騎士の学校 ~いつも側に~
「なにものだ?」
俺達の声が重なる。
「ひさしぶりに光剣使いが現れたと聞いて、成長する前に殺してやろうと来たら、まさかあの青騎士の弟までいようとは。これも運命か」
夏陽や義朝、そして俺の手に刻まれた紋章が、赤くなる。
「まさか妖魔か。でもこの喋り方はまるで人……そうかこいつは……高等妖魔……!」
「嘘……ここは王都内よ。結界が働いているから妖魔は入れないんじゃ。それに高等妖魔って」
「まだ習ってないかもしれないが、一部の力の非常に強い妖魔は結界内に短時間なら入ることができるらしい……俺もこれは兄貴から聞いたことだが」
「夾也、夏陽、どうすんだ!?」
すると奇妙な男が手を叩く。パチパチパチ。
「青騎士の弟くんは察しがいいですね、すごいすごい。では当初の目的ではないが、ご褒美に君から殺してあげますよ」
奇妙な男は攻撃姿勢をとろうとしたが、それより早く義朝が動く。
義朝が手に次元刀を顕現する。
「ほう、黒剣か」
「俺もいるんだよ! 高等妖魔かなにか知らないが、させるかよ」
「義朝やめろっ」
俺は叫んだが、義朝は止まらない。
義朝は一瞬で間合いを詰める。黒剣を振り下ろす。
だがその黒剣は高等妖魔の指一本に止められる。
「な……に!?」
「ほう、筋がいいですね。それにその黒剣……君は強くなるよ、だが今じゃない」
ドン。
義朝は蹴り飛ばされ遊具にぶつかり。意識を失う。
俺は身体が動かない。
敵の強さを、高等妖魔の強さを誰よりも知っているからなのか。心と身体が統一されない。
夏陽は高等妖魔を見据えながら、俺達に叫ぶ。
「夾也、義朝を連れて逃げて、私が時間を稼ぐから……」
「やめてくれ、夏陽!」
夏陽が次元刀を顕現する。眩い黄金の剣が姿をみせる。
「おお美しい、なんだその光は。その光はにっくき例のあいつ以上ではないか……しかしその光も、我らを滅する光でしかないということが非常に嘆かわしい」
夏陽が高等妖魔に向かって突進する。その速さは義朝を超える。そして剣を振り下ろす。
カーン。甲高い音が響く。高等妖魔が初めて防御の姿勢をとる。腕を硬化させて夏陽の一撃を防いだのだ。
それでも夏陽は攻撃の手を止めない。2擊3擊と4擊5擊と剣を振り下ろす。
「私に防御姿勢を取らせるとはやはり侮れませんね。そしてそれがまだ騎士学校にはいって数週間しか経っていない小娘とは……やはり芽は早めに摘んでおくのが正解なようですね」
妖魔の腕が光剣の退魔の力によってより削られていくのが分かる。次元刀にはすべて退魔のチカラが宿っているが、光剣はその退魔のチカラがより強いのである。
「だが、お前もあの黒剣の坊主と一緒で……なにより経験が足りない」
神がかりなタイミングで身をひねり夏陽の一撃をかわす。そしてその一瞬の隙をついて夏陽の光剣を弾き飛ばし、腹にパンチを入れる。
夏陽は動けなくなり、地に膝を着ける。
するとすぐに高等妖魔は夏陽の首を掴んだ。夏陽は首を締められ、その意識を闇に落とす。
「あの弟君から殺そうとおもったが、やっぱり君からにしよう」
俺の目の前の地面に夏陽の光剣が突き刺さる。次元刀は持ち主の手から離れても10秒ほどは現界し続けるのだ。
地面に突き刺さった光剣と首を掴まれた夏陽を見て、俺の身体を自然と動いた。 俺は夏陽の光剣を手に取り、走り出す。
「やめろおおおおおーーーー」
「自分の次元刀を顕現しないということは、なるほど君は騎士ではないのですか。はっはっはその光剣を離したまえ、それは君には過ぎたおもちゃだ。おっと」
だが俺は一瞬で間合いを詰めることができた。他人の次元刀でも紋章を持つ騎士ならば能力を多少発揮できるようだ。
だが高等妖魔はそれにも対応する。その対応力こそが、高等妖魔としての証なのだろう。
「無駄だっ」
高等妖魔は俺の手から光剣を弾き飛ばす。
だが俺はいつの間にか背中の鞘から木剣を抜いて、さらにそれを振り下ろしていた。イメージするのは兄貴の剣筋だ。
「手詰まりで木剣ですか。そんな木屑、防ぐまでもない」
だが俺の木剣は、やつの夏陽の首を掴む手高等妖魔の腕を切り裂いた。夏陽は地面に落ちる。
されどそこは高等妖魔である。たたみかけようとする俺の2擊目を片腕で防いだ。さらに俺の木剣を手から弾き飛ばし、俺の胴を蹴り飛ばす。
「うっ」
一瞬意識が飛びそうになったが、俺は倒れない。
「なぜ次元刀でもないただの木剣に、この私がダメージを……」
高等妖魔は俺の手で輝きを放つ紋章じっと見て、はっと気づく。
「まさかその木剣は次元杉で出来ているのか……ならばこの傷も納得がいく」
俺は高等妖魔の発言で初めてこの木剣の正体を知った。
「だがしかし、食らう一撃なら躱せばいい。種さえ分かってしまえばそれまでだ」
俺が切り裂いた高等妖魔の腕が、ものすごい速さで治っていく。
「これで元通り。そろそろ終わりにしようか。君たちを一気に殺してあげよう」
高等妖魔はそう言い、こっちに向かってゆっくり歩いてくる。そのするどい爪をたてながら。
俺は敵を見続ける、息は切れ、足が震える。勝てない。でも……俺は後ろを見た。
血を出しボロボロになって倒れる夏陽と義朝の姿が見える。
その姿が兄貴の姿と重なる。
俺がここで倒れたら、俺を始めに夏陽と義朝も必ず殺される。そしてそれはあと数秒後に訪れようとしている。
「出ろよ……次元刀……今出なきゃ俺も友達もここで……だから……!」
試しの儀ではないこの場所で次元刀が召喚できるはずはない。頭ではそう分かっていても身体が勝手に動く。そして一言詠唱する。
「ディメンション」
その瞬間最後の兄貴の言葉が聞こえる。今まで届かなかったものに触れ、俺はそれを掴み取る。
「夾也は……弱くて泣き虫だから……夾也が強くなるまで……俺が…………俺の心が、側にいるから……」
そうか兄貴は、いつも俺の側にいたんだ。
凄まじい風の中で俺の手に、漆黒の次元刀が召喚される。落としていた視線を高等妖魔に戻す。
俺の眼は片目だけ赤くなっていた。
「なんだその次元刀は、そしてこの私が気圧されるだと。ありえない」
「……消えろ」
俺は一言そう言った。言ったというよりも、自然に口からその言葉が出てきたというほうが正しいのかもしれない。
そして高等妖魔に斬りかかる。俺は半ば意識を失いかけながらも、身体が動くように動いた。まるでそれは兄貴に剣を教えられているようで。
勝負は一瞬でついた。
「この私が……まさかお前は…………」
「……」
次元刀を突き刺されたまま高等妖魔は一言そう言った。
そして光となって消えていった。
「終わった……」
俺は手に持った次元刀と一緒に、地面に倒れこむ。
漆黒の次元刀は消え、俺の意識も闇に飲まれていった。