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3-2.終わりの始まり

 一輝からメッセージが届いた。


「昼休み、屋上に来てください。ちょっと話があって」


 なんだろう、話って。

 それも、わざわざ屋上じゃなきゃできない話か。

 気になったので、「行く」と返信。

 授業が終わると、一輝はさっさと席を去っていった。たぶん屋上に向かったんだろう。

 おれもそのあとを追うように、屋上へと足を運ぶ。

 階段を上り、屋上開放スペースに通じるドアをあけると、


「……!」


 音のない空間。

 また、だ。

 【臨界】【廃絶】【銀丘】――。

 さまざまな呼び名のあるその空間に、飛ばされた。

 さっきまでスカイブルーだった空は、いまは茜色に変化している。

 太陽は影の塊のような漆黒。

 屋上の緑のタイルは赤に変わっており、かつて青色だったフェンスは灰色に。


「どうしたんですか。どうして身構えているんですか?」


 屋上スペースの中央に、一輝は立っていた。

 この奇妙な空間にいるというのに、動揺の色が少しも見えない。

 一輝もこのヘンテコ空間には慣れっこになっているのだろう。


「どうしてって。また悪霊が襲ってきたら困るからさ」


 恐る恐る一歩を踏みだしながら、おれは答えた。


「悪霊? 高校に悪霊が出ますか?」

「出るかもしれない、と思ってるよ。この変な空間なら」

「……出るわけがない。結界がありますから。どうしてそんなこともわからなくなっているんです? あるいは、わからない振りをしているのかな?」


 一輝の表情から読みとれるのは、深刻な懐疑の色。

 いつもの爽やかな笑顔は消え去っている。空の色が変わってしまったのと同じように、一輝の表情にも見慣れない変化が生じているのだった。


「盗聴を警戒して、あなたをここに呼びだしました。お手間をとらせてすみません」


 盗聴……?

 一輝は淡々と語る。


「立場上、ぼくはあなたに従わなくてはならない。だから、あなたのやることにとやかく口をはさむべきではないと理解しています。でも」


 ひと息入れて、一輝は言った。


「我々の目的の完遂を損なうような行動は、厳に慎んでいただきたい」


 なんだ、この、ただならぬ雰囲気は。

 一輝はいったい何を言っているんだ?


「いいですか。なにを差しおいても大事なのは、とにかく目的の達成です」


 一輝は懐から、拳銃を取りだした。

 黒い太陽の光を受けて、黒光りする拳銃。

 戦慄――。


「僕たちはこれを携帯している。その意味を忘れないようにしてください」

「もちろんだ。忘れない。忠告に感謝するよ」


 おれはとっさに、そう答えた。

 考えるのはあとだ。とりあえずはこの場を収めること。

 いまの一輝は、おれの知っている一輝と違う。

 変に刺激しないことが大事だ。

 ガンガンと耳鳴りがする。脳に針が刺さっているみたいに頭が痛い。

 おれの直感は正しかった、と思う。やはり、記憶喪失であることは、明かさないのが正解だったんだ。羽穏にはバレているみたいだけれど、彼女なら問題はない。

 だけど、他の人に知れたら――なにか悪いことが起きる。確信めいた強い予感。


「それと、もうひとつ」

「……なんだい?」


 まだなにか、あるのか?


「最近の報告では、この里に【神話兵器イリオン・ブレイカー】の存在する可能性が示唆されていました。ゆめゆめ警戒を怠ってはなりません」

「ああ、注意するよ。よくよくね」


 その、イリなんとかは知らないけれど。

 一輝は気が済んだのか、


「話は以上です。じゃあ、僕はこれで」


 表情を緩めて、階段を下りていった。

 ……気がつくと、世界に音が戻ってきている。

 肩が重い。どっと気疲れした。


「いよいよ、はじまったな――」


 おれは思ったことを口に出してみた。

 いよいよはじまったんだ。

 なにかが、動きだしている。おれの忘れている、なにかが。

 慎重に行動するんだ。情報を収集し、分析するんだ。

 正しい検討と正しい行動。その先にきっと、記憶喪失の真相は現れてくる。

 謎の頭痛、内なる心の強い衝動、そうしたものの正体を理解するときが、きっとくるはずだ。

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