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転生失敗者の異世界奇譚  作者: 水瀬 春樹
一章 異世界チュートリアル
9/15

理不尽すぎる洗礼

えぇと、インフルです。


今回煙草の描写が出ますが未成年者の喫煙は禁止です。くれぐれもなさらぬように

 拝啓


 前略


 沙羅様、渚様、次いでの神様。お元気でしょうか。


 私は今、空を飛んでいます…というか落ちています。


 一体どうしてこうなってしまったのでしょう。


 いや、ホントになんでさ…。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 遡ること…と言ってもたいした時間では無いのだけれど、とりあえず神様と別れ日本に転移する所までは出来ていた筈だった。

 暗闇が晴れ段々と嘗て一瞬だけ通っていた学校の校門が見えて来て華麗に?日本に着地、その瞬間から周りのJKに絡まれ始めたので回避しつつ取り敢えず近くにいた一見無害そうな5人組の集団に接触しようとしたその時!


 なんかデカい扉が出てきたと思ったらいきなり辺りが真っ白に染まり…そして気が付いたら空中、ニュートンの法則にしっかりと従い現在に至ると。


 取り敢えず今現在空中を絶賛落下中という事は解るので極力下を見ないように現状を分析する。

 下を見るのが早いのは知ってる(理解してる)…知っているが――。


 「高所恐怖症(苦手)なんだよ、畜生…」


 あの時降下作戦なんてやんなきゃ良かった…訳のわからん弾幕の中ほぼパラシュートなし

 のスカイダイビングだぜ?化物とやる前におっ()ぬわ。

 …という訳で恐らく下見たら気絶する。うん。


 そう考える間に一陣の風が通り過ぎる。

 たった今わかったがやはりここはファンタジー世界というヤツらしい。


 だってさっき通り過ぎたの明らかドラゴンなんだもん。


 つまり、現状を打開する術がない今、ほぼ人生詰みなのだ。


 ふと思ったけど人間ここまで理不尽な事があると逆に冷静になるものなのね。

 転移してモノの数秒で詰む世界、なかなかどうして異世界というものはこうも人に残酷なのだろうか。


 「全ては夢でした…なーんて、どれだけ楽なんだろうな」


 総べてはあの日々を取り戻す為、だったんだけどね…。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 どれ位落ちているのかはわからないが既に下の景色がある程度見え始めている、とりあえずあと1,2キロ程だろうか相も変わらず打開策は浮かんで来ない。おもむろに煙草に手を伸ばし口にくわえてようやく気付く。

 役割を終えた右手を伸ばし青天にかざす。

 黒の革手袋と服の合間に出来た隙間からそれを見た。


 不意に、涙が流れた。


 手があるのだ。義手でない、血の通った肌色の、人間の手があったのだ。


 「やっぱ夢じゃないのか…」


 その声は喜色か先の皮肉への落胆か、ただ一つ頬を流れる水滴はきっと喜色故のものなのだろう。

 それだけは確信できた。


 「取り敢えず、約束は守ってくれたんだな」


 静かに右手を握りしめ、目を瞑り目に溜まった水を流し切る。そうだ、結果として今ここに居てしまっていても1度は来る事が出来たのだ。


 例え数瞬であろうと願いは果たされた。

 なら今度はこちらがそれに応えなければならない。


 少女(神様)は夢を叶えろと言った、彼女()は幸せになれと願った。


 なら、例え何があろうと幸福であらねば嘘だろう!

 その道の半ばで、しかも初っ端で、呆気なく落下死なぞどう間違っても有り得ない。


 「ありがとう、神様」


 静かに目を開き現実に帰る。胸ポケットからジッポーを出し火をつける。


 差し当ってすべきはいつの間に割とすぐそばに迫って来た巨大怪鳥から()()()()()()()だ。ここが空である以上こちらに勝ち目は無い、()()()何とかと考えたが何も起こらなかった。


 「っ、馬鹿か!」


 思わず悪態が口から飛び出た。今は唯の人間なのだから、能力が使えないのは分かっていたはずだ。それなのに真っ先にそう思い立つなど、どれほど自分は甘えていたのだろうか。


 怪鳥が嘴を大きく広げこちらを喰らわんと迫る。そして眼前に迫りその嘴で挟み込む。


 「――くっ」


 あとは飲み込むだけなのだがその気配が無い。そもそもまともに挟んですらいない。その代わり…と言ってしまおうか。上下の嘴や首に何かが雁字搦めに巻き付けてあるのがうっすらとわかった。


 怪鳥も現状の理解が出来ず何度も口を閉じようと上下させるがある一定の位置で動きを止める。


 危なかった…


 何をやったかっと言われれば鋼線を首、上の嘴に巻き付けて首の方を基点にして上嘴を釣り上げた。がそれだと喰われはせんでも嘴からぽろりと転げ落ちるので上から伸ばした糸を下にも巻き付けて身体を固定させる。


 「これで喰われるのは大丈夫だとは思うが…」


 鳥は一旦喰らうことを諦めたらしく、今度は振り落とそうと破茶滅茶に飛んでいる。

 必死にしがみつきながら左手で繰る。切れることはないとはいえ力は強い、抑えつけられねば詰みなのは変わりないのだ。

 その間空いている右手を遊ばせる理由はなく、鞄の中身をゴソゴソと漁らせていた。普段は腰やら脚やら胸やら背中やら…至る所に装備してある武器も今は鞄の中で眠っている、こうなるなんて想定してなかったしね!

 取り敢えずナイフを出してみるが問題はここからだ。


 問題はなぁ、ここからなのよねぇ…。

 なんと今の所攻撃手段が無い、と言うか届かない。あと何故かすっごい煙い、って煙草ぉ!もうやだこの嘴の中!…取り敢えずいろいろ準備して脱出…ん、脱出?あー成程、そうすればいいのか。


 早速準備に取り掛かる。先ず鞄から本来鋼線を使う際に扱う装置――ベルトに付けるもので筒状のものに糸を巻き付けて収納、そこからナイフに付けたりアンカーにつけたりと色々とできる――を左右両方の腰に付け、首と嘴にそれぞれ糸を伸ばしている筒状のもの――えぇい、ボビンでいいよもう――を装置に取り付ける。あとは嘴の方を軽く切れば終わりだ。

 あとは覚悟をすれば良いだけ、身体を固定している糸にナイフの刃を当て大きく息を吐く。


 「スリーカウントだ。1..2..3..GO!」


 自ら発した合図と共に地上へ向けて思いっきり飛び降りた。

 すぐさま身体ごと後ろを振り返り鳥を見上げる形をとる。何と予想外な事に鳥さんはまだこちらが飛び降りてることに気付いていない…いや、嘘でしょ?!まぁ都合はいいのでそのまま続行。


 鳥の方を見やると嘴の方の糸がこちらに引っ張られ解けてきている。


 「そろそろだな…」


 追加の糸束を鞄から用意しながら呟く。一瞬、首の方の糸用のボビンがカラカラと鋼線を送り出すのを見つめ再び鳥…その首を凝視する。

 あと少し、あと少しだ…。これがちゃんと機能してくれればいけるはずだ。


 カラカラとした音が止まった。それを把握した瞬間にニヤリと口を歪め、中指を立てた。


 「堕ちろクソ鳥(ターキー)!!自業自得で死にやがれ!!」


 送り出すべきものを無くした車は回転をを止める。自ずと糸に括りつけてある身体は落下を止める。そして慣性の働きにより身体は一瞬だけ跳ね上がる。紐にかかる重力に従って働くエネルギーはこの一瞬だけ、急速に鳥の首を絞めていく。


 「―――――!!!」


 鳥が呻き声をあげる。つい気が緩み、僅かに笑みを浮かべる。このまま堕ちてくれれば助かるのだが。


 「あ、えっと…ちょっ!」


 がそう上手くいくはずもない。鳥はくるりと旋回し真後ろ、此方と逆方向へ逃げるように降下していった。


「うぉおぁぁあああぁあああああああ!!」


 僕は急速な勢いで落下して行った。しかも速度はどんどんと上がっていく。それもそうだ、首の圧迫感から逃げようとして逆方向に飛んでるのに飛べば飛ぶほど締まっていくのだ。いや、もうね…それよりも。


 「怖ぇ!拙いってレベルじゃねぇ!怖ぇ!!」


 そりゃそうだよね。軽いジェットコースターよりも速度出てるんじゃないかしらん?もう目を開けるのも怖い。と言うかここまで来ると風が痛いから開けたくない。


 「まぁ…仕方ないかぁ」


 渋々鳥が落ちていく方向を見下ろす。遠くに塀に囲まれた巨大な都市があった。其の中央には都市に劣らぬ存在感を纏った石作りの城が建っている。良く見ると少し城から離れた所に少し作りが異なる箇所があった。円形で柱が…8本?円を囲むように等間隔で配置されている。


 「…集会のための広場とか、な訳はないだろうしな」


 まぁ何れにせよここに降りるのがベターだろう。となると何としても絶賛落下中の鳥を制御しなければならぬのだが如何に…。


 取り敢えず近くのはマストなので嫌々鋼線を手繰り近づいていく。痛いくらいの強風に髪が巻き上げられ、少し長めの髪で隠した醜悪な傷が眼帯の下を走っている。気を抜けばその眼帯も持ってかれてしまいそうだ。流石にR指定入っちゃうから死守せねばならん。

 なーんて現実逃避してるうちに何とか背中に張りつけるところまで来た。そこでバックからアンカーを二本取り出し、装置のギミックを使って糸を取り付ける。そしてそれを鳥の翼に巻き付けるように放る。…よし!成功だ。

 滅茶苦茶に鳥が暴れるが首と翼を抑えられてる以上その抵抗も意味を成さない。

 背中に取り付き下を見下ろす。このまま落ちれば城の敷地内には入れるだろうが大怪我は必須だろう。この世界の医療技術の程を知らぬ以上下手に怪我をする訳にはいかない。よって安全に着地する必要がある。


 「使える糸は残り9本、柱は8本…よし、アレが使えるな」


 そう呟き糸を一定の長さで切ったものを4本作り両端にアンカーを付ける。次にバックからグローブを取り出し右手に嵌める。そして後ろの装置の空きスロットすべてにボビンを設置し、アンカーを取り付ける。その後右側の5本を引きグローブへと通す。そしたらグローブの指それぞれに糸を通して爪のところで固定する。

 このグローブには糸を操作するための物で、手首から甲を伝って指へ糸を張り細かい操作を可能にしている。重宝するが壊れやすいので、通常使う際はこの上に手甲を嵌めるのだがまぁ今回は問題ないでしょ。


 下を見下ろすと広場がすぐそこに来ていた。頭の中で空中での動きを反芻する。よし、動ける。行ける…行ける…征ける――!!


 「征け!!」


 掛け声と共に広場へ飛び降りる。あらかじめ仕掛けた三本の糸が鳥を引っ張っているのを確認し、最初に作った4本を対角線を描く形で投擲し網を作る。そうやって土台を作ったら次は左右4本、計8本の糸を土台と柱、そして鳥に絡めていく。土台を触らぬ様に通りながら最後の1本、右の親指の糸を左手で鳥の背を越す形で大きく山なりに放り、適当な地面に突き刺す。

 全てを終える頃にはもう地面に落下しそうであったがその寸前、一気に仰向けに引っ張られる。鳥が網にひっかかり落下をやめたのだ。


 身体を起こし地面に足をつかせる。久々の地面だ。もうホント、生きてるって素晴らしい。右手が引っ張られるのにつられて上を向いて我に返る。そういえばそうだった、これでほんとに最後の仕上げ。これで仕舞だ。

 力に逆らって挙がっている腕を斜めに振り下ろし、拳を作る。

 すると糸が生きているかのように鳥の嘴を首を胴を翼を足を…体全体を締め、伸ばし空中に大の字に貼り付けた。


 大きく溜息を吐く。あぁ~怖かった…。もうホント最悪だよ。

 緊張が解けたお蔭でようやく辺りの音が聞こえ始めた。何やら騒々しい。周りを見渡すと本や杖をもったゆったりとした服を着た集団が驚いたり騒いだり倒れてたり鎧を着た屈強な男に担架で運ばれてたりと忙しそうにしている。担架の行方に目をやると何やら冠を被った偉そうな人物が方々に下知を飛ばしている。それらは少し遠くの出来事。近くに目をやると足元には6つの謎に豪華な円、その上にそれぞれ少し前に見た顔が5つこちらを見上げている。あと1つの円には誰がいるのかって?僕だよ畜生。もうすっごいカオス。

 確実に原因僕だろうけどさ…。

 何をどう器用に間違えたらこんなピンポイントに落ちるものなのかね?


 いや、もうホント――


 「何この状況!?」


 フィルターだけになった吸殻が口からぽとりと下に落ちて行った。

糸の操作に関しては残念ながら全くの門外漢です。それ故、出来るだけ書くようには致しますが相手が突然糸に絡まってたり、足元に大量の糸系トラップが張られてたりなどと言うようになってしまうと思われます。


また、夜月さんの糸を操る為の機械ですが某『斬る!』作品の松岡さん演じる緑髪の方の様なものとお考えいただければ有難いです。

そして残念ながら夜月さんは彼を含む偉大なる先達の半分も糸を操ることはできません。もっと言えば糸を操るパーフェクトな執事とやれば秒で3回は死にます。


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