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その日

 俺は瞼を開き、重たい体を起こした。

 いつも通り疲労は抜けていなかった。何もする気がしない。

 それでも俺は惰性で学校へ行く準備をした。

 これはいつものことで死ぬこととは関係がない。

 そもそも俺は本当に死にたかったのだろうか。いや自分の記憶からしてそれは間違いのないことだ。だとしたら、死んだときに身体だけでなく精神の状態も戻っているのではないか。そんな考えが頭をめぐっていた。


 俺は学校へ向かう途中、コンビニに寄った。漫画雑誌コーナーに向かいつつ、視界の端に映る物をちらっと一瞥する。俺は通りすがりにそれを素早く手に取りカバンの中へ入れた。さらに生理用品と食品のコーナーからも一つずつカバンに納めた。

 コンビニを出て数分後、ようやく俺の心臓の鼓動は落ち着きを取り戻した。万引きなど初めてだったので不安で仕方がなかったのだ。

 俺は学校に着くとトイレの個室に入り、カバンを開けた。教科書と筆記用具に紛れて、エロ本、コンドーム、唐辛子粉が異物となってそこにいた。エロ本を便器の裏に隠し、コンドームと唐辛子粉をポケットの中に入れた。

 今まで試してこなかったが、今回はいつもと違い、趣向を凝らすことにした。何かが変わるかもしれない。そんな期待を抱きながら教室に向かった。


 昼休みになると、俺はいつも通り佐藤に肩を叩かれた。一緒にトイレへ行こうという合図だ。俺はそのまま佐藤と教室を出た。


「わりぃな、今日もちと付き合ってくれ」


 佐藤はちっとも悪く思ってなさそうな顔で言った。


「ああ」


 俺は面倒なのでいつもこう答えていた。

 トイレの個室に入るや否や、俺は佐藤に肩を掴まれた。


「今日はちょっと違うことを頼みてぇんだ」


 それが何なのか既に知っている。


「いやだと言ったら?」


 いつもと違う答え方をする。


「お前に拒否できると思うか?」


 ああ、やはりそうなのか。

 そんなことを思っていると、急に佐藤の顔が迫ってきた。


「んっ……!」


 俺の唇にぶにゅりとした感触が伝わる。

 俺は佐藤にキスされた。

 口を塞がれて何も言えないでいると、さらに生暖かいものが口の中を這いずり回った。


「――えほっ、えほっ!」


 突如佐藤は後ずさりした。さらにむせながらトイレのドアにぶつかる。


「……はぁはぁ、お前っ、何しやがったっ」


 佐藤は苦しそうに喋った。


「何もしてないけど」


「嘘つくんじゃねぇ! なんでこんなに口がいてぇんだ!」


「ああ、さっき唐辛子食べたからか」


「はぁ!? なんでそんなもん食いやがったっ」


 それは俺の勝手だ。


「はぁはぁ………。ま、まあいい、そういうことでお前にはオレの相手をしてもらうぜ」


 佐藤は自分のズボンを下した。いつもよりいささか元気はないが、佐藤が欲求不満であることは違いない。俺は便器の裏に手を伸ばした。


「ほら、欲求不満ならこれあげるよ」


 俺はエロ本を佐藤に差し出した。


「はぁ? なんでそんなもん持ってんだ」


 しかし佐藤は本を床に投げ捨てた。


「お前じゃねぇとダメなんだ。わかるよなぁ?」


 佐藤は俺を便器に座らせた。そして俺の顔に下半身のそれを近づける。


「じゃあせめてこれをつけた方がいいよ」


 俺はポケットからコンドームを取り出した。


「はぁ? なんでそんなもん持ってんだ」


 しかし佐藤は俺の頭を掴み、自身のそれを押し付けた。

 ああ、何も変わらない。本当にくだらない。


「お前はオレの言う通りにしてりゃいいんだ!」


 俺は佐藤のおもちゃとなった。

 ただただ気持ちが悪かった。

 かつて、同じようなことがあった。いつも暴力を受け入れている俺だったが、その時だけは拒否した。しかし俺の意思が尊重されることはなかった。

 それから佐藤は俺に気遣っていたのか、暴力だけにとどめていた。友達だから俺に嫌われたくないという気持ちが少しでもあったのだと信じたい。

 だが結局こうなってしまった。


 放課後。俺はいつものように学校の屋上にいた。

 俺はこれからも佐藤の言う通りになるだろう。この環境が改善されることはない。

 ならばいっそ、全て終わらせよう。

 願わくば、もう一度目覚めることがないように。

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