ゲームスタート 0→1 ①
本題に入るまでだいぶかかりそうなので、区切ります。
梶原遼也が通う高校の昼休みはいつも通り騒がしかった。
教室では、いくつかのグループができ、噂話に花を咲かせている。
その噂話のほとんどが、最近話題の連続行方不明事件についてだ。
ここ一ヶ月の間、家にいたはずの人間が急にいなくなるという摩訶不思議な事件が、連続して起きていた。
部屋には携帯が置いてあり、靴も玄関に置いてある。窓から外に出た痕跡もない。
そんな事件に、自分たちが通う高校の先輩や後輩や同級生が巻き込まれたともなれば、噂にもなるだろう。
遼也のクラスメイトも一人、この事件に巻き込まれていた。
新山波香。行方不明になった遼也のクラスメイトの名前だ。
彼女の印象を聞かれたら、いつも静かに読書をしている地味目の眼鏡っ娘、とクラスメイト全員が答える。
それが新山波香という少女だ。
遼也も読書が好きなので、話しかけようと思ってはいたが、読書の邪魔をしてはならないと思い、話せないうちに彼女は行方不明になってしまった。
彼女に一体何があったのだろうか。
そんなことを考えていたときだった。
「おい遼也、聞いたか?」
後ろから声をかけられ遼也が振り向くと、そこには遼也の友人の横井包がいた。
包は高校の近くにある定食屋、横井食堂の一人息子で、定食屋に来るおじさんやおばさんから人気があり、店の手伝いをしながら色々な話をして、多くの情報を収集している。
包に聞けば市内のことはなんでもわかるため、情報屋と呼ばれている。
「どうした、包」
「隣のクラスの華鳴さん、行方不明だってよ」
華鳴穂乃果、文化祭のミスコンで一位に輝いた学校のマドンナだ。
「華鳴さんが? じゃあ、隣のクラスの男子たちは大騒ぎか」
「いや、そうでもない。ほら、彼女は性格がアレだから」
「あー、なるほど」
だいぶ裕福な家庭で育ったらしく、華鳴穂乃果は「穂乃果」というおっとりとした名前とは裏腹に、強気な性格をしていた。
お嬢様。
それが華鳴穂乃果を表す言葉だ。
「で、要件はそれだけか?」
「おおっと忘れてた。話したいことがあったんだ」
包が遼也に話を持ち掛けるときは、だいたい協力してもらいたいことがあるときだ。
「商店街の路地裏にさ、新しい店ができたらしいんだよ。すごくボロい見た目の店が」
「それで、そこに一緒に行ってもらいたい、と」
「流石遼也。わかってるじゃん」
これまで何度も同じパターンがあったため、幼馴染である遼也にはまるわかりだ。
「了解、じゃあ放課後な」
「依頼料はいつも通り払わせてもらいますよ」
そこでちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り、包は席に戻った。
放課後、遼也は包の案内で、例の店に来ていた。
店は洋風の作りで、包の話通りボロボロで今にも崩れてしまいそうだ。
「ここか? 本当にボロいな」
「だろ。でもさ、何があるのか気になるよな」
「確かに」
遼也は店のドアをそっと開けると中に入って行った。