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塔の管理人に選ばれました  作者: 白銀美月
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01. そもそもの始まり

 高校二年になった俺、志岐隼人しきはやとは、受験する大学の下見に来ていた。

いつもの高校の制服ではなく、新入社員みたいなスーツにサングラス姿は、

わざわざ意識して着てきたものだった。

サングラス姿が一般的ではないのは隼人も理解はしている。

でもどうしてもここで素顔を誰かに見せたくない事情があった。


 隼人はやとには一人の兄がおり、その兄と隼人は遠くから見るとよく似ている。

兄は、眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能な人で、

誰にでも優しく人付き合いもいいので男女問わずに人気があり、中高共に生徒会長を務めていた。

ただ完璧な優等生なので憧れる人も多いが、間違った事はしないというタイプ。

だからといって変な正義感を振りかざしたりもしない。

兄の友人は多いし、親友もいたらしいけれど、特定の彼女を作る事はなかったようだ。

本人曰く、勉強や学校の活動に専念したいという理由らしかった。

他人ならばすごい人だな~で終わるが、兄弟となると少々意識は変わる。


兄はこの近辺ではかなりの人気者で、男女問わずお近づきになりたいと考える人が多いらしい。

そういう中でも直接話しかけるには勇気がない女子高生達は、弟の隼人を通じて接点を持とうとして、

頻繁に待ち伏せしてあれやこれやと隼人に話しかけて困らせた。

何度も続くと、さすがに隼人も頭にきて、兄に苦情を言ったが、

兄はすぐに隼人に謝り、直接話すように伝えてくれていいと助けてくれた。

それで直接兄に言えるような相手ならば、隼人を相手にしないのだが、

その事を兄に言っても仕方がない。

隼人の気持ちとしては、兄が悪いというよりも、その周りが酷い。

だから兄を責める気にもならなかった。


隼人に初めて告白してきた彼女も、兄を見た瞬間に心変わりされてしまった。

そんな事もあって、隼人自身は自分への評価はいたく低い。

実際のところ、隼人もさすがに兄弟だけあって顔立ちも良いし、成績も優秀、スポーツも

なんでもできるタイプではあったのだが、年齢の差だけは仕方がない。


そして今はすでに社会人になっている兄だが、いまだに慕っている後輩も多い。

そんな人たちに、この大学で見つかると兄についていろいろ聞かれるのが予想できたので、

下見の邪魔をされないようにと考えた服装だった。


 いろいろな模擬店が出ているキャンパス内を一応は軽く見て通った後、

教室のある構内へと足早に向かい、そのまま近くの階段を一番上まで駆け上がった。

上から下へと向かった方が効率的と思ったからで、特に意味はない。

空き教室を通り過ぎながら、展示物のある教室へとパンフレットを見ながら廊下を歩いている途中、

突然大きな音が響いたので思わず耳を押さえると、なぜか目の前が真っ白になった。


「えっ?」


隼人の意識はそこで途絶えてしまった。



ぼんやりとしたまま隼人は目を開くと、何やら物が詰まった棚が見えた。

ここは教室の中だろうかと、もう一度目を見開いた。


すると隼人の前に一人の年配の男性が歩いてきた。

何やら話しかけてくれているようだが、どこの国の言葉かさっぱりわからない。


「すみません、何を仰っているのか、全く分かりません」


男性は頭に大きな帽子をかぶっていて、どこかの外国の大学教授が着るような大きなガウンを

身にまとっていたから、教授かと思って丁寧に答えた。

男性は驚いた表情をしたが、すぐさま手真似でサングラスを取るようにと指示されたように思い、

隼人はサングラスを外した。

男性は隼人の顔をじっと見つめると、また何かを言った。

そして両手を隼人の前に広げて見せた。

相変わらず隼人にはこの男性が何を言っているのかわからなかった。

男性は自分の喉と耳を手で触れてから、隼人の方へ手で示した。

また何かを言われたが、やはり理解できない。


男性は隼人に近づくと、ゆっくりと肩に手を置いて力を少し込められた。

隼人が少しかがむと、男性は隼人の耳に軽く手で触れ、そして喉にも触れた。


「これで言葉が分かるだろうか?」


男性の言った言葉は前と同じ分からない音だったが、意味が頭に浮かんだ。


「……はい」


隼人の返事を聞いた男性はゆっくりと笑みを浮かべると隼人の全身を見つめた。


「ようやく現れたか」

「えっ?」


隼人が聞き返そうとすると、男性は言葉をつづけた。

「いや、何でもない、私の事はおじいさまと呼べばいい」

隼人が戸惑っていると、何か威圧のようなものを感じた。

「ほれ、おじいさまと呼んでみなさい、おじいちゃんでもいいが、な」

言われた通りにした方がいいと隼人は感じた。

「おじいさま?」

隼人の声を聞くと、男性は本当に嬉しそうな表情になった。


「私の名前は折々時期をみて教えるから心配しなくてもよい。

呼びたい時はおじいさまでもおじいちゃんでもそう呼べばいい」


隼人はどうこたえていいか分からず、黙っていた。

おじいさんと呼ぶにはこの男性は若すぎるし、父親よりは年配に思えた。

西洋風の顔立ちの人の年齢は分からないけれど、50代後半から60代ぐらいだろうか。

帽子と大きなガウンで体格とかは分かりにくい。

ただ近寄った時に、隼人よりも背は高い人だなと感じていた。

男性はとくに隼人に何をするわけでもなく、隼人の様子を見ているようだった。


それで少し気が楽になった隼人は部屋の中を見回した。

石造りの壁に窓はないものの、どういう仕組みになっているのか明るい。

蛍光灯の明かりかと思って天井を見るとそのような物は全く見当たらない。

やはりここは大学の教室ではないらしいと隼人は思った。


「ここは大学ですか?」


これ以上考えてみても分からないと思った隼人は尋ねてみた。


「大学とは何か知らないが、ここは私が管理している塔だ。そこの場所にいきなりおまえさんが現れた。

どういう仕組みだか興味深い」


いきなり大学ではない他の場所に行ってしまうような事があるのだろうか。


「………」


男性は隼人の手に持っていたサングラスを指差した。


「そのような物はこの世界では見たことがない。つまりはどこか別の世界から、この世界にやって来たようだな。その服装もここにはないものばかりだ」


男性はあまり驚いたような感じもなくそのような事を言った。

隼人の方は驚いてしまって思わず口をぽかんと開けかけて、すぐに閉じた。


確かにものすごい音と光には驚いたけれど、それが別の世界に物体を飛ばすような威力があったとは

考えたくない。でもこの男性はファンタジー映画に出てくるような服装で、この室内の様子も、

映画のセットといわれた方がしっくりと納得できるようなものだ。


だから隼人は混乱しつつも、突然部屋に来てしまったという事は理解した。


「えっと、どういうわけでここにお邪魔する事になったのかわかりませんが、失礼しました。

それでできれば元の場所に戻りたいのですが……?」


男性はじっと隼人を見つめていた。


「さてと、君がどこから来たものやら……。この塔は特殊な場所だから、塔が許可しない者は

一人として入れない仕組みになっているのだよ」


隼人は男性の言葉の意味を考え始めた。


「まあ、焦らなくてもよい。私は研究するのが趣味で、それが仕事ともいうが、珍しい事は大歓迎だ。

それに塔が招いた客人も珍しい」


隼人は少しだけホッとした。


「そうそう、名前は悪用されやすいのでな、家族の名前とかあるか? 個人を特定するものでなくて、

それを教えてくれればいい」

「……志岐しきといいます」

「そうか、シキか、これからはおまえさんの事はシキと呼ばせてもらおう」


男性はそれから壁に向かって何かをしていたが、一冊の書物を志岐の前に持ってきて広げて見せた。


「これが読めるか?」


志岐は何となく文字だとは思ったが、全く知らない文字だったので、そう告げると、

男性は書物を閉じて傍の机の上に置いた。


「読めるようにするから目を閉じてくれ」


志岐は恐る恐る目を閉じた。両方の瞼の上を男性の指が動くのを感じた。


「目を開けていいぞ、これでもう一度見てみなさい」


志岐はゆっくりと目を開くと、もう一度目の前に差し出された書物を見た。

先ほどと同じ形の文字で日本語の文字に勝手に置き換わるわけではなかったが、

文章らしきところに視線を移すと、その部分の文章の意味が頭の中に浮かんだ。


「読めるとは言いませんが、意味は分かります」


志岐の言葉に男性はうなずいた。


「ではそこの壁に穴があいているだろう?」


志岐は男性が示した壁の方を向いた。

石造りの壁の中に穴というのか、ガラスがあれば小さな出窓のような空間がそこにはあった。

しかし穴の周囲は分かるが、その向こうが見えない。

どういう感じかといえば、エレベーターの中身がないのに外側のドアが開いた様子というのが

一番近いかもしれない。壁の穴の大きさは小さいものだけれど。


「その穴に向かってシキが読みたいと思う書物を頭の中で念じてみなさい」


男性の言葉に志岐はやってみるしかないと思って穴に近づいた。

そして『この塔と呼ばれる場所がわかる書物』と念じてみた。

チリンと音が響くと、突然書物が目の前に現れた。

つまり出窓のような場所にいきなり書物が置かれていたという事だった。


「そこの椅子に座って中身を見てみなさい」


言われた通りに志岐は書物を手に取り、椅子に座って中身を見始めた。


『コーアス国について』


――――日本でもどこかの外国でもないのは確実になった。


そこには、『コーアス国』の歴史や地図が載っているのが分かった。

一番大きな都市はランカスターという場所で、これだけならば、どこか外国の都市名かも知れないと思えたが、地図のページが出てくると、さすがに地球上の国ではないと思えた。

受験勉強も真面目にしていただけに世界地図ぐらいは頭に入っている。

志岐はその地図の形だけでもここは地球じゃないどこか別の場所だとなんとなく理解できてしまった。


「はあ、どうしてこんなことになったのだろう……」


志岐のつぶやきを聞いたのか、男性が志岐の近くにやってきた。


「……この世界、と言った方が分かりやすいか、不思議な事も多い。とくにこの塔の周りはそうだ。

今のところはその書物を読んでおいてくれ。私がしている事を片づけるまで待って欲しい」


男性の言葉に志岐は頷いた。

志岐からすればここがどこなのか自分がどうなったのか知りたくてたまらない。

でもこの男性にとってみれば、仕事をしていたとすれば、邪魔をされたようなものだろう、

それでも志岐の事を考えての対応だと思えた。

初投稿です、よろしくお願いします。

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