ゲームスタート 0→1 ②
店の中は薄暗く、かなり狭かった。
店内にあるのは天井の半分程の高さの棚のみで、両壁にある棚には骨董品が。
真ん中にある棚には、ずらりと本が並べられていた。
遼也と包が狭い店内をゆっくり見て回っていると、急に遼也が足を止めた。
「どうした、遼也。何かいいものがあったのか?」
包が遼也に話かけるが、それに遼也は応えず、じっと一冊の本を見ている。
「遼也、遼也! しっかりしろ!」
包が遼也の肩を揺すると、遼也はハッと我に返ったように包を見た。
「わ、悪い、包。本棚を見ていたら急にこの本に目が吸い寄せられて」
そう言って遼也は、一冊の本を手に取る。
黒一色の本の表紙には、白い文字で「GAME BOOK ~WONDER WORLD~」と書かれていた。
「ゲームブック? ゲームの攻略本か?」
「なんて説明すればいいんだろ。本を読みながらプレイするRPGって言えばいいのかな」
遼也は上手く説明することができず、苦い顔をする。
「まあいいや。で、遼也。今回の報酬はどうするんだ」
「この本がいいかな」
「了解。じゃ、さっさと買って帰ろうぜ」
遼也が包の要件に付き合う代わりに、その行先で包が遼也に何かをおごる。それが二人の間で交わされている約束だった。
店の奥に行くが誰もおらず、レジも見当たらない。
「すみませーん、お会計お願いします」
「買うものはそれだけかい?」
包が店全体に聞こえそうな声で店員を呼ぶと、遼也たちの後ろから声がした。
声の主は老齢の男性で、ファンタジーの世界の魔法使いが来ている古いコートを着てフードを被っている。
「うおお、びっくりした!」
包が驚いて大きな声で叫ぶ。遼也は驚きのあまり声が出なかった。
「すまんな、で、買うのはそれだけかい?」
「あ、はい。これいくらですか? 値段とか書かれてないですけど」
「タダでいいよ」
「え?」
包は驚いて聞き返す。遼也も耳を疑った。
装丁は単純だが、作りはしっかりとしているものだ。無料というのは信じられなかった。
「だからタダでいいよ」
包は遼也の顔を見る。
「どうする遼也、やばいものかもしれないぜ」
「いや、いいよ」
遼也は包の手から本を取る。
「じゃあ、これ貰いますね」
そう言って遼也と包は出口へ向かう。
「気を付けてな」
「え?」
老人の気になる一言に遼也は振り返る。だが、老人の姿はそこにはなかった。
包と別れ、家に帰った遼也は、私服に着替えると椅子に腰かけ、さっき手に入れた本を取り出す。
「さてと、早速やりますか」
メモ帳、栞、ペンを並べて最初のページへ進む。
そこには「他のプレイヤーと協力し、WONDER WORLDをクリアせよ」と記されている。
「他のプレイヤー? ゲームブックなのにか?」
疑問に思いながらページをめくる。
その瞬間、遼也の視界は白い光で埋め尽くされた。
「うう、一体何が起きたんだ」
遼也が目を覚ますと、そこは白一色で囲まれた部屋だった。
「ここは……、どこだ……?」