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塔の管理人に選ばれました  作者: 白銀美月
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08. 出発前の準備 その3

 志岐は騎士と大賢者にお礼を述べて自室へと戻って着替えた。

それから書物を取り出す部屋へと出向いて穴に向かって一つの書物を念じてみた。

予想通りの書物が現れると、志岐はそれを持っていつもの椅子に座って読み始めた。


魔法に関する書物で、特に魔力と魔法の威力に関する考察を書いた物だった。

この世界での魔法は、どういう魔法を発動するかというイメージが大切らしい。

ゲームのように魔法を選んでボタンを押すというわけにはいかない。

映画や小説だといとも簡単に魔法を使いこなせているように思えるけれど、

実際に魔法を発動するとなると、思ったようにはいかなかった。

どういう形の魔法を発動させるか、それを目的地点までどう移動させるか、まではイメージできる。

でもそれがどのくらいの魔力を使って発動しているのかは、よくわかっていない。

志岐の問題点としては魔力量の調節だろうか。

つまり少量というか、ほんの少しというのが分からないのが問題だと気付いてはいた。


大賢者は魔法を使える人の中でも第一人者らしく、本人の能力は高い。

いろいろと説明してくれるし、とっても親切なのだけれど、制御に関しては、

感覚的な物なので、志岐の捉え方と違い、なかなかうまくいかなかった。


せいぜい二年間頑張って訓練したとはいえ、武器を持っての戦いとなると、

初心者から一歩出たぐらいのレベルだろうと志岐自身は思っていた。

魔物とはいえ、生き物を殺すという感覚が慣れない為に、どうしても足が引けてしまう。

その辺がこれから実践を積んで何とかする課題だろう。

また武器を使わずに魔法で倒す場合は、素材を残せるかという課題がある。

跡形もなく消しさることは簡単に出来ても、売れる素材を残せるかというと、

これもまたまた問題は大きかった。


こう説明すると実現までは、何やらかなり月日がかかりそうにも思えるのだが、

実際にはどちらも感覚というか、本人の意識の問題なので、それさえ片付けば、

あっという間に解決する課題でもあった。

志岐はそんな事を考えながらも、書物を読み進めていた。


しばらくすると、扉がノックされたので、志岐は顔をあげ、誰もいないことに気づくと、

扉を開けに行った。

「若様、お食事の時間ですが、いかがされますか」

一人の従者が志岐に尋ねてきた。

「すみません、いま、行きます」

志岐は読んでいた書物を近くの棚の上に置くと、従者について食堂へと向かった。


食堂にはすでに大賢者がテーブルについていた。

「お待たせしました、おじいさま」

志岐がそう声をかけると、大賢者は少し笑みを浮かべて答えた。

「いや、私も今来たところだ。さあ、席に着きなさい」

志岐が椅子に座ると、給仕の人がすぐにお皿を持ってきてくれた。

「ありがとう」

給仕は軽く会釈をした後、すぐに志岐の後ろに下がった。

「では食べようか」

大賢者はそのままフォークのような物をもって食べ始めた。

「いただきます。」

志岐は小声でそうつぶやいたあと、食事を始めた。


夕食後、大賢者は明日の予定を話し始めた。

「ゼノに調べてもらったのだが、魔法の試し打ちで出来そうな場所が見つかった。

シキ、明日は早めに支度して出かけるからそのつもりでいなさい」

思いっきり魔法を発動したことのない志岐にとっては願ってもないことだった。

「わかりました、おじいさま。でも本当に大丈夫なのでしょうか?」

自分の魔力がどの程度のものなのかは想像もできないが、今までの発動経験から考えても

できるだけ被害は少なくしたいと思ったから、ついそう言ってしまった。

「ゼノにも魔法の心得はある。それに私も同行するから、危険は少ない。

心配しなくてもいい、シキ。ただ早く休んで体調は整えておきなさい」

志岐は椅子から立ち上がって、大賢者に一礼をした。

「ありがとうございます、おじいさま。では調理場に行ってから戻ります」

志岐の言葉に一瞬おやっという表情をした大賢者だったが、事情を察したのか、

すぐさま頷いた。

「料理長の食事は他所とは比べ物にならんからな、行ってこい」


志岐はそのまま踵を返して食堂から出て調理場へと向かった。

「あの……」

志岐が入口で声をかけようとすると、すぐさま料理長がやってきた。

「若様、用意できた鍋をそちらへお出ししますので、そこでお待ち下さい」

料理長は志岐をカウンターのような場所へ連れてくると、その場を離れた。

少し待つと、鍋を手にした料理人達が料理長に続いてやってきた。

志岐の目の前のカウンターに鍋を置くと、料理人達は一礼して戻っていった。

料理長はその場に残り、志岐に一つ一つの鍋の料理名を教えてくれた。

こちらの料理の名前は知らなかったけれど、メインの食材が何かを教えて

くれたので、どれも一度は食べたことのある料理だと気が付いた。

「旦那様から伺った話ですが、若様もお持ちの収納場所には、説明が出ますそうで、

それをご覧になれば、料理が何かお分かりになるという事でしたよ」


志岐はとりあえず空間収納にしまってみることにした。

鍋の持ち手部分に触れて、入れるように意識を強めると、鍋は目の前から消えて、

確かに空間収納の場所に入っていた。

リストを出して、その料理名を確かめると、先ほど料理長が言った料理名と

解説のようなものが出ていた。

料理名が「ビーフシチュー」だとすると、説明の方は、「ビーフの煮込み料理、

腹持ちのよい温かいスープ」といった内容が付くような感じだった。

料理名の方はこの国での名前だが、説明は志岐自身が理解しやすい内容で示されるように感じた。

「確かに出ていました。ありがとうございます。ではこれらも頂きますね」

志岐は順番に鍋の持ち手部分に手を軽く触れて、しまっていった。

「だいたい六人分ぐらいの量ずつ入れてあります。それとこれもお持ち下さい」

料理長は幾つかの木製のスープボウルと木製のスプーンを出してくれた。

「あとから同じ物をもう少し用意させて頂きますが、大人数でご一緒に

お食べになることがなければ、この程度で足りるとは思います」


もしギルドでパーティーという、気に入ったメンバーのグループというか、

役割別のグループというか、を組んだとしても、五、六人という話だった。

今回の予定で、ギルドでパーティーを組むという事はないと思うが、

それでも何があるかわからないので、準備だけはしておいた方がいいのだろう。

初めて世間を見に行くというか、様子を見るだけに外へと出かけるのである。

まさか、いきなりギルドで実力もわからない志岐にパーティーを組もうと

持ちかけるような無謀な人はいないだろうと思っていた。


「いろいろとありがとうございます。またよろしくお願いします」

志岐は料理長にお礼を述べると、塔の中の自室へと戻っていった。

明日は早いという事なので、風呂に入ってすぐさまベッドへともぐりこんだ。

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