売れないシナリオライターの独白
朝……というよりもう昼。
すっかりと太陽は頭上高くまで昇りきっており、外からは人の賑わいが聞こえて来る。
人生の勝ち組ってやつだろうか……起き抜けの耳にその楽しそうな声が感に障る。
昨日も夜遅くまで恋愛小説を書いていた。甘ったるく幸せな物語だ。
結果は、見向きもされない。酷評どころか、そもそも相手にすらされないのだ。コレほど辛いことは無い。
昔……というほど古くはなかったか。以前読んだ物語に「私は脇役だ。取り柄も無いし、普通だし」などというキャラクターがいた。
正直言って、虫唾が走る。腹が立つに決まっているだろう?
確かにそいつは主人公にはなることが出来ない。脇役のままで生涯を終えるのだろう。誰かの引き立て役であり続けることは辛いことなのかもしれない。
しかし、しかしだ!
世の中には、その脇役になることすら出来ない者が多数にいることをそいつは理解していなかった。
そうだろう?
その多数は、テレビでいうなれば物語の最中に主人公達の背後を一度だけ通り過ぎるだけの通行人……いや、そもそも画面に映ることすら叶わぬ者達なのだから。
笑いたければ笑うがいい。主人公や脇役になることも叶わず、それどころか通行人Aになることすら出来ないこの私を、私たちを──
ふう、話題が逸れたな。ついとりとめも無いことを考えてしまった。
執筆に戻ろう。学生生活も今年で最後、ただ歯車のように生きるのは嫌だ。生きたいように生きれる者が少ないとはいえ……全く、夢も希望もありゃしない。
「人は、他人に忘れられた時こそ、真に死ぬのだ!」と叫んだ医者がいた。
ならば私は死んでいるのだろうか?
「生きる屍」とは上手いことをいう。
親しい者もおらず、自分のことを知る者はいない。作品には目も通されず、居るか居ないかも分からぬ匿名掲示板でだべる日々。
本音を話そう。
私は──
ち や ほ や さ れ た い の だ ! ! !
だからこそ、これより書くのは私の願望そのものなのだろう。
舞台は異世界の王宮、自分自身をヒロインに仕立て上げた乙女ゲームの逆ハーレムファンタジーストーリー。
ライバル達を押しのけ蹴落とし、内外共に格好いい男達にチヤホヤと愛される。ただそれだけの物語に私は全力を込める。
どれだけ偽ろうが、自分だけは騙せないのだから。
◆◆◆◆◆
3日後。
外を出歩いていた私はトラックに引かれて死んだ。
……嫌だ。
嫌だ。
嫌だ!!
私は何も残していない。評価されるような作品も、誰かと作った思い出も、他人に何一つ影響を与えることも無く、覚えることすらされずに消え去り忘れ去られる。
あるのは後悔ばかり。
なんて悔しいのだろう。あの作品もまだ書き途中だ。
こんな結末を迎える為だけに私は生まれて来たのか、何の為に私は生きていたのか。
答えが返ってくる訳もなく、私の人生は幕を閉じた。