ゲームスタート 0→1 ③
遼也は起き上がると辺りを見渡した。
部屋は一面白で、学校の教室くらいの広さだった。
部屋の奥には大きな箱がある。
次に遼也は自分の身体を確認する。
服は部屋で着ていたものではなく、質素で、RPGの主人公の最初の装備、といった感じの服だった。
「一体、何が起こったんだ」
自分の身に何が起きたのか遼也は思い出そうとするが、本を開いた瞬間光に飲み込まれたことしか覚えていない。だが、
「あれが原因だろうな」
それ以外に思い当たる節がない以上、それが原因だろうと遼也は考えた。
「さて、どうするかな」
遼也は部屋の中を歩き回り、部屋に箱以外に何かないか調べる。
部屋の壁を押したり、床をじっくりと観察してみるが、仕掛けはなかった。
「残るはあれだけか」
遼也は部屋の中にある唯一のオブジェクトである箱を開ける。
中には、剣、弓、槍が入っていた。
「なんでこんな物があるんだよ」
そう言って遼也は剣を手に取る。
重い。その剣はズッシリとしていて、これまで授業以外でたいして運動したことのなかった遼也には、両手で持ったところで振れそうになかった。
剣を箱に戻し、弓を取ろうとしたが、遼也は弓道をやったことはない。
自分では扱うことはできないだろうという予感がした。
では、槍はどうか。
これもない。遼也には武器を扱える自信がない。ずっと家の中で読書をしたり、ゲームをしてきたからだろう。
それに、どうしてここに武器があるのか、武器が必要な物なのか。
それがわからない以上、武器を持つ必要はないと遼也は判断した。
そもそも、窓も出口もない部屋に武器が必要だとは思えない。この部屋にゾンビやモンスターがわらわら湧いて来るなら話は別だが。
遼也は箱を閉じる。
その瞬間。
ドサッ!
何もない空間からかばんが遼也の背後に落ちてきた。
それと共に箱があるのとは反対側の壁が消滅した。どうやら外に繋がっているようだ。
「一体どうなってんだこの部屋は」
遼也がかばんを拾うと、口が空いていたようで、中から一冊の本が出てきた。
「こ、これは」
その本は遼也が手に入れたばかりの本、『WONDER WORLD』だった。
「なんでこんな所に」
遼也は本のページをめくってみるが、そこにはただ、「一」とだけ書かれていた。
「そういえば」
遼也は自分の左手の甲を見る。
そこにも「一」という文字が刻まれている。
本の表紙に書かれていた「GAME BOOK」の文字、そして手の甲と本に書かれている「一」の文字。
遼也はだいたいのことを察した。
「ここはゲームブックの世界ってことか」
なら武器も必要かもしれない。遼也は振り返り、箱を開けようとした。
が、箱がない。剣や槍が入るサイズの箱が忽然と消えていた。
「なんでもありかよ……」
遼也は肩を落とす。この世界が本当にゲームブックの世界ならば、さっきの剣や槍はどこかで必要になるのだろう。だが、それを手に入れられなかった。
その事実が遼也に重くのしかかる。
「まあ、後悔してたってどうにもならないか」
遼也はかばんに本を入れ、背負うと部屋の外へ向かって歩き出した。
冒険を始めるために。