11-1.拘束
11
目が覚めたら、記憶がなくなっていた――なんてことはなくて。
記憶はあるんだけれどここがどこなのか、そしていまがいつなのか、わからなかった。
どうやら病院、らしい。白い天井に白いリノリウムの床。ベッド以外なにもない個室。
「あー……これは、マズい」
新座を倒したところまではよかったんだけど――。
おそらく……おれは【長老対話】によって拘束されている。たぶんここは【緑の里】で一番おおきな病院の一室だ。そして病院関係者は、みな【緑の里】政治中枢の息がかかっている。
それもそのはずだ。
すでに里の有力者はおれが【赤の国】のスパイだってことをとっくに看破している。おれの意識が戻りしだい、過酷な尋問やらなにやら――いろいろと面倒なことがはじまるに違いないのだ。
この事態、予想していなかったわけじゃない。
けれど正直、どう切り抜ければいいかわからない。
これも罪滅ぼしと思って、甘んじて【緑の里】にされるがままになるべきなのか……。
そうしておれが途方にくれていると――。
勢いよく病室の引き戸が開いた。
「あ……」
「……騎佳くん」
予期せぬ来訪者は……りむねだった。
目が合う。たちまちりむねの表情が崩れていく。ついには泣きだしそうな顔になり、
「――騎佳くん!」
手加減なしの体当たりをかましてきた。ハグのつもりらしいけれど、あいにくおれは感激よりも激痛のほうに意識をもっていかれたのだった――。
目が覚めた。
二回目。
「……おはよう」
ベッドの端にはりむねが座っている。おれが気絶から醒めるのを待っていたらしい。
「えと……さっきは、ごめんね」
「大丈夫」
それよりも。
「いま、どういう状況なんだ?」
「……」
りむねは露骨に表情を曇らせた。
それでもいまおれが置かれている立場や「あれから」おれたちが【緑の里】からどういう扱いを受けたのかを、ぽつぽつと語ってくれた。
りむね曰く。
やはりおれは【長老対話】の判断により、この病室に拘禁されているという。
またおれだけでなく、りむねたち女子三人もこの病院から外へは出られない。
【赤の国】のスパイ活動についての重要参考人として、一時的に行動の自由が制限されているのだとか。
三人には、迷惑をかける――。
さらに、これは当然といえば当然のことだけれど、【赤の国】が【緑の里】に敵対的、侵略的な行動を起こしたという事実が里の上層部に共有されたため、その対応に関する協議が何度もくり返し行われており、ちょっとしたパニック状態に陥っているという。
有力者のなかには、おれに対する厳罰を主張する者もちらほら存在するらしい。
「でも、絶対に悪いようにはさせないから」
と、りむねは強く語った。
「騎佳くんは【赤の国】の被害者なんだよ。自ら望んで戦いに身を投じたわけじゃない。だから罰を受ける必要なんて……これっぽっちもないはずだよ、ね?」
「ありがとう、でも、報いは受けなくちゃいけない」
「……報い?」
「そうする必要があったとはいえ、おれの手はもう清潔じゃないんだ。人間をひとり、殺めているわけだから――」
おれは新座督信を撃ち殺している。
外国籍の人間による殺人について、里がどのような処置を下すのか知らないが――無罪放免にならないであろうことだけは、確かだ。
「それは――里を守るためだったんだから、仕方がないよ」
「とにかくおれは里の決定に従うよ。たとえ死刑を宣告されても。体制を相手にして抗うのは、なんだかもう疲れた」
「死刑――ううん。そんなことには、させない」
「おれは『殺し』たんだ。殺されても、文句はいえない立場だ」
「そんなのって……」
「りむね。――ありがとう」
りむねはとうとう泣きだしてしまった。
胸に顔をうずめてくるりむねを、おれはそのまま気の済むようにさせておいた。
もう、じたばたしてもどうしようもないのだ。




