もう一つのプロローグ
幕間とこれを間違えて書いてしまい大惨事…めっちゃ遅れた
もう一つのプロローグ
「あぁーつっかれた…」
隣の席でガタリと椅子の引く音がし、ソイツは大きなため息と共に腕をめいいっぱいに天井へ伸ばした。
それもそうだと思う。何せ二学期末の定期試験、個人的最難関にして3日目の最終科目である数学Ⅱを終えたのだ。俺だって今は机の上に突っ伏して両腕をだらしなく伸ばしてる最中だ。
あと5分このままで居られたのならそのまますっきりと眠りに入れる自信がある。
いやほんと、疲れたよ…パ○○ッ〇〇―そこまでの話じゃあないか、ならそろそろ起きないと…このまま寝落ちなんてしたら数IIに負けた事になる。我ながら謎理論が過ぎるけれども仕方ない。
しかし眠たい…どうにかして覚まさないとだけど、どうしたものか…いや、丁度いい所にいい揶揄い相手がいるじゃないか。
「なぁ直衛、そういやお前さ疲れるほどやって無くない?」
隣の席、丁度伸びを終えた親友、直衛 緑にそう声を掛けた。無論、ちょっと嫌な笑みも忘れず…
「あ?どっからどう見ても疲労困憊ってヤツだろうよ。やっべぇな…ダチがいつの間に呆けちまった」
意図を理解してか即座に眉間に皺をよせ舌を出し表情筋を総動員して嫌味な顔を作ってきた。
⦅表情筋筋肉痛になっちまえよ…⦆
「聞こえてんぞー」
漏れてたか…
「読心術か?まさかそんな器用な芸当を身につけていたとは思わなんだ。不器用で定評のある君がねぇ…『みどりちゃん』説濃厚か?」
「アホか、その呼び方嫌いだってのにお前は…」
はっはっは…取り敢えず笑ってごまかす。
直衛は下の名前で呼ばれるのを好まない。女みたいで嫌らしいが『緑』と言う名前は好きというから難しい。なんでも―――
「で?俺の心地の良い背伸びと二度寝の予定を遮ってまで何の用だよ」
「暇つぶし」
「は?」
「いや、暇で暇で眠いから眠気覚ましを兼ねた暇つぶしをとね」
あ、露骨に嫌そうな顔してるよアイツ…。
「忙しいってのにそんなんで呼ぶなや…。あー!二度寝しようとしてたでしょとか言うなよ?俺はそれに忙しいんだ」
「開始15分で轟沈した奴の言うことじゃ無いんだよなぁ」
「うっせ…お前だって似たようなもんだろ?涼。俺に構う暇あったらそこのフル装備片せよ」
そう言われてちらりと横目で机を見やる。終了直後のダイブで押しのけられ、机の端ギリギリの所においやられた鉛筆型のシャープペンシルとこっそりと消しゴムに仕込んだ六面ダイスが肩身狭そうに置いてある。あ、やっべぇシャー芯落ちた。
「ほーら言わんこっちゃねぇ」
ちくしょう、ここぞとばかりに来やがって。
「あのなぁ、知ってるか?鉛筆ってのは偉大なんだよ…」
「いや知らんがな」
シャーペンのそれぞれの面は薄く削ってあり番号とアイウエオが書き込まれてある。そう、例のアレだ。
「ほんとにさ、なんで文理別れんの3年なのかね…」
「知るかよ、早いとこ諦めて英語に全力を尽くすんだな」
「その薄ら笑い腹立つわぁ…」
「聞こえてんぞー」
「今度はちゃんと聞かせてんだよ…」
そうこうしてるうちに担任が来る
「うし、出席は…全員いるなー。チッ…直衛!東宮!さっさと生き返れ、円滑な学活の進行の邪魔をするな。その分俺が家に帰る時間が遅れるだろうが!!」
なんとまぁ理不尽な…。
いや、まぁいい先生なんですけどね。
「なーぜそこで『理不尽言うなし』みたいな顔してんだあ東宮」
(何故わかったし…)
「顔…と言うか唇に 出てんのよ若造が」
「うわっ何それ真澄センセ、エスパーじゃん!?」
「読唇術だよど阿呆。先生やってんだからその程度身につけてるに決まってんだろうが、普通。あと東宮 亮君。俺を呼ぶ時はちゃんと名字で呼びなさい、俺の名前は添島真澄だ。はい一同復唱!!」
((いや普通じゃねーよ))
当然名前を復唱などはするはずも無く、代わりに一斉にツッコミが入る…心の中で。
いやだってめんどいもん。
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「――てなわけで以上で伝達事項は終了。掃除は…テスト明けだし無しって言いたいけど流石にきちいか。取り敢えず履くくらいはやらなきゃダメだよなぁ…面倒くせぇ。」
HRも終わりに差し掛かる頃添島先生は出席簿を睨みつつ、そう頭を掻いた。
「んと、登板表回す…のは嫌そうだ。じゃあ……ああ面倒くせぇ。東宮と直衛、あと二宮、弓月、それと歌川!履くだけてきとーに履いといてくれ」
「マジで!?うわぁ最悪」
「うるせぇ、どうせお前らまとまって帰るだろ?ならいいじゃねぇか」
「まぁそうなんだけどさぁ…もっとこう、あるじゃん?」
「無いな」
「即答かよ」
「即答だよ。まぁ、そういう事で頼むな掃除終わっても報告は来なくて良いから。最悪サボっても何も言わんから。」
「まぁそういう訳だ。じゃ、待たせたな生徒諸君。ホイ起立!礼!」
ペシペシと教卓を叩きながら起立させ、礼を促す。「ありがとうございましたー」と会釈してHRは終了だ。他所は知らないがウチはテスト明け初日は部活は休みになるので多くの生徒は我先にと教室を出る。俺もそうしたくてたまらないがそういう訳には行かないのが世界だ。
「早く取り掛かるぞ、亮。すぐ終わらせてしまおう」
前の席に荷物を置きながらそう言ったのは二宮 千鶴だ。長身で黒髪、スタイルの良い和風少女。部活はイメージそのまま剣道部だ。一言で言うと風紀委員長みたいなイメージ。…因みに俺はサッカー部辛うじてレギュラーで直衛は陸上の槍投げ。割と上手い。
「そーそー、私ら完っ壁に巻き込まれたんだからちゃっちゃとやりなさいよ」
と上から目線なのが弓月 由良、サッカー部のマネージャーでなんだかんだ10年くらいのお付き合い。所謂幼馴染と言うやつ
「由良ちゃんこんな事言ってるけどさっきは普通にしてたんだよぉ」
おっとり爆弾投下したのが歌川 美鈴、5人の中で唯一の文科系(詐称)である吹部希にグラウンドを走る見慣れぬジャージ集団の正体だ。木管なら何でもござれらしい、普通にすごい。
…と言うか基本的に皆謎にスペックが高い。あまり詳しくは知らないのだが直衛はあれで国体出てるし千鶴はかなり上の段位持ちな上弓、柔果ては茶や薙刀に至るまで網羅してる。剣道部なのは柔、剣、茶の中でランダムに決めたらそうなったかららしい。挙句学業に於いても成績優秀な以下略…所謂完璧超人だ。歌川はあれでめちゃくちゃに体力あるし先も言ったように木管では何でも吹きこなす。何度か聞いたことがあるがそこら辺に疎い俺ですらも圧倒された。
由良だってマネージャーなんてしてるが本業は空手だ。かなり出来るらしい(千鶴談)残念ながら千鶴には及ばないらしいが千鶴がチートなのだから仕方ない。あの人リアルチートを地で行くもん。
ぶっちゃけ俺だけがぶっちぎりの凡人な自信がある。
とまぁ一見して接点が無さそうな上、決してお互いの家が近いという訳では無い俺達が一体全体なんの集まりなのかと言いますと――
「んでさぁ亮、今回何当たった?爆死?爆死でしょうね?」
「はいはい爆死しましたよ。まさかあそこまで沼るとは思わなかった」
ニマニマと聞いてきた由良に内心ため息混じりに答える。
『爆死』と言う単語でもうお分かりだと思うが俺等5人は所謂ソシャゲ、ネトゲ仲間という訳だ。意外だろ?彼の完璧超人二宮千鶴もネトゲをやるのだ。下手をすると一番やり込んでるまであるかも知れない。
とまぁそれはそれとして、『爆死』と言うのは俺達のやっているゲーム『NIRVANA SWORD ONLINE』通称『NSO』なるオンラインゲームだ細かい設定や世界観は割愛するがこのゲーム、PCとスマホを連動させることが出来、外でも快適にプレイ出来ると言う優れものなのだ。そして俺はそのゲームで定期的に行われるガチャイベント『レジェンドフェス』で華麗なる爆死を決めたのだ。実はこのゲームガチャも割と素敵仕様でなんと課金石よりはコストが高い代わりにゲーム内マネーでもガチャを回すことが出来る。その為フェスやイベントガチャの後には毎度の如く破産寸前まで追い込まれたプレイヤーが続出する自体が起る。
――という訳だが…
「まさかあんだけ引いて爆死するとはなぁ」
黒板側からロッカー側へ箒でゴミを送りつつボヤく。
「亮、お前…何回引いたんだ?」
それに反応してか、直衛が踏み込んできた。
「100回ほど」
「爆死だな」
「爆死だよ」
「―――――」
そうしてまた黙々と作業に戻る。
そして数分が経過しようやくある程度ゴミを纏め終わり、それを美鈴がちりとりで回収しぱたぱたと小走りでゴミ箱に入れに行く。
「よし、帰るぞ。…ん、そう言えば東宮達、今日はいつ頃集まる?テストも明けたのだからめいいっぱい羽を伸ばそう」
荷物を肩にかけながら千鶴が聞いてくる。
「んーそうね…帰って昼食べて少し休んでだから大体…3時くらいでいいんじゃない?」
「大体そうなるか、じゃあ他も由良が言った感じでいいか?良し、なら急ぐぞ」
二宮千鶴の溌剌とした声、何気ない様に振る舞いはすれど、テストが明けて一番ウキウキとしてるのは彼女なのかもしれない。
教室を出て5人で他愛のない談笑をしながら昇降口へ降りる。そこで中履きを履き替えて自転車勢は急ぎ足で自分の機体を取りに向かう。向かったのは直衛と俺と由良だ。
少しして自転車を取って戻ってきたら千鶴と美鈴が話している最中だった。察するに話題はテストらしい。あ、顔青くなった、さては物理の話か。
俺たちに気付いたらしい美鈴が手を振ってくるのを見て自転車から降り、合流する。
そして校門へと足を向けたその時――
「あんな人…さっきまで居たか?」
千鶴がぼそりと呟く。千鶴の視線の先には巨大なリュックと何やら太めの筒を背負った青年が居た。
「なぁ、でもよ…おかしくないか?」
「なんで?」
「何故って…目立たな過ぎるんだよ」
由良の疑問に対し自信が無いのか信じ難いのか、直衛は目を瞑り眉間を抑えて唸る。
「いや、確かに目立たな過ぎる」
そう、確かにおかしいのだ。大きな荷物や筒に加え、少し変な格好をしているが遠目で見たところその青年はずば抜けて整った顔をしている。所謂イケメンだ。まるでどっかの主人公が漫画の中から飛び出てきた様な感じ、ならば校門の前で屯しているJKに囲まれてないのは些かおかしい。
「…こっちに来るぞ」
そうこうしてる内に辺りを見回していた青年がこちらに気づき向かってきた。右手で軽く手を振っている。そこで少し変化があった。
「お、おい…向こうのJK達、アイツに気付いたぞ」
(…本当だ。なんかすっごいキャーキャー言ってるし写メ撮ってるし)
「由良ちゃん、声出てないよぉ」
後ろのJKの歓声にやや苦い顔で簡単に応えながらも青年はもうすぐそこまで来ていた。
よく見たら左目、眼帯をしている。しかも一般によく見るのでなく、映画や漫画で見る軍人や海賊等が付けるようなモノだ。やはりコスプレとかなのだろうか…いや、無いな。
そして眼帯の青年が口を開き、何やら話そうとしたのだが、その声がこちらに届く事は無かった。俺たちは突如として巨大な扉が現れ、開いたそれに吸い込まれていったのだ。
俺達が最後に見たのは突然の事に愕然とた表情を浮かべた青年の姿だった。
次の幕間を挟んでプロローグは終了です。
些か時間をかけすぎましたか…