第21話 蝶の舞い
癒しの町サロームを目指した勇者オトメ、占い師ミド、魔法使いルーの三人。
やっとサロームの町を見つけたら、町を囲む塀に入り口がない。
そのとき、フワリと体が浮き上がり・・!?
「なんだよ、これ・・!」
俺たち三人は、何かキラキラとした鮮やかなものに巻き上げられ、宙を運ばれた。
微かに甘い香りがする。
正体を確かめようにも眩しくて目が開けていられない。
ルーとミドがジタバタもがいている気配だけが伝わってきた。
そのとき、老婆のような声が聞こえた。
「行くな。中毒になるぞ」
「なんだって・・!?」
声は低く、遠く、よく聞こえない。
そしてそれきり黙ってしまった。
気のせいだったのか・・!?
浮かんだときと同じように、フワリと俺たちは降ろされた。
なんだかクラクラする。
俺は急いで二人に声をかけた。
「ミド!ブルー!無事か!?」
すぐに返事が返ってきた。
良かった、ケガはないな。
「はい・・」
「なんだったんだ今の」
ルーは頭を振りながら起き上がり、傍らにいたミドに手を貸した。
そうして顔を上げると、俺たちの前に三人の美女がいた。
いや、正確には擬人化した蝶たちだった。
三人は砂糖菓子みたいな笑顔を浮かべて、俺たちに向かって長く綺麗な手を広げた。
薄い振り袖のような服を着ている。
「サロームへようこそいらっしゃいました」
「私どもは門の渡し役でございます」
「どうぞごゆるりと滞在され、心身共に癒されますよう」
その声につられてまわりを見ると、サロームの中にいることがわかった。
この三人が俺たちを抱えて運んだらしい。
見渡せば人も多いが蝶も多い。
そんでもって、白粉みたいな微かに甘い匂いが町の中に漂っていて、早くも癒しを感じ始めた。
トレントが商業の町なら、ここは歓楽の町といった風情。
建物なんかの感じは、なんとなく京の花街に似ている。
腕を組んで歩く男女や、ヒラヒラと舞う蝶、立ち並ぶ店も何もかもが優雅で美しかった。
「良さそうな町だなぁ・・」
ルーがパイプを取り出しながら呟く。
すると三人娘の一人がすかさず、
「おつけしますわ」
と体を寄せた。
照れて身を引くルーににっこりと微笑み、懐から何かの包み紙を取り出した。
「サローム産の煙草ですの。疲れがとれますわ」
俺とミドの傍にもやってきて、
「お疲れでしょう。まずは茶屋へ案内しますわ。これはサービスですから、遠慮なさらずに」
と言って俺たちの手をとった。
なんて柔らかくて気持ちがいい手なんだ!
見ると、隣でミドまで照れている。
もしかして、いわゆるそういう町か・・!?
俺らにはミドという幼気な仲間が・・!いや、何を考えてるんだ俺は!
ここには養生がてら寄っただけだもんね。うん。
三人は少し浮いているような軽やかな足取りで、俺たちを一軒の茶屋まで連れていった。
「旅のお方は、まずここに寄ってお茶を召し上がります」
「そのあとは、ごゆるりと観光なされませ」
俺たちは言われるがままに茶屋の奥の席につく。
「私たちの案内はここまでです」
戸惑う俺たちを置いて、彼女たちはにこやかに会釈して店を出ていった。
「オトメさん、鼻の下伸びてますよ。すっごく」
ミドの奴、こういう一言を忘れないんだよなぁ。
鼻の下伸ばしてるならルーだって・・伸びて、ない。
茶屋の主人が湯呑みを運んできた。
透明だが、表面に虹色の膜がある。
立ち上る湯気は爽やかな香りだ。
「せっかくだし、いただくか」
飲んでみると、最初はほんのり甘さを感じたが、後味はジャスミン茶みたいにスッキリしている。
「不思議な味だけど、悪くないな」
ルーに同意を求めると、ルーは湯気を嗅ぐのをやめ、一口飲んだ。
ミドは気に入ったようで、ゆっくり飲み干していく。
体が暖まり、リラックスしてきたような気がした。
まあ俺は、単純だからな。