込んでいる。
よかった、杞憂だったか・・・。
階下では、かすかに宿の者たちが動き回る気配と、朝餉の香りがした。
ここの飯は、いや、このサロームの街の食べ物は、どことなく日本を思い出させる。
当然、ルーはとっくに気づいてるんだろう。
俺に何も言わないのは、ルーにもここの料理のいったい何が俺たちにそう感じさせるのか、わからないのかもしれないな。
ミドもじきに起きるだろう。
俺たちは先に堀で足洗をすることにした。
そこなら宿から近いし、朝の足洗は気持ちがいいんだ!
日本人(元)なら旅先じゃ朝風呂だろって?
ところがどっこい、外で冷たくて綺麗な水に足首までつけてみな。
身体ん中を洗うみたいに、自然のエネルギーみたいなもんが頭の先まで抜けてくのがわかるぜ。
ルーは体を屈めて堀に手を浸した。
「ここの水は澄んでるな。おそらく森から来てるんだろう」
それから髪をかきあげて伸びをすると、照れ臭そうに笑った。
「何だか田舎のばあちゃんちを思い出すぜ。もちろん転生前のな。変だな、こんなこと、思ったこともないのにな」
そう、サロームはそんな気分にさせる。
記憶をくすぐる、妙な居心地のよさがある。
俺は街に入るときに聞いた声を思い出していた。
「中毒になる、か・・・」
「オトメさんルーさん、起きてたんですか?わたくしにも声をかけてくれればよかったのに。朝食が出来たそうですよ!」
ミドが出来のいい妹よろしく俺たちを迎えに出てきてくれていた。
「行こうぜ。食ったらさっそく、按摩屋の番頭に交渉だ」
〇〇〇〇〇
番頭は俺たちの姿を見るなり相好を崩した。
「兄さんら、またおいでとは、うちの按摩が気に入りなすったかね」
「ああ、ホウジを頼む。今日は俺だけだ」
「そっちの兄さんは、受けないんですかい?まだ早いから、ホウジもロクジも手が空いてますがね」
「こっちはここで待たせてくれ」
番頭は怪訝な顔をしたが、すぐにホウジを呼んでくれた。
俺はホウジに妹のことを話す。
その間、ルーが番頭を説得する。
ミドは話がまとまらなかった時には援護に来ることになってる。
廊下の奥から姿を現したホウジは、俺に向かって会釈をした。
「旦那は旅の・・・。いらっしゃいまし」
俺は銀の入った袋を揺らして見せた。
「あんたが気に入ったんだ。今日はとことん、念入りに頼むぜ」
〇〇〇〇〇