10-2.裏切り者には死を
黒衣の男たち――新座の配下の捜査官たちが、それぞれ手にした火器で援護射撃を開始。
しかし、この音のない領域【廃絶】のなかでは、それは有効とはいえない。
少なくとも、神器による戦いのエキスパートであるりむねたちにとっては。
「神器――【血碧戦陣】!」
りむねが指先から散らした血液が、碧く輝いたのちに武具のかたちをとる。
それらはみずからが意志をもっているかのように挙動し、鉄壁の盾となってすべての銃弾をはじいていく。
さらに、
「神器――【赤竜アマディス】【青竜ガラオール】!」
羽穏の呼びだした二体の火炎竜が、鉛弾の射手たちへ無慈悲に殺到する。
黒衣の男たちは対抗する手段をもたない。重い火器を投げだして、命からがら退却する。
くわえて、
「神器――【紅弾鳥銃】!」
背中を見せた敵どもを、唯香の紅色に光る弾丸が追いたてる。
たちまち、その場に残っているのは新座督信ただひとりだけになってしまった。
おれもただ指をくわえて見ているわけじゃない。
「神器――【女神虹輪】」
おれの神器は変幻自在、帯びた色によってさまざまな効果を発揮する光の輪。
「悪徳――【憤怒】!」
真っ赤に染まった光の輪が、バチバチと音をたてながら新座に向かっていく。
【憤怒】の赤は呵責なき攻撃の赤だ。これを真正面から喰らったらひとたまりもない。新座はそれをよく見抜いていた。
「RANK:許可A暫定神器――【叢雲を寄せる防楯】」
【憤怒】の輪は命中する直前ではじき返されてしまった。
新座の神器は――不可視の壁、透明の盾だ。
「騎佳くん、援護するよ!」
黒衣の男たちを追い散らしたりむねたちが、新座へと攻撃の照準をあわせる。
新座は慌てるわけでも動揺するわけでもなく、ポケットに手を入れて立っているだけだ。
「【斧】!」
りむねが血液から生みだした巨大な斧が、ぐるんぐるんと回転しながら新座を襲う。
しかしこれも、新座の周囲に発生している透明の壁がはじき飛ばした。
羽穏の竜たちもその壁を破ることはできず、唯香の弾丸でも撃ち抜くことができない。
「もうじき、反撃に転じようか」
新座は残忍な表情で、
「よく見せてやろう。『七賢対応』が、いかに合理的で完璧な狩猟プランであるのかを」
あいかわらず、こちらの攻撃は神器【叢雲を寄せる防楯】――新座をあらゆる衝撃から防護する透明の壁にはばまれて、ひとつとして有効打にならない。
新座は鷹揚な仕草でポケットから手をだした。
「さて。……RANK:許可S暫定神器【疫病を齎す銀弓】」
近くの物陰から、男の悲鳴が聞こえた。おそらくは新座の部下の捜査官だ。
「よしよし。お前のエネルギーを利用させてもらう。そのために連れてきたのだから」
どうやら神器の発動によって、仲間のひとりからエネルギーを搾りとったらしい。
新座は両手を妙な風に動かし、固定した。まるで見えない弓を構え、見えない矢を放とうとしているような具合だ。そして、その標的は……おれだ。
透明の矢が放たれる。
おれはとっさに黄色の輪、【貪欲】を展開して防御を図ったが無駄だった。
それほど、新座の矢の威力は強烈だったのだ。
命中の瞬間は覚えていない。
気がつくとおれは、無様に仰向けになって地面に倒れていた。
みぞおちにすさまじい痛みが走る。とてもじゃないが立ちあがれない。
「悪徳――【蒙昧】」
黄緑色の輪をフラフープの要領で身体にまとわりつかせる。
【蒙昧】は感覚をひとつ機能停止させる効果がある。おれは痛覚を遮断し、身体にとんでもない負担を与えているのは承知の上で、無理に立ちあがった。
「……っ!」
見ると、女子たち三人ともが倒れていた。
いま、この場で立っているのは新座とおれだけだ。
女子たちもあの【疫病を齎す銀弓】にやられてしまったものらしい。おれは急いで駆け寄り、
「大丈夫か?」
「……うん、なんとかね」
りむねは横になったままうなずいた。ほかのふたりも同じように、平気だという。しかし、それぞれがわき腹や腿をおさえている。攻撃が命中した箇所を。
おれは女子たちを庇うようにして立ち、
「やってくれたな」
「やったとも。……まあ、こちらの代償もちいさくないのだが」
少し離れたところには、黒衣の男が精も根も尽きはてて倒れている。矢の射出には、生きた人間のエネルギー源が必要であるようだ。
「ともあれ、勝負はあった。おれの矢はお前たちにトドメを刺す分くらい、まだ十分残っているんだからな」
そして新座はふたたび、見えざる弓を構える。ぴったりおれの心臓を狙って。
「裏切り者には死を――」
新座の指がぴくりと動いた。




