短編版 カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
霧ちゃんさんが職業聖女 性別男というお題を出していたので三パターン程短編を書いてみました。
あとの二作品も来週、再来週の水曜日に随時更新していく予定です。
「これからスキルを得るんだ」
僕は期待と不安を胸に抱きながら教会を見上げていた。
先週、僕は十五歳の誕生日を迎えた。この国の人間はすべて十五歳になると教会で洗礼を受ける。
そして、その時に神の加護、スキルを得るのだ。
このスキルは多岐に及ぶ。
剣の才能だったり、魔法の才能だったり、鍛冶や商売など様々だ。
小さい頃から冒険者になることに憧れていた僕としては戦闘系のスキルが欲しい。
勇者とは言わないけど剣のスキルなんかに憧れる。
でも、魔物と接近戦をするのは怖いから何か属性魔法でも覚えられたらいいなあ。
そんなことを漠然と考えていた。
ただ、それはあくまでも願望である。
スキルは大体遺伝するもので、商人の子供には商売。
農家の子供には農業と親が持つスキルを受け継ぐものだ。
だけど、この年代の男の子だったら格好良く魔物と戦う冒険者に憧れるのは無理もないことだろう。そんなことを考えながら僕は教会を見上げている。
「おい、マルコ。まだいかないのかい」
ペロンとお尻を撫でられた。
「きゃ! もう、ジーク。こういうことは止めてっていっつも言ってるよね! それにいつからそこにいたんだ?」
僕はいきなりお尻を触られてびっくりした。
そんな僕の反応をジークはおかしそうに笑っている。
僕は少しムスッと頬を膨らませるとジークは笑いながら僕の頬っぺたをプニプニと摘まんできた。
「そんなに怒るなよ。本当にマルコは可愛いなあ」
「うう。やぁめぇろぉ」
ブンブンと手を振り回してジークから逃げ出すと彼はまた笑っている。
こいつはいっつも僕をからかってくるのだ。根は良い奴なのにいつも揶揄ってくる。こういうところだけは好きになれない。
こいつはジーク。僕の幼馴染みで凄い奴だ。
体形は細身に見えるが筋肉で引き締まっていて、見た目以上に力がある。
勉強も学校で一番だったし、剣の腕も一流だ。
まだ、スキルを得ていないのにスキルを持つ冒険者の相手ができるのは破格の才能と言えるだろう。
わが街の期待の星。
ジークの父親は国の兵士だが、彼は将来、騎士団に入れるんじゃないかともっぱらの評判だ。
そして、僕はいつもそんなジークと比べられて悔しい思いをしている。
そんなことを考えているなんてちっとも気付いていないだろうな。そんなことを考えながらジークをジト目で睨んでおいた。
ジークは笑顔でこちらを見ている。
「もう、ジークなんて知らない」
そう言って拗ねたように僕はそっぽを向いた。
さっさと教会へと入って行く。
そんな僕を慌ててジークが追いかけてくる。
そして、僕の肩を掴んだ。
「マルコ。ちょっと話があるんだ」
「なんだよ。ジークのことなんて知らないんだから」
そうやって振り解くがジークは手を放してくれなかった。
きょとんとしながら僕は振り向く。
「真面目な話なんだ。聞いてくれ」
そこにはさっきまでのおちゃらけた雰囲気はなく真剣な目をしたジークがいた。
何だろうと訝しみながらも僕は彼に向き合う。
「僕は今日、スキルを得たら王都にいって冒険者になろうと思ってるんだ。だから、マルコがもし、戦闘系のスキルを取れたら一緒について来てくれないか?」
真っ直ぐに見つめてくるジーク。
そんな彼に僕はどう答えていいかわからなかった。
「確かに僕も冒険者にはなりたいと思っていたけど、そんなこと急に言われても困るよ。それに僕が戦闘系のスキルが得られる確率はかなり低いし……」
自分で言っていて少しがっかりしていた。
僕の父親は代々農家でスキルは農業。
そして、母のスキルは料理だ。
ただ、母の母方の祖父が神官だったのでその系統のスキルが得られる可能性はある。
まあ、万に一つあるかないかくらいだけど。
そう言ってみたが
「それでもだよ。戦闘系のスキルが無かったら諦める。マルコに危険な目には合ってほしくないからね。ただ、戦闘系のスキルがあったら考えて欲しんだ」
必死なジークに僕は気圧されて頷いてしまった。
それを聞いてすっきりしたのかジークは祭壇の方に足を向ける。
「さあ行こう」
そう言って差し出された手を僕は握り返した。
「神の子 マルコ。汝は成人を迎えた。ここに神の祝福を与えん。神よ。この者に神のご加護を」
祭壇の前に立つ司祭様が天に向かって祈りを捧げる。
それを僕は跪いて頭を垂れて受け入れる。
そして、司祭様は右手に持つ杖で僕の肩を二回叩いた。
その時だった。
僕の身体が光に包まれた。
「おおおお」
司祭様が驚愕の声を漏らしている。
「リーン ゴーン。リーン ゴーン」
なんの前触れもなく教会の鐘が厳かになりだした。
僕の身体から放たれていた光は収まり、それに代わって、祭壇の上の窓から光の帯が降りてくる。
そこには
「……女神様」
そうそこには女神様が顕現していたのだった。
「いまこの世界には魔王が復活しつつあります。しかし、恐れることはありません。魔王を討ち果たす力を持つ者もまたこの世に顕現しています。汝もその一人。汝、聖女としてこの世界を救うために力を尽くしなさい」
神々しい女神からのお告げだった。
だが、そこには聞き捨てならない台詞が
「聖女ですか?」
「そうです。いきなり大任を受けて戸惑っているかもしれません。しかし、大丈夫。貴方には仲間がいます。彼等を探し、手を取り合って世界を魔王の手から救ってください」
そう言って頭を下げる女神様。
だが、そんなこと言われても困るのだ。
魔王と戦うのは確かに怖いけどそれが使命だと言いうなら一生懸命頑張る。
でも
「聖女なんですよね」
「ええ、そうです」
「無理です」
「最初はみんな恐ろしい――」
「だから、違うんです!」
不敬だと思ったが大きな声を出して女神さまの言葉を遮った。
そして
「僕は男なんです」
「…………」
場に沈黙が流れる。しばらくすると、女神は何度か頭を振って
「怖いからと言って神であるわたしにそんな嘘を吐くなど」
「本当に男なんです」
女神様は司祭様に視線を向けた
「マルコは男です」
「こんなに可愛いのに?」
「はい。非常に残念なことにマルコは男の子です」
「「「…………」」」
再度沈黙が走る。
そして、女神様は少し確認をとってきますと帰って行った。
「えっと、どうしたらいいのでしょうか?」
「待つしかないでしょうね」
溜め息交じりに司祭様が答えていた。
三十分後
女神様が再び降臨なされた。
騒ぎを聞きつけたのか街中の人や席を外していた他の神官たちも集まっている。
そんな彼等は女神の降臨にどよめいていた。
「それではお告げの続きです」
ゴホンと咳払いしてから女神が語りだした。
僕も真剣な目で女神様を見上げる。
「やっぱり、聖女はマルコで決定です。頑張ってください」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」
周囲がどよめいていた。
だが、僕は落ち着いてはいられない。
「ちょっと待ってください。男なのに聖女なんですか」
「そうです。最初は男の子に聖女をさせるのはどうかという声が出ていたのですが、創造神様が『あんだけカワイイんだから問題なくね』とおっしゃられて問題なしという結論になりました」
「「「「「「おおおおおおおおおおお」」」」」」
「いやいや、問題だらけですよ。それになんですか、その創造神様の軽さは!」
「でも、創造神様の決定は決定ですので」
汗を掻きながら女神様が答える。
そんな彼女に僕は食い下がった。
「別に聖女じゃなくても神官とかそう言う呼び方でいいじゃないですか」
女神様は盛大に溜息を吐きながら聖女について話始めた。
「それが問題があるのですよ。聖女には愛する者に祝福を与える力があるのです。魔王討伐の仲間である勇者や戦士、魔導士は殆どが男ですから愛し合うことも出来ましょう。ですか、男の神官では男同士ということになります。神としてそんな理に反することを許すことは出来ないのですよ」
「だったら、僕が聖女って段階でおかしいじゃないですか! 僕は男ですよ。男の人と愛し合うなんて……」
僕は顔を真っ赤にして抗議していた。それが怒ってなのか恥ずかしいからかはわからないが
そんな僕に女神様が
「心配いりません。男同士愛し合うのは難しいだろうと創造主様が聖女のスキルを少し改良してくださいました」
「どういうことですか?」
「はい。愛じゃなくて性的興奮をすればするほど与えられる加護の力を増大できるようになったのです。性的興奮状態で祝福のキスをすればあら不思議。その能力が二倍にも三倍にもなるのですよ」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」
教会中がどよめいている。
なんだか僕を見る目が怪しい物もチラホラ。
ブルリと背筋を震わせながら僕は女神に向かって大声を上げる。
もう様付けなんてしてられない。
「なんですか、それ! 全然、フォローになってませんよ! どうして僕が男の人に興奮しないといけないのですか」
「そんなにカワイイのに男の人が相手では興奮しませんか?」
「興奮するわけないですよ。僕はそんな変態じゃない!」
「なら、仕方がありません」
そう言って女神は右手に持つ杖を一振りする。
光の粒が僕に降り注いできた。
なんだか暖かくて非常に心地いい。
「これで大丈夫です」
女神は満足気に笑顔を向けてきた。
「じゃあ、僕はもう聖女じゃなくなったのですね」
「いいえ。男の人が相手でも気持ち良くなれる身体にしました」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」
「違あああああうう」
マルコの嘆きは観衆のどよめきに完全に打ち消されてしまっていた。
マルコはガクリと項垂れている。
「それではマルコ。貴方は聖女として一つ心にとめておいて欲しいことがあるのです」
「もう何ですか。もうどうでも良いですよ」
僕は自暴自棄に吐き捨てる。
そんな僕に女神は更なる追い打ちをかけてきた。
「聖女は清き存在でなくてはなりません。だから、貴方は魔王を倒す前には男だろうと女だろうと一線を越えてはなりません。もし、その誓約を破ると聖女のスキルを失います。そして、罰として一生女の子として生きていかなくてはいけません」
「なんですか、それ! どんな罰ゲームですか!」
僕の嘆きの声が教会に木霊する。
そんな中、一人の神官が手を上げた。
「あのぉ。一線というのはどこまででしょうか?」
「女の子を相手に男としてあそこに挿入したらアウトです。あと女体化している時に男の人を受け入れてもアウトです」
女神の言葉に一部の人間の目がギラリと光る。
それは野獣の目だった。
「女体化というのは何ですか?」
その質問に女神は顎に手を当てながら答える。
「知らないのも無理もありませんね。大変貴重で入手が難しいのですが、一時的に身体の性別を変更する薬が存在します。ですが、それをいちいち探したり作ったりするのも大変ですね。えい!」
そう言って再度女神は杖を振るう。
僕は光から逃げ出そうとするがその光は追ってきて降り注がれた。
もう嫌な予感しかしない。
「女体化のスキルを与えました。念じるだけで自由に女性になれます。あと、この杖を預けておきましょう。この杖を使えば彼を自由に女の子にできます。一日に一回、一時間しか効果がありませんから、気を付けてください」
司祭はその杖を恭しく受け取っている。
そんな杖は折ってしまえと飛びつくがすぐに取り押さえられてしまった。
マルコは女の子のように非力なのである。
「あのう」
そんな騒ぎの中、さっきくだらない質問をした神官がまた手を上げた。
もう嫌な予感しかしない。
女神は手を上げた男を指差す。
「はい。貴方。なんでしょう」
「お尻は一線に入りますか?」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」
何、バナナはおやつに入りますか? みたいに聞いてるんだよ。バカじゃないのか!
そんな僕の憤りを無視してこのバカ女神は応える。
「お尻は大丈夫です。入りません。いや? お尻には入りますよ。なんかややこしいですね。とにかく、お尻になには入りますが一線には入りません」
「「「「「「おおおおおおおおお」」」」」」」
「何なんだよ。このバカなやり取りはこのバカ女神は訳の分かんないことに答えんな!」
そんなマルコの魂の叫びは誰にも届かない。
そして、バカ神官の質問は続く。
「質問!」
大声でピシリと真っ直ぐに手を上げる。
そんな彼に慈愛の微笑みを浮かべてバカ女神は応える。
「これが最後ですよ」
「女体化しているときのお尻はセーフですか?」
「「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」
「セーフです」
「「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」」」」
今日一番のどよめきだった。もうこいつらはバカばっかりだ。
僕はすべてを諦めてそっとその場から離れるのだった。
一時間後
僕は旅支度を済ませて街の門の前に来ていた。
いままで暮らしいてきた街。なんだか感慨深い。少し寂しい気持ちもしたが……
いや違うか。
さっきの騒ぎを思い出してとりあえず門を蹴っ飛ばして置いた。
「ふん! 未練なんてねえよ!」
僕はささくれだった心を何とか沈める。
これから旅立つのだ。この先、危険が付きまとうだろう。だが、そんなことは気にしていられない。何とか魔王を倒してこの呪いのようなスキルをどうにかしないといけないのだから。
魔王を倒すまでここには決して戻ってこない。
そんな悲壮な決意を込めて一歩踏み出す。
その時だった。
「待てよ。マルコ」
「ジーク。どうしたんだよ」
全力で走ってきたのかかなり息が切れていた。どうやら僕を追って来たらしい。
「一人で出ていくなんて危ないじゃないか」
「しょうがないだろう。こんな街、一分も居たくないんだから」
「まあ、あの騒ぎじゃね……」
頬を掻くジーク。
そんないつもと変わらないジークに僕は少しホッとしていた。
そして、彼は真剣な顔でこちらを見詰めてくる。
「洗礼を受ける前に言ったこと覚えてる?」
「覚えているけど――」
ジークは手を上げて僕のセリフを遮った。
「一緒に王都に行こうって約束しただろう。マルコの望みとは少し違うことになったけど、聖女は回復魔法も使えるし、戦闘職って言ってもいいんじゃないかなあ」
そんなことを上目使いで聞いてくる。
だが、僕は首を振った。
「でも、僕は不本意だけど、本当に不本意だけど聖女だからね。魔王を討伐する使命がある。そんな危険なことにジークを巻き込めないよ」
悲し気に僕は俯いた。
そんな僕の肩を掴んだ、ジークは笑いかけてくる。
「心配いらないよ。オレも勇者のスキルを貰ったんだ。だから、一緒に行ける。それに例え勇者じゃなくてもお前を一人で行かすことなんてしない」
「ジーク」
潤んだ瞳で見上げる僕をジークはそっと抱きしめてくれた。
うん? 抱きしめてくれた?
首を傾げながらも僕はジークの身体を離した。
「じゃあ、行こうか?」
そう言って王都に向かって歩き出した僕たち。
「きゃ! もうジーク、いたずらでお尻に触らないでよ!」
こうやって僕の受難の旅は始まったのだった。
おしまい……?