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第1話 オトメ、歩き出す

 ・・あーあ、装備が欠けちまった。

限定の、乙女桜カラーの新品スーツ。

少し大きめのショルダーのデザイン、気に入ってたのに、

先が割れてかっこわるい。

やっぱり、限定企画もので値段も手頃となると、

材料にも混ぜ物が多いのかな。

早まらずにもう少し銀を貯めて、手堅いシリーズを買えばよかった・・。


天気だけは馬鹿みたいにいい。

この世界では、天候は予め決まっている。

予定外に雨を降らしたい場合は、仲介人に頼んで雨龍のところまで遣いに行ってもらうしかないから、

そんな面倒なことは誰もしない。

天候がわかると、これはこれで結構便利なんだぜ。

ファーマーたちは、年間の予定が立てやすい。

価格崩れも滅多に起きない。

とはいえ、この世界じゃ果物だけは勝手に生えていて誰でも自由に食べられるけど、

どんどん品種改良される栄養満点の野菜はむしろ贅沢品、

こっちじゃスーパーフード扱いだ。

俺らみたいな貧乏勇者は、苦い薬草かじって帳尻を合わせてる。


俺の名前はオトメ。

嘘みたいだが本名だ。

二浪して、勇者試験にようやく受かった。

といっても下級勇者。

それでもとにかく肩書きが出来た。

免許がないと仲間集めもできやしない。

俺の育った村は学者になる奴が多くて、勇者になりたいなんてガキの頃から言ってたのは俺くらいのもんだった。

みんな憐れむような目で俺を見てたっけ。

運動音痴だったからな・・。

だがもうこれで、俺も晴れて勇者を名乗れるわけだ。


張り切って貯金をはたいて俺の大好きな乙女桜カラーの装備を手に入れて、

馬鹿みたいに天気はいいし、

果物は食べ放題。

仲間を集めて、どんどん悪者を倒して、

食うには困らずスーツはお洒落、俺の行く道は明るい!

・・はずだった。

のになぁ・・。


次の町まではまだ遠い。

町に着いたら少しは遊びたいし、

旅籠代ケチってしばらくは野宿するかなぁ。

いや、まずスーツの修理が先だよな。

こんなんじゃ女の子にモテないからな。


左右を花畑に囲まれた長閑な田舎道をとぼとぼ歩いていくと、遠くに看板らしきものが見えた。

どうやら修理屋のようだ。

俺はツイてる!


古めかしい小屋造りの修理屋だ。

手書きののぼりが誇らしげにはためいている。

「修理一筋ウン100年!」

看板には、

「修理屋・たくみ」の文字。


職人気質の店だ。

企画ものの装備なんて・・なさそう。


「ああ、これは扱いがないねぇー」


やっぱり。


無精髭を仙人のように蓄えた爺さんは、

俺の顔と装備を交互に見ながら早口で続けた。


「こういう、希少鉱物をほんの僅かだけ混ぜてますって代物が、一番たちが悪いんだよなぁ。

まともな業者は扱わないし、色を似せても光の反射に誤差が出る。それに、希少鉱物を使ったと言っても僅かな量だから、下手すると安物より弱いんだ。

あんた、ミーハーな買い物しちまったね。

製造元に問い合わせてみな。おそらく今ごろドロンしてるぜ。苦情殺到だろうからな」


「そんなぁ」


「悪いこた言わねぇ。同じ色は出せないし、買い直すんだな」


なんてこった。


爺さんは気の毒そうに、スーツのショルダーを軽く撫でた。

「ま、錆止めくらいはしといてやるよ。タダでな」



           ○○○○○



 親切な修理屋の爺さんの話によると、この先の町までは分岐も少なく、途中いくつか水場もあるようだ。

スーツが直せなかったのは残念だけど、道程が楽なのは大歓迎だ。

何しろアイテムもほとんど持っていないし、

村を出るときに村のみんなが集めてくれた祝い金以外の持ち金も少ない。

雑魚キャラを倒しながら少しずつ旅を進めて、

途中で魔法使いや僧侶をスカウトしよう。


この世界では、勇者が冒険に出るにあたって保険に入れる。

大怪我のときには治療できるし、

故郷に仕送りもできる。

定期的にアイテムが贈られてきたり、ボーナス特典もある。

保険に入るのは勇者なら当たり前なのだが、

条件のひとつがパーティー結成なんだ。


保険加入条件のパーティー編成は決められている。

最低4名で、多い分には構わない。

サポートメンバーは不可。

全員が署名契約すること。

編成は次の通りだ。


①勇者(戦士・魔道剣士でも可)

②魔法使い又は魔導師

③占い師又は学者

④治癒・葬儀等に携わる職業の者


全体的な地図のない、移動手段も少ない広大な世界の中から気の合う仲間を見つけることは簡単じゃない。

中には掲示板や出会い喫茶で利害が一致した者同士でビジネスライクに組むこともあるらしいけど、俺は本当の仲間を見つけたい。

力を合わせて成長しながら冒険していける、そんな仲間が。

田舎の長老が言うには、『真の勇者には、導かれし仲間が自然に集まるもの』らしいけど・・。


前世で人間だったとき、俺は転生モノをあまり読んだことがなかった。

ただ何となく、ゲームみたいな世界観を想像していた。

実際は、半分はその通りで、半分は違う。

なんていうか、思ったより現実的な世界だ。


確かにファンタジー感はあるし、人間の世界よりは圧倒的に自由で面白いし、

俺には正直こちらのほうが性に合う。

だけど、学校や試験や就職、生活に関しては結構システマチックなんで驚いた。

魔女だって、あれはちゃんと修行してるらしい。

聞いた話だけどな。


怪我もするし病気(呪い)もかかる。

治すのが医者か僧侶かの違い。

エンジニアは魔法使い。

学者は・・学者だな。

仲間集めに使うのは相席喫茶だし、

地域によっては婚姻制度もある。

魔物や妖精がいるのは大違いだけど、こっちの世界だって、

一般人は危険地帯には近寄らないんだ。


ただ、寿命が長く、特に青年期が長いのがいいところ。

何度だってやり直しがきく。

いい意味であまり他人に関心がないし、土地が広大で自生しているものは誰でも食べていいから、基本的に餓死することは、まあないわけ。

だから、長い青年期とその日暮らし可能な環境があるから、それぞれ挑戦したり、それを変更したりもできるわけだ。

もちろん俺は、勇者一本でいくけどな!











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