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俺はシンガーソングライター

作者: 稲村正輝

俺はシンガーソングライター。

今日も都会の片隅で、孤独の闘いに明け暮れる。

孤独……、いや違う。孤高と言った方がしっくりくる。

ファンレターは毎日届く。とても有難いのだが、全部読んでいる暇がない。

申し訳ないと思いながらも、最近購入したシュレッダーの音が大好きすぎるので、

みんなからの声は、俺の大好きな音に変えてちゃんと聞いている。

本当に多忙だ。世の中は俺に死んでほしいのかと思うぐらいに。

俺に死なれては困るくせに、矛盾だらけの狂った世界だ。


そんな俺に、大きな仕事が舞い込んできた。

なんでも映画のエンディングに使用する曲を作ってほしいとのことだ。

監督が俺のファンで、今までも何度かオファーがあった。

俺は、国民栄誉賞を二度も辞退しているイチロー選手が凄く格好良いと思っていたので、その監督からのオファーも二度断ってきたのだが、三度目のオファーは断れなかった。

ということで、この多忙な時期に、大きな仕事を引き受けたというわけだ。

この仕事のため、わざわざ高級ホテルの部屋を借りた。

夜も更けた街の明かりを見下ろしながら、俺は曲を作る。

挽きたての珈琲でもテーブルにあれば、幾分かお洒落だろう。

とりあえず、今夜は仕事だ。


俺は、監督直筆の手紙と同封されていた映画のあらすじに目を通してみた。


------

タイトル

「君に捧げる鎮魂歌レクイエム」


登場人物

 和夫かずお:趣味でバンドをしており詞や曲も作る

 洋子ようこ:和夫と交際している


あらすじ

 ある日、洋子は病に倒れ余命半年との宣告を受ける。

 洋子と結婚を前提として付き合っていた和夫はショックを受けるが、

 洋子を励まし、洋子の最期を見届ける決意をする。

 プライドの高い洋子は、和夫の看病をお節介だと捉え拒絶していたが、

 いつしか和夫の想いを受け入れ、和夫と共に最期を迎える決心をする。

 余命宣告から一年が過ぎ、洋子は身体の自由がきかなくなっていた。

 和夫は洋子の食事や睡眠、排泄物の処理など生活のすべてを世話する。

 二人で生きることを考えながらも、洋子は天国へと旅立った。

 残された和夫は、洋子との思い出を胸に一曲呟くように歌う。

 (ここでエンディングに入る)

------


なんだか重い内容だ。頭痛がしてきた。

俺はバファリンを飲もうとしたが、バファリンで解決するような問題ではないことに気付き、何度もあらすじの文章に目を通した。

字がぼけて見えやがる。

駄目だ。身体の自由がきかなくなってきたのは俺の方だ。

今までこんな悲しい曲を作ったことがない。

人の死なんてテーマを扱った曲なんて、葬式以外のどこで歌えば良いのか。

それ以前に、葬式にギターを持ち込んで良いのだろうか。

今後、そういった場面が訪れるかもしれないから、家に帰ったらネットで調べておこう。

さて。それよりも、まず曲作りだ。


あらすじを読む限り、和夫が「呟くように歌う」場面からエンディングに入るということから、

和夫が歌う曲は、俺が今から作ろうとしている曲だということは容易に理解できる。

だから、俺は和夫になりきって曲を作れば良いということだ。

それにしても、何故か分らないが、「排泄物の処理」という言葉に目がいってしまう。

処理ってどういうことだ。

普通に考えれば、洋子の便をトイレに流しにいったり、オシメを替えてやったりするのだろうけど、

ここって曲にする必要あるのだろうか。

でも、この映画の鍵を握っていることは確かだろう。

「排泄物」って言葉、曲に乗せにくいよなあ……

かと言って「うんこ」とかだとダイレクト過ぎる。

もっとオブラートに包んだような言い回しはないものか。


俺は珈琲を片手にしばらく考えた後、はっと思いついたように紙へ羽ペンを踊らせた。

曲が出来上がったのは翌朝のことだった。


俺はホテルを後にし、ギターケースを片手に夜明けの道を歩いた。

この何とも形容しがたい満足した気持ちを胸に、俺は一曲呟くように歌う。



君といる時はいつまでも

何かしら ほら目につくものさ

鼻糞 この手で綺麗にぬぐいたい

嗚呼 ぬぐおう 嗚呼 ぬぐおう


君なしじゃ息も出来ないと

汚れ(けがれ)のない嘘も好きだった

鼻糞 僕だけが知っているつもりさ

嗚呼 ぬぐおう 嗚呼 ぬぐおう


探すたび クセになる鼻糞

Uh yeah 守りたい一心でさ

泣かすたび 宙に舞う鼻糞

Uh yeah 君のことだけ見ている


キスの味なのに悲しいのは

君は明日ここにいないからさ

鼻糞 最後に僕がぬぐってあげる

ありがとう ありがとう


何もかも嫌になる時には

Uh yeah 君の鼻糞

そっと指で ぬぐって風の中

Uh yeah ほら鼻糞も笑ってらぁ


君だけが死ぬなんて 僕には考えられない

Last nose-stones in the hole of my lover's nose

さよなら


涙がもう君との思い出も

Uh yeah 流してくれる

泣く僕をぬぐったこの手には

Uh yeah 君が残した鼻糞

一粒だけの鼻糞


君の鼻糞をぬぐえるのは 僕だけ


  曲名:君の鼻糞をぬぐえるのは僕だけ

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