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塔の管理人に選ばれました  作者: 白銀美月
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10. 特別仕様の武具

志岐は、書物の目録をみながら、持ち出す書物を考えて取り出したり、調理場に行って料理を頂いたり、

中庭で訓練をしたりして過ごしながら、外出の準備を整えていった。


「若様、こちらにおられましたか。旦那様がお呼びですよ」

剣の稽古が終わって汗を拭いている時に、ゼノから声をかけられた。

「このまま行ってもいいでしょうか? やはり汗を拭いてからの方が?」

ゼノは志岐の様子を見ながら口を開いた。

「旦那様にはお話ししておきますので、汗を流してから広間の方へお越し下さい」


志岐は練習用の剣を片づけると、そのまま急ぎ足で自室へと戻った。

バスルームに飛び込み、シャワーというわけにはいかないが、お湯をひねると、

すぐさま蒸気がバスタブ内に広がり、よい香りが漂った。

ひとしきり蒸気に触れたあと、バスタブから外にでてバスローブを着た。

手間なようだけれど、バスローブにも不思議な機能があるのか、着ると水分が飛ぶ。

タオルなどで身体を拭く手間が省けるので面倒でも一度はバスローブに手を通した。

それから自室に戻り適当な服を見繕って、急いで着替えた。

再び扉を開くと、扉の前は屋敷の一階になっていた。


廊下を急いで広間に着くと、ゼノが待っていてくれた。

「どうぞ中へお入り下さい」

志岐はゼノにお礼を言うと、部屋の中へと入った。

「おじいさま、遅くなりました。お呼びですか?」

大賢者は志岐を見ると、嬉しそうな表情になった。

「ほら、シキのために用意させた武器が仕上がってきた。見てごらん」

志岐は、大賢者に近寄り傍のテーブルに並べてある武器を見た。


それは志岐が使いやすい杖だけではなく、一通りの武具が用意されていた。

「おじいさま、かなり上質な物ではありませんか?」

大賢者は目の前に置いてある武具の中から、金色に輝く杖を取り上げた。

見た目が金色というだけでも高価そうだと思うのに、持ち手にはまばゆい白さの

皮みたいな布がまかれており、反対側の先端部分にはいくつかの透明な宝石のようなものが

はめ込まれているのが分かった。


「これはこう振ると長さが変わる」

大賢者はそう言いながら手を振ると、杖の長さが長くなった。

「この部分には得意な魔法を入れられるし、魔力で保存もできるようにしておいた。

また強度は上げてあるから、叩き付けても効果はあると思うよ」

志岐は大賢者が自分の為によいものを用意してもらったのは理解していた。


「はい、ありがとうございます。しかしここまで良いものでなくても……。

この杖の価値も値段も高そうですし、私がもっているのが申し訳ないような物ではないでしょうか」

大賢者は志岐の言葉を聞きながらも、杖を差し出してきたので、志岐は受け取った。

「よい。シキには最高のものを準備したい。私の気持ちだ」

「……ありがとうございます」


受け取った杖は手触りもよいし、杖の色も最初は目立ち過ぎるのではと感じたが、

実際に手元でみると上品な輝きというのか、ただただ派手というのも違う。

どれだけの値段がかかっているのか、想像もできないぐらい上質な杖に見えたし、

どうみても初心者が持っていいような杖であるとは思えない。

それだけに簡単に持ち歩くのにはためらう品には違いなかった。


でもこの世界の保護者である大賢者が、志岐の為とわざわざ作らせた武具には違いない。

受け取るのを拒否できるわけはなかった。

志岐は杖をじっと見たあとで空間収納に片づけた。


「一応はほかの武具も用意しておいたが、あの杖は最高級の素材で作らせた。

他のもそこそこの品質にはなっていると思う。何かの役に立つだろう」

志岐は一つ一つ手に取りながらも、重さを確かめたり、刃の部分を見たりしながら、

空間収納に片づけた。


大賢者はそこそこの品質と言ったが、言葉通りに受け取れるものでもない、

どれもこれも杖には劣るかもしれないけれど、かなりの高品質に思えた。

実際に見たことはないけれど、王族が持つようなそんな品々というか。

今の時代、この国は戦争をする様子はないので、実際に王族が戦う事はないのだろうけれど、

もし持って戦うとしたら使うだろうと思われるぐらい上質なという意味で。


最後に手に取った片手剣は、鞘の部分の装飾が美しく、壁にかけておいてもいいようなものに見えた。

その鞘を抜いてみると、輝く刀身が現れた。

確かに持ち手部分はさほど派手ではないし、志岐にも持ちやすい。

儀礼用ではなく、しっかりとした使う為の刀身だと何となく感じた。

志岐はそのまままた鞘に納めて、空間収納に入れた。

「おじいさま、良いものをありがとうございます」

志岐はそれ以上どう表現したらよいかわからなくて、丁寧に頭を下げた。


「よい。それも消耗品だ。何かあればまた作らせよう」

志岐は大賢者の気持ちを嬉しく思ったが、実際には使えないだろうなとも思った。

「若様、あとでこちらにもお越し下さい」

一通りの会話が途切れたところで、ゼノから声がかかった。

「はい」

大賢者はゼノの方を一瞬見ると、また志岐の顔を見つめた。

「外の世界を知った方が、シキの人生が豊かになると思うだけだ。

本来は何もしなくてもいい。だから困ればいつでも塔に戻っておいで」

大賢者はそういうと、用事があると言って、広間から外に出て行った。


志岐が顔をあげると、ゼノが手招きするのが見えた。

そちらへと急いで近寄ると、ゼノが広間に続いている小部屋へと案内してくれた。

「旦那さまが若様の為に用意されたものでは、今の若様ではお使いづらいと思いまして、こちらに普段用を用意させて頂きました。これらもお持ち下さい」

家令のようなゼノは志岐の気持ちを分かっていてくれたらしい。


小部屋の中にはさほど目立たない一般的に思える武具があった。

「はい、ありがとうございます。でもおじいさまは……いいのですか?」

志岐はこれらの武具の方が助かるが、これを持っていっていいのか迷った。

「もちろん、旦那様もお分かりですよ。ご指示を仰いで用意いたしました。

ただ若様への初めての贈り物ですから。旦那様もさぞお喜びで用意されたのだろうと思います。

ずっとお一人でしたから」


志岐は置かれていた片手剣を取ってみたが、これも一般的にしてはかなり良いものに思えた。

練習用につかっていたのとは重さも輝きもかなり違ったからだった。

「ゼノ、これもかなり良いものではないですか?」

ゼノは志岐の言葉に笑みを浮かべた。

「若様に何かがあっては困りますからね、若様の手に合うように調整されていますし、見た目だけでは、よっぽどの目利き以外にはわからないようにしています」

つまり見た目だけは、ごく一般的に市場に出ている剣のようにみせかけてはあるけれど、

中身は違うという事なのだろう。


「これ、落としたり、盗られたりしたら大変ですよね。他の人の手に渡ったら」

志岐は落とすつもりはないけれど、そう言った。

「それは心配ないと思います。旦那様の魔法がかけられていて、所有者には若様が登録してあります。

他の人には使えませんし、手元に戻るようになっているかと思われます」

志岐は驚いて手にしていた片手剣をじっと見つめた。

「その、もしどこかに落としたら、剣だけが空中を飛んでくる、なんてことがあるのですか?」

ゼノはすぐに答えてくれた。

「目には見えませんが、若様の空間収納の方にどこからか戻るようです」

志岐は魔法のある世界だから、そういう事もあるのかなと思った。

「そうですか。では少しは安心しました」


ゼノが言うのだから、もちろんこれらの武具だけではなく、さきほど大賢者から贈られたあの武具も、

同じような魔法がかけられているのだと思った。

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