17. 初心者講習 その1
志岐は朝、宿屋で朝食をとると、時間を見計らって冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの受付に問い合わせると、別室へと案内された。
そこには志岐と同じように初心者講習を受ける人たちが集まってきていた。
少し経つと3人の若い人たちが、志岐と同じように部屋に案内されて入ってきた。
「もうすぐ始まりますから、適当な座席に座って下さい」
ギルド職員が告げると、志岐は前の方の座席に座った。
長いテーブルがいくつか置いてあり、そこに椅子が並べてあった。
すぐに座ったので、幾つの机があったのかは数えていないけれど、
全員が座っても余る椅子の数だろうと予想はついた。
一人の男性職員が前の扉から入ってきた。
「では初心者講習を始める。私はギルド職員のトーマスだ。みんなギルドカードは持ってきているだろうな、机の上に出しなさい」
志岐は黙ってギルドカードをテーブルに置いた。
「えっ、どこへやったかな……」
誰かが忘れたのか、探している声が聞こえた。
「忘れた場合は、次回に受けなおしてもらうがいいかな」
講師を務めるトーマスが厳しい声でそう言った。
「あっ、あった、あった。あります、ありました」
声からすると若い女性だろうと思われた。
トーマスは咳払いをすると、テーブルの周りをまわって、みんなのギルドカードを
確認しているようで、志岐のところにもやってきた。
「シキだな。確かにFランクとなっている。よし」
トーマスは前に出て説明を始めた。
「初心者限定だからな、間違って先輩冒険者が紛れ込んでいないか確かめたところだ。いろいろと厄介な連中もいるからな。では始めるぞ」
何が厄介なのかは分からないけれど、説明が始まったので、志岐は真剣に耳を傾けた。
思ったとおりに教科書のようなものはないし、資料もない。
講師が話す内容を頭に覚えてしまわなければいけないようだった。
まずは採取の方法と、注意すべき点の説明だった。
根から採取する場合と、根を採ってはいけない場合と。
よく依頼がある物に関しての注意事項ともいえる内容だった。
「くれぐれも、全部採ってしまって、次から生えないとか、するなよ」
志岐は少し考えて声をかけた。
「質問ですが、もしも貴重な物で、一種類しか生えていなかったら、どうすれば
いいのでしょうか?」
トーマスは少しだけ考えて答えた。
「Eランクでの採取の依頼がある物にそういう特定種は無いが、そうだな。
上級の依頼の時にはある場合もある。ギルド職員がどうすればいいか指示が
あるはずだから、それを忘れないようにすればいい」
それから別の人がいくつか質問をして、採取に関しては終わった。
「ここからは魔物の討伐についての依頼についてだ」
目的には二種類あり、魔物をすべてやっつける場合と、素材が必要な場合と、
その目的によって方法が違うなどの説明だった。
魔物を倒した場合、ある一部をもっていけば、倒した証明ができる。
それは魔物によってその部位は違うらしいが、依頼には書いてあるらしい。
「くれぐれも、魔石をとる場合は注意してくれ。魔石を取った後、一定時間が過ぎると、魔物はすべて消滅してしまう。必要な素材はその前に何とかするように」
トーマスの説明によると、魔物には魔石があり、どういう仕組みかしらないが、
魔石を取られた魔物は、その残りの死骸といえばいいのか、それは消滅するらしい。
それでもある一定時間はそのままらしいのだが、うっかり素材を剥ぎ取る前に、
魔石を取り出してしまうと、慌てる羽目になる場合もあるという話だった。
「魔石を取りださなければ、死骸はそのまま残るのですか?」
後ろの方の席の誰かが質問をした。
「いや、そうでもない。他の魔物がやってきて処理する、といえば解るかな?」
この中には女性もいるからそのような表現をしたのだろうと志岐は思った。
手っ取り早く言えば、他の魔物に食べられてしまうという事だろう。
「では魔石もなくなるのですか?」
「いや、魔石は魔物でも食べない。その場合は地面に残るだろうな。
だから討伐部位が必要になる。運よく残った魔石だけ持ってきても依頼完了にはならないぞ、よく覚えておけ」
「魔石の利用価値はあるのですか?」
「大きいものならばある」
それから魔石の話が始まった。
魔石には魔力が含まれているものらしい。
その含まれている魔力の質や量によって、魔道具などに利用されたり、武器防具などに使用されたりするようだった。
だから弱い魔物の場合は、ほとんど魔石に価値がないが、強い魔物の場合は、例え魔石だけ持ってきても、討伐依頼の場合は依頼完了にはならない。でも魔石の買い取りはしてもらえるようだったが、その場の状況などを詳しく聞かれるらしい。
つまり誰かの採った魔石を奪い盗るような悪い人が出ないようにという事だろう。
こういう事に関する詳しい状況は、また後ほど依頼ができるようになってから、
個別に説明を聞きに来いという話になった。
初期に受けられる討伐依頼に多い魔物の持っていく部位はどこかという説明が終わると、今日の午前の講習は終わりとなった。
お昼はそのままギルド内の酒場というのか、食堂といえばいいのか、食べられる場所で、食べることになった。
「今日のところは、初心者講習価格でかなり安くなっている、通常はしっかりと依頼を受けて稼いで食べてくれ」
講師のトーマスがそういうと、一食、50クレスで食べることになった。
男性の手のひらサイズのパンと、肉料理の皿と少しのサラダがついていた。
飲み物としてはコップ一杯の水が添えられただけの食事だった。
昼食として食べる量としては、多いのか少ないのか、安いのか高いのかも、
志岐には全く分からなかったが、他の人の様子を見ると、良心的な料理らしい。
それなりににこやかな顔でトレーをもって椅子に座る様子が見られたからだった。
志岐もトレーを手に、近くのテーブルに向かうと、座って食べ始めた。
レストランで気取って食べる料理というよりは、家庭的な味付けで、こういう料理がギルド内の食堂で出されていることに、志岐は少しだけ驚いていた。
志岐の隣に一人の男が座って、同様に食べ始めたが、その食べるスピードは、
早くもなく遅くもないので、志岐はその様子を伺いながらも、ホッとした。
あまりにもこの世界の常識がないために、変わったことをしていないか不安だったのが、少し解消されたような気がしたからだった。