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第一章

地図を片手にジャックは新居に向かってズンズン歩いていた。早くしないと引越し屋の人々が舞っている。カメだからって遅れるなどということは許されないだろう。

……と思いつつ、やはりカメであるがゆえの歩みののろさは手の施しようがない。自身ののろさを呪いたい……なーんてね。そんなギャグを言っても全く笑えないし、笑う気も毛頭無いのだが。

うんしょうんしょ、と手荷物のバッグを重そう(ていうか実際重い)に持ち上げて、その荷物のために更にスピードが半減したカメさんは汗をかきながら目的地にたどり着こうとした。

苦節約一時間半経過。やっと新居に到着。

今日から暮らすその家は、並よりちょっと高そうな一軒家だった。深緑色に染まった屋根がいかにも彼らしい雰囲気を醸し出している。

予想に反せず、業者の方々はずっと待ちぼうけていたらしく、中には居眠りまでしている者もいた。これがすべてにおける証明であり、過去を見通す節穴だ。んなもん要らないけどさ。

すいませんすいません、と平謝りして彼らは引越しの準備をした。一瞬ジャックは「居眠りとかしてる暇あったら先に家具置きゃいいのに」と思ったが、その思考は光の速さでショートした。そうだ、理由は知らんが家の鍵は僕自身が持っていたんだった――。

自らの過ちにより、2時間いやそれ以上の無駄な時を生み出していたのかとジャックは心底途方に暮れ、大後悔していた。もし鍵を業者に預かってたらこんなことにはならずに、きっと今頃すべての配置が終わった家で一休みできたというのに。超反省。。

日が暮れ、空の色が橙から紺に変色するかどうかといった頃合いにようやく片づけは終了、ジャックはお世話になった引越センターの人々に礼を言い、外まで見送った。

もう動く気にもなれないが、食事と入浴だけは最低限しなくてはならない。衛生上、不衛生だ。

面倒くさい、とボヤきつつジャックはそのまま歩き、近くにあった24時間営業のコンビニを発見、インスタントラーメンやらレトルトカレーやらをたくさん買い込み、帰宅した。しばらくこれで何とかなるだろう。乱れた食生活だが、しょうがない。

ラーメンをすすって麦茶を飲みほし、しばらくTVを見たあとタオルや財布その他もろもろを持って銭湯まで行った。風呂は一応使えるみたいなのだが、沸かすのが面倒だったのだ。それじゃあ、なんでキミはさっきポットのお湯を沸かす手間暇を惜しまなかったのか、そいじゃあレストランにでも行きゃあよかったのに、といった質問事項には答えを詰まらせる。とっ、とにかく今は食事と入浴を済ませられればいいんだよ! というのが今のところの持論兼結論だ。


無事に家に帰り着いたのが深夜。数年前ならとっくのとうに補導されている時間帯だ。そんな時間に出歩いていても誰の目も光らないのは、こないだ成人(成亀?)式を神社で挙げたための所以である。あ、でも猫の目は光ってたのかな? あと車も。

――と、いうようなくだらないことを頭の中でずっと考えつつ、ジャックは殻の中に籠って眠った。こういう時、コウラって便利だと思うし、自分がカメに生まれてよかった、と一番実感できる唯一のシーンだ。

さて、明日にでも探検したりあいさつしたりすっかな……。楽しみはぐんぐんふくらんでいく。

やがて、鶏が鳴き、同時に夜明けがやってきた。

鶏の声があまりにも大きすぎたので、ジャックは目覚める(というより、コウラからニュッと顔を出す)ことを余儀なくされた。まだ眠いが眠れない、朝はつらいよ……。

出かけようかとも考えたのだが、何分まだ早朝。たぶん近所回りしてもきっと誰も起きていないに相違なかろう。だからって朝食をとる気にもなれない。目を半分閉じて座布団に座ったまま、ジャックはしばらくボーーーッとしていた。うつろになっていたため、彼の視界は時空が歪んでいるみたいだった。もしもこの世界がトチ狂ったらこうなるんだろうな的なことを思っていた。やがて時は着々と動いていき、朝の七時をまわっていた。つけっぱなしにしていたTVからニュースのアナウンサーの声が流れている。

「おはようございます……はじめまして……。僕は昨日越してきたカメのジャックです……。どうぞ……よろ……しく……ぐー……」

ジャックはTVに映った男性アナに向かってそう言った。しかもまだ眠り声である。いい加減に起きろよ。

それにしても彼は本気でアナウンサーに挨拶したのだろうか。それともやはり寝ぼけているのか。

練習か、アホか、それは読者の皆様のご想像にお任せする。すまんね、何も考えずに書いてるんでさ。

30分後。窓から朝の日差しが流れ込んでくる。少し熱い光がジャックの体を照らしてる。うっとうしいなァ、と思い始めやっと動き出す。相当な寝ぼすけさんらしい。

TVの電源をOFFにし、窓を反射的に見た。住民たちが何人か外に出ている。冒険がてらちょいと挨拶でもしよう。

そう思って彼は帽子を被りドアを開けた。まだ自分の未来を知らずして。

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