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塔の管理人に選ばれました  作者: 白銀美月
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05. そう簡単には進まない

 最初は文字を覚える事から始まり、大賢者が自らつきっきりで志岐に教えてくれた。

頭に意味が浮かぶのでさほど苦労はしなかったが、読み書きに困らないようになるまでには、一カ月程度はかかった。

その後、志岐に対してかけられていた言語に関する魔法は、大賢者によって解除された。


そしてその間に体力作り。

運動神経は悪くないと思っていたし、スポーツも嫌いじゃない。

でもここでは電車やバスなどの乗り物はないから歩くしかない。

昔の人のように長く歩き続けられるほどの体力はないと思っていた。

歩けないとどこへも行けないというこの世界。

この体力作りに関しては繋がっている屋敷の警護の人に見てもらう事になった。


歩く事から始めて走る事など基礎体力作りはもちろんの事、武具も手にした。

魔物や獣が襲ってくるというこの世界に手ぶらでは歩けない。

片手剣や両手剣など多種の剣を扱い、槍や斧も使ってはみた。

弓を引くのにどれだけ苦労したか。

結局のところ、志岐の武器は杖がいいのではないかという事にはなった。

しかし他の武器を全く使えないわけではない。

一通り使えるように訓練されたあと、本命は杖にする事になった。

杖といってもそれなりの長さがあり、棒術的な扱いもできる。


それにこれが一番大きな理由なのだが、志岐は魔法が使えた。

この世界には魔法があるというのは大賢者を見ていても分かったし、書物を読んでも知っていた。

いかにも異世界らしく一度は魔法を使ってみたいと思っていたが、

魔力がありすぎるのか、イメージの大胆さからくるものか、

志岐の使う魔法は制御が難しく破壊的な規模になった。


ほんの少し水を出すつもりが、豪雨を降らせ、

小さな火の玉を出したいと思っても、大賢者がすかさず対処しなければ、

あたり一面火の海になるほどの大火災が発生した。

暑いから涼しい風をと思うと、台風のような嵐になるというような、

かなりの訓練が必要とされるものだった。


ただ大賢者が慰めてくれたところによると、志岐は全属性の魔法が使えるらしい。

治癒関連もサポートに関する魔法も、イメージさえ掴めれば、かなりの魔法が使えそうだった。

もっともどれもこれも制御が必要なもので、そう簡単にはいかないのだが。


訓練以外の時間には、塔にある書物を読みながら日々を過ごし、

ようやく外に出ても何とかやっていけるだろうと大賢者に認められたのは、

このような生活を始めて二年の月日が過ぎていた。


「ほぼ二年でここまで出来れば上出来、上出来」

大賢者はそう言って褒めてくれたが、志岐としてはまだまだ未熟だと感じていた。

「はあ、そう簡単にうまくはいかないですね」

大賢者は知識があるというだけでなく、魔法の腕前もかなりのものらしかった。

教え方は丁寧で、志岐の質問にも思考力をつけるような答え方をしていた。

また時折、暴走する魔法を押さえこんでくれたのも、みんな大賢者の力だった。

「魔力があるというのは何よりだ。それがなければ話にもならん。それにすべての属性が使えるだけでも、私の跡継ぎとして申し分がないよ」


大賢者は続けて驚くような事を志岐に伝えた。

「では屋敷で過ごした二年間を塔の力を借りて半年にしてしまうよ」

大賢者は志岐を塔の中のいつもの部屋につれていくと、何かの呪文を唱え始めた。

まばゆい光が辺りを包んだかと思うと、風が吹いたように元に戻った。

「シキ、自分の顔を見てごらん」

大賢者の言葉に近くに置いてあった手鏡を取ってみると、いつも見ていた顔ではなく、少し前の自分の顔があった。

二年もたつと、さすがに高校生の顔からは大人っぽくなったと思っていたが、

鏡の中の志岐は、この世界に来た時とほとんど変わっていなかった。

「肉体年齢だけを若くしただけで、中身は先ほどまでと変わっていないよ。

だから鍛え上げた肉体も能力もそのままだから心配しなくてもいい」

志岐は驚いて大賢者の方を向いた。

「シキの年頃の二年は大きいからね、私ほどになるとさほど変わらないが、

若い方がいろいろと誤魔化しも効くし、新たに物事を習うにも便利だからね」

志岐は手に持っていた手鏡を置いた。


「それでこれからどうすればいいのでしょう?」

大賢者は志岐の頭に手をやって撫でた。

「この世界を見ることから始めたらどうだろうか。ただ出ていけと言っているわけではないよ、シキの一番の役割は書物を読む事だからね」

大賢者の掌は大きく、温かく感じた。

「シキは私の息子だ。まあ年齢からいえば、孫のようなものだが。私が保護者であり、先輩でもある。心配要らないよ。困った時はいつでも助けてあげるから」

志岐は大賢者の方を向いた。

「おじいさま、ありがとうございます」


大賢者は志岐を連れて初めて階段を下りていった。

「これが一番重要な事だ。塔に選ばれた者としていつでも塔に戻れないといけない。

だから今から塔のいつもの部屋に戻る練習をするよ」

螺旋階段のようなところを通り、何段かの長い階段を下りると、立派な扉があった。

「これが外に出る扉だ」

大賢者は先に扉を開けて外にでた。志岐はゆっくりと後に続いて外にでた。

この世界に飛ばされて初めて見る塔外の景色だった。

塔の入口から石畳の道が続いており、その先は街道へと繋がっているように見えた。


「ここから塔の内部に魔法で飛ぶ。イメージをしっかり浮かべて戻りたいと

念じてみなさい。勝手に空間移動するはずだから」

志岐は部屋の内部を思い浮かべ、塔へと念じた。

すると身体が何かに包まれたような気がして、気がつくと部屋の内部に立っていた。

少し経つと、大賢者も部屋の中に現れた。

「大丈夫のようだな。塔の入口に戻る方法もあるが、直接この中へと飛べばいい。

空間移動の魔法だが、他の場所への移動は少し注意する点がある」

志岐は大賢者の言葉をしっかりと聞いていた。

「誰にも見られない方がいいのと、その地点に誰かが居ては移動できない。

はっきりとイメージできる場所でないと、移動できないのが難点かな」


それから大賢者は志岐の腕を握った。

「こちらへついてきなさい。必要な物を授けよう」

志岐の腕をいつもの穴のところに持って差し出した。

「シキが外に出ます、必要なものを……どうぞお与え下さい」

大賢者の声は少し低めで真剣なものに思えた。

リンリンと高い音が響いたかと思うと、大賢者は志岐の腕を離した。

「空間に収納が出来るはずだ。略して『空間収納』と呼んでいるが、右肩から横に収納の棚があると思って集中して見てごらん」


志岐は意識して見ると、透明の棚があるのに気がついた。

棚に気が付いた後は、棚の方へと向き直っても、その位置は変わることはなかった。

「これを入れてみなさい」

大賢者が渡した手紙のようなものを、志岐はその棚の一つに置いた。

すると棚に置かれた手紙の前に、突然透明のスクリーンの板状のものが出てきた。

『大賢者からシキへの手紙』

透明スクリーンには、そう文字で書いてあった。

「もう少し詳しい内容を、と念じてみなさい」

大賢者に言われた通りに念じると、『大賢者からシキへの手紙』の文字は、

『シキの身分証明書三通』と変わった。

「一つは予備として持って置き、本当に必要な時に使えばいい。それだけあれば今のところは困らないと思うから三通にしておいた」


大賢者は志岐にそう言うと、一つの袋を手渡した。

「これも一度中に入れてみなさい」

最初に入れると『一つの袋』になり、詳しい内容と念じると『薬詰め合わせ』となった。

「ではもう一度袋を出して中身だけ入れてごらん」

言われた通りに志岐がやってみると、今度は薬が分類されて棚に入った。


大賢者が説明してくれたこの『空間収納』という機能は、人や動物など生きているものはさすがに入らないが、それ以外だと何でも入るようだった。

生きているものとはいっても植物は関係なく入れられるようだった。

最初に右肩の横にと意識するのは、それが一番気づきやすいからで、空間収納の機能を知った後は、どこにイメージしてもいいらしい。

また棚に意識して置かなくても、入れたい物体に手の一部を触れるだけで収納する事も可能だった。

基本的には空間収納に入れている間は、時間の進行がない。

だが棚ごとに指定すれば、時間を進める事も可能なようだった。

また武器を一まとめに入れたい時も、分類して入れたい時も自由に出来るらしい。

検索機能もついているようだし、中身のリストも出てくるようだった。


「そうそう、討伐した魔物などを入れると、剥ぎ取りも自動的にして分類してくれるから、時間がない時には便利だよ」

至れり尽くせりの機能が付いている空間収納には量の制限も無かった。

「これを使えるのは私以外だと、シキ、ただ一人だし他の人が奪う事も不可能だ。どこでもいつでも

使う事はできるが、それでも出し入れする時は、なるべく人目につかないようには気を付けた方がいい。

後で渡すがカバンで似た機能付きの物がある。それと併用すればいい」

志岐は空間収納の便利さと使い道を考えると少し呆然としてしまっていた。

読んで下さってありがとうございます。

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