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塔の管理人に選ばれました  作者: 白銀美月
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06. 出発前の準備 その1

「空間収納には、食事も入れられるのですか?」

大賢者は笑顔で頷いた。

「そうだ。料理の入った鍋ごと入れておけば、しばらく食事には困らないだろう」

志岐は隣の屋敷で出される料理について考えていた。

自分の好みはこの二年間で把握されているし、何よりここの料理はかなり美味しい。

外の世界でどのような料理があるかも分からないから、ひとまず当座の分だけでも持っていれば安心だろうと思えた。

「まだ渡す物の準備ができていないから、出かけるのはその後だ。数日後には

出来上がる予定だが、それまでの間に欲しい料理があるのならば頼んでおけばいい」

志岐は頷いた。

「シキ、とりあえずは一番近い村まで行って様子を知る事から始めればいい。

どんなに長くても月が巡るまでには塔に帰ってくればいい」

この国で月が巡る期間というのは、だいたい一週間ぐらいの感覚らしい。

曜日などの名称はもちろん独特の物があるのだが、面倒なので志岐は日本と同じ曜日感覚で捉えていた。

「すぐに戻ってきても、構いませんか?」

大賢者は笑みを浮かべながら頷いた。

「それはもちろん。生き倒れになったり、事件に巻き込まれたりする方が困る。

外の世界も知った方が楽しいだろうから勧めるので、ずっと塔に居ても構わないのだよ。

今のところ帰るのは一瞬だが、行く方は自力で移動しなければならないからね」


志岐は大賢者に断ってから屋敷の中を調理場目指して走っていった。

鍋ごとの料理を頼む為には新しい鍋がいるだろう。

それに必要な材料も余分に用意してもらわないといけない。

大賢者の言う必要な物がいつ入手できるのかわからないが準備は早い方がいい。


志岐は調理場に着くと、料理長を探した。

「おや、若様どういうご用件で?」

志岐の姿に気づいた一人の調理人が声をかけてきてくれた。

「特別な料理を頼みたいのだけれど、料理長さんはいますか?」

調理人はすぐさま料理長を呼びにいってくれた。

やってきた料理長に、志岐はまず頭を下げた。

「お忙しいところをすみません。お願いしたい事があるのです」

料理長は近くの人に幾つかの指示を出した後、志岐の方へと振り向いた。

「珍しいですね、若様ご自身からのお願いですか? どういった内容でしょう?」

志岐は自分が外に出かける事とそのための食糧が欲しいのだと説明した。

「ああ、旦那様と同様なものをお持ちなのですね。ではどういった料理をお望みでしょう。

ご希望に添うのを用意いたしますから、まずはお聞かせ下さい」


志岐は月が一巡りする間の期間を予定している事。

大鍋一杯の栄養を考えたスープや、サンドウィッチのようにパンに具を挟んだもの、

それに今が旬の果物など、他には何かよさそうな物と説明した。

料理長は少し考えていたが、何かを思いついたような表情になった。

「そうですね、保存状態は良好ですから、一通りは作りましょうか。追加はいつでもできますし、

何かあっても食べ物さえあれば安心でしょうから」

志岐はお礼を述べてから、材料費はどうすればいいのか尋ねた。

「心配はいりませんよ。若様の生活に必要な物に関しては旦那様も遠慮なく支払って下さいますし、さほど大変な事でもありません。うちの料理人の修業にもなりますから。仕上がればお呼びしましょう」

志岐は料理長に頭を下げた後、部屋の戻ろうと廊下を歩いていた。


「若様、少しよろしいでしょうか?」

振り向くとゼノが立っていた。

「旦那様から若様のご出立の話をお伺いしました。つきましてはそれに伴って

私の方からもお願いがございます」

ゼノのお願いとは礼儀作法やマナーについての説明をしたいという事だった。

「本来若様の身分や立場は、旦那様からお聞きする限り、かなり高いものだと思います。

しかし知っておいて役立つ事は多いのでお時間をお取り下さい」

志岐にしても願ってもいない事なのですぐに頷いた。

「おじいさまの迷惑になりたくはないですし、よろしくお願いします。いつがいいのでしょうか?」

ゼノは少し考えて明日の午後一番からと指定してきた。

「今日のところはいつも通りでお願いします。護衛騎士の方も若様に話があるでしょうし、

本来のお仕事もできるだけ進めて下さいませ。

夕方頃にはまた従者が荷物を持って伺いますのでお受け取り下さい」


志岐は軽く頷くと、廊下の指定の場所で手を壁に押し当てた。

手を当てた場所の壁がほんのり光ると、扉が現れた。

こちら側から扉を開ける時は、触れれば扉が消えるわけではなく、扉の取っ手を引く必要があった。

扉を開けると、志岐の部屋が現れた。

部屋の中へと入ると、扉はまた音もなく閉じていった。

屋敷の廊下の指定場所はいつも同じ場所で、志岐の部屋か大賢者も使う書斎のどちらかに繋がって、

塔の中への部屋へと移動できる。

出る時は屋敷に繋がっている扉は一つなので簡単だが、戻る時の方が不安だった。

部屋のイメージをしっかり持って、手を当てればその部屋が出るというけれど、

何度やっても慣れないものだった。


 自室に戻ると訓練用の服に着替えて、また屋敷内を通って庭へと出かけた。

「遅くなりました」

待っている護衛の騎士に声をかけると、騎士はゆっくりと頷いた。

「外に出られる許可を得られたのですね。では最終のチェックに入りましょう。

基本的には焦らなければ大丈夫だとは思います」


いつものように柔軟体操をして身体をほぐした後は、基本の練習動作に入った。

そして傍に置いてある武具のうち、片手剣を取った。

「それが一番オーソドックスですね。誰にでも使いやすいですが、目立ちません。

もしも冒険者登録をされる場合は、初心者らしくていいでしょう」

片手剣でしばらく打ち合いをした後、注意すべき点を直そうと努力した。

それから弓を引き、最後に長い杖を取った。

他のものは特に扱わなくても忘れないが、弓だけは1度は引いておかないと不安要素が多かった。

「若様が一番楽なのは杖でしょうね。棒術にも応用ができますし、接近戦でも、少し離れての中距離も、大丈夫ですから」

ずっと指導してくれた騎士はそう言ってくれたが、志岐の本音も理解してくれていると感じていた。


何といっても日本ではただの高校生だったのである。

いくら練習してきたとはいっても、刃物を持ち歩くのは気持ち的に辛い。

いずれは使わないといけないにしても、常時持ち歩くのならば、杖の方がまだ気楽だろう。

もし山道や坂道があったとして、歩き疲れた時には、本当に杖がわりにできるのも利点だった。

それに志岐の攻撃方法は魔法である。魔法使いには杖があってもおかしくない。

火の魔法を放てば、獲物が消し炭になったとしても危険状態からは脱する。

剣で切りつけるよりは、まだ効果的ではあった。


ただ志岐本来の武具としては杖がよくても、初心者らしく振舞うには片手剣の方がいい。

『空間収納』をうまく使えば、どちらも持ち歩かなくて済みそうだった。


「後は魔法の威力の調整が大切ですね。獲物で売れる部位もあるでしょうし、

できるだけ損傷が少ない方が高価で買い取りしてもらえます」

杖で叩くにしても、腕力増強の魔法を組み合わせれば何とかなりそうだった。

「外に出られてまた困ったことがありましたら、いつでも相談にのりますよ。

若様の出向かれる世界とこちらの世界とはさほど違いはないようですしね」

いつもの訓練が終わった後、志岐は丁寧にお礼を述べてその場から離れた。

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