プロローグ
今日も静かで平和な町、コトブキタークレー。そこには、たくさんの個性豊かな動物たちが楽しく毎日を過ごしている。
そんなコトブキタークレーにたった今、一人…いや、一匹の青年が門を通り過ぎ、町の地に足を踏み入れた。
「ここが聖地、コトブキタークレー……」
彼の名はジャック。今日からここに引っ越し、住民の仲間入りを果たすカメの青年だ。
なぜここに住むことになったのか、というとそれはわざわざ語るほどのことでもない。ただ親元から離れて一人暮らしをすることになったというだけのことだ。きわめて単純でポピュラーな理由と言えよう。
思い起こせば、自分が今現在ここに来ているのは、過去にものすごい苦労をしたことにあるのだ、と彼は気づいた。今では何だか懐かしいあの思い出……。
………
……
…
時を遡ること一日前。ジャックはまだ実家の中にいた。当然のことであるが。
彼は自室で何やらバッグの中に詰め込んでいた。その横にはいくつもの段ボール。つまり、これは引越しの準備ということだ。
青年はすごい希望と不安に満ち溢れていた。一人暮らしをすれえば一日中自由にできる。楽そうだ。そりゃあそうだろう。何せ家の中には自分だけだし。うるさく言う良心もいないのだから。
かなり美味しい目にありつけそうだ。
だが、もちろん不安だって存在する。友人は一人でもできるのか、こんな自分にも一日を営めるのだろうか、非常にくだらない心配ごとなのだが、TVなどの機械類はどのようにしてつなぐのだろうかand so on……。
そんなことを漠然と考えていると、ノックもせずに母親が入ってきた。
「うーわっ、ビックリしたあ! ちょっ……、勝手に入ってこないでよっ!」
「ジャック……、本当に行ってしまうの……?」
ちっ、またこれか。ジャックはとてつもなく苦い物を食べたような顔をした。このセリフ、これまでに何回耳にしたんだろ。しかもこの後に続く会話もほぼ1パターンしかない。どうしたことだろうね。
↓それは以下のとおりである↓
母「母さんはね、あんたのことを思って言うのよ。もしも引っ越し先で何かあったらどうする気? お願いだから考え直してよ」
ジャック「うるさいなあ。何でそういうことを毎日毎日聞かされなきゃなんないわけ!? ウンザリなんだよ。一人暮らしすればそんな思いしなくても済むんだけどねえ」
母「……もう、生意気になって。小さい頃はもんのすごく素直でかわいい子だったのに」
ジャック「……カチン」
……これ以上書くと永遠に続いてしまいそうなので止めにするが、とにかくまあこういった口論や時には取っ組み合いの親子喧嘩の積み重ねによってここに存在している、ということだ。
さて、いつまでも門の所にいるわけにもいかない。仕方なく彼を動かそうか。
「……え。仕方なく!?」