14. 武器屋にて
志岐はどんな店があるのかを確かめながらゆっくりと道を歩いていた。
夕方近くというと、あまり歩いている人はいないが、それでも何人かは見かけた。
その人達の着ている服をじっと見ると、やはり志岐の着ている服はかなり上質なように感じた。
どちらかといえば旅に出た魔法使い風の服装をしているつもりだが、上質過ぎるからといって、防御魔法がかなり施されているものだけに、安易に変更はできない。
万が一の事を考えると、手頃な服を買って着替えるわけにはいかないから、
服は仕方がないとしても、せめて武器は何とかできないかと志岐は思った。
この町では絶対に大賢者から頂いた武具はどれも出す事は出来ないし、ゼノが用意してくれた普段使いという武器も、ギルドの職員の目はごまかせないだろう。
せめて初心者らしい無難な武器を手にしておきたい。
あちこちにかけられている看板を見ながら武器屋を探し始めた。
建物の前に商品を置いているのは、生鮮食料品店関連のお店のようで、
それ以外のお店は看板だけで、中に入らないと商品は解らない。
志岐はようやく一軒の武器屋と傍にある防具屋を見つけた。
武器屋の扉をあけて中へと入ると、数人の人が武器を見ているようだった。
志岐はその様子を見ながらも、お店の人は居ないかと見回した。
勝手に武器に触れていいのかも分からないし、間違いを起こしても厄介だ。
少し待つと、奥から一人の頑丈な体つきの男性が現れた。
「ほらよ、これだ」
一人の男性に一振りの剣を差し出した。
男性との話が終わるのを待って、志岐は店の店員らしき人に声をかけた。
「すみません、冒険者になったばかりですが、片手剣を見せて頂けますか?」
男は志岐の全身を上から下まで見回した。
「ああ。俺がこの店をやっているダンだ。お前さんは魔法使いではないのか?
それでいて見るのは片手剣か?」
志岐はまじめな顔で頷いた。
「はい、近接戦闘になると魔法だけではどうしようもないですから。
いや、遠距離でも……ああ、まあ、そんなところで」
本当のところ、志岐の魔法に近距離も遠距離も関係はない。
ただ相手の存在が消えてしまうほどの大魔法を放つだけで。
よく考えてみれば、この辺りで魔法を使う事は無理かなと考えてしまった。
「ま、そうだな。この辺のところで手に取ってみればいい」
頑丈な体格の男性はもっと年配の人かと思ったけれど、声の感じから
思ったよりも若いような気がしていた。
志岐は言われた場所の片手剣をじっと眺めていた。
こっそりと簡単な鑑定をかけながら、値札と品物の価値を見て覚えていた。
鑑定の結果には値段も示されていたが、値札と同じものも多いとこから、
さすがに鑑定の値段は原価はなく、売値の相場だろうと予想がついた。
詳しい鑑定をかければ、その武器の特徴や、使われている材質もわかるけれど、
そこまで詳しいのが必要だとも思えないので、初歩的な鑑定で見ていた。
例えば、すぐ手前の剣だと
『片手剣:500クレス 品質C』
これが簡単な鑑定の結果で、同じものに詳しい鑑定をかけると、
『片手剣:500クレス 腕の良い鍛冶職人により作成。材料:〇〇〇〇他
初心者が使いやすい剣 耐久度はB 品質はC』
そんな感じで出てきていた。
材料に関しては〇〇〇〇のところにいくつかの素材名が出ていた。
値段が高いと品質が良くなっているが、精々Aどまりでそれ以上は見当たらない。
どちらかといえば、飾りや持ち手の感じが若干違うぐらいで、
値段が同じような物は、買い手の好みの違いで選ぶように思えた。
その中で一本の剣が気になって鑑定してみると、価格の割に品質は良さそうだった。
「すみません、これは初心者が持つにはおかしいですか?」
ダンは不思議そうな顔で志岐を見ていた。
「武器というのは良いと思った物を持てばいい。それには駆け出しであろうと、
上級者であろうと関係ない。それはなかなか良い剣なのだが……」
店主のダンは少し口を濁した。
「魔力の無い者には少々持ちにくい剣で、剣士を目指す者には不向きだな。
しかし魔法使いはお前さんと違って剣を持とうとはしないからな
本来はもっと高価なんだが、売れないとこっちも困るからかなり値引いた品だ」
志岐はダンに断って気になった剣を手にとってみた。
鞘から抜き出した刃は白っぽく輝いて、鞘に入っている時より美しく感じた。
見栄えはともかくとしても、右手で握りしめてみた。
持ちづらくはないが、今までの剣とは少々勝手が違う。
志岐が魔力の事を考えると、手の中の剣が少し軽く感じた。
「もしかして魔力に反応する剣ですか?」
志岐は気になったのでダンに聞いてみた。
「ま、詳しく分からねえからこの値段って事で。欲しいなら買う。要らないならそのままにしておいてくれ」
志岐はダンの言うのもこの世界では当たり前の話かなと思った。
鑑定をかけたら実際の価値はもっと高い評価で出ていたわけだし、もし魔力に
反応するのなら志岐でも扱える。そうするとこのまま見逃すには惜しい剣に思えた。
しかしこの剣も特殊な剣だとしたら初心者が持つにはやはりまずい。
もっと手頃な剣はないかと、その辺を見回した。
すると、よく言えば素朴な剣が数多く並べてあるのが見つかった。
どういう風に剣を作っているのか志岐は分からないが、型押ししたように、
ほぼ同じ剣ばかりで、他のと比べても品質がそれなりとわかるような品だった。
ただ手作りで全く同じのを作るのならば、それはそれですごいものだと思うが、
この世界には魔法もある事だし、同じ規格品も作れるのだろう。
志岐はその素朴な剣と今の手に持っている剣を持ってダンの近くに向かった。
「これをお願いします」
「これは200クレスで、もう一方は1500クレス、合わせて1700クレスだが、大丈夫か?」
ダンが心配そうに尋ねてくれた。
「はい。ではこれで」
志岐はカバンに手を入れて小袋を取り出して、代金を支払った。
魔力に反応する剣は鑑定の結果、5000クレスと値段が出ていた。
それが1500クレスとなるとかなりの値引きだが、
在庫をかかえるよりは良いという事だろう。
掘り出し物を見つけたと思ったが、それはそれでまだ使えない。
素朴な剣の値段もまた安いようにも思うが、耐久度が違うように思った。
何度ぐらい使えるものかは、また詳しく鑑定てみる必要があるが、
そこまで使わないだろうと思って、今は時間もないことだし、やめておいた。
「ではこれを。それで杖は大丈夫なのか?」
ダンは志岐が魔法使いの服装だから聞いてくれたのだろう。
剣を手渡しながらも、商売人としてなのか、それでも心配そうな表情だった。
「はい、杖は……たぶん役に立たないと思うので、今はこれだけでいいです」
「わかった。また何か欲しいものがあったら見に来てくれ」
志岐がそういうと、ダンはすぐに表情を柔らかいものに変えていった。
志岐は2本の剣を手にして、武器屋の外に出た。
このまま他の店を見に行くよりは、何とか先に剣を片づけたい。
マントの中に剣を一旦隠しながら、空間収納の中へとしまった。
当座の目的を果たしたところで、片手剣以外の値段を見ていない事に気が付いたが、今さら他の物を見にきましたというのも変な話だし、諦めて他の店に行く事にした。