騎士の学校 ~剣なし~
俺は食堂で義朝や由良と昼食を一緒に食べる約束をしていて、そこに向かっていたのだが、少し迷っていた。
しかしやっと道が分かり、食堂の付近まで歩いて行った時、突然声をかけられた。
「おい、剣なし」
またかよ……俺はいやいや振り向く。
「剣なしか……確かに言えてるな。で、なんかようか?」
「なんか用かじゃねーよ! 俺はさー、お前みたいな中途半端でへらへらしてるやつが嫌いなんだよ、騎士学校やめちまえ」
「確かに、俺は次元刀を召喚できなかったし、中途半端かもな……でもお前も、ブルーのブレスレット付けてるってことは下位クラスのやつだよな? お前も俺と同じ下位クラスってことは、試験の成績が悪かったか、メンタルに問題あったんだろ? それに俺みたいなのにこうして絡んでくる時点で、お前も中途半端だと思うよ」
騎士学校に本当の意味で入学して、最初に渡されたのはこのブルーのブレスレットだった。
このブレスレットは付けたものの次元刀の力を弱め、殺傷能力をなくしてくれる。具体的に言うと、切れなくするのだ。
しかし切れないといっても打撃によるダメージはある。まともに喰らえば1日か2日はその意識を闇に落とすだろう。
そしてなぜこのブレスレットを渡されたかと言うと、騎士学生同士の決闘や実技など、学生同士が戦う際や授業で次元刀を使う際に、死者を出さないためである。 騎士学生は学校の敷地内では原則として、このブレスレットをつけていないといけない。
また、ブレスレットには色があり、上位クラスはレッド、中位クラスはグリーン、下位クラスにはブルーのブレスレットが与えられる。
「おまえじゃない、俺の名前は佐々木だ!! てめーすき放題言いやがって!!」
俺は首元の制服を掴まれる。
「佐々木か、とにかく喧嘩ふっかけてきたのはお前だろ。あと、俺の名前は衛上だ」
俺は首元の襟を掴まれたまま佐々木をにらみつける。
「こらーそこ、喧嘩はよしなさい」
若い女の声がした。俺と佐々木は声のするほうに振り向くと、格好からして教師と思われる女がこっちへ向かって歩いてくる。
「くそ! 覚えてろよ」
といういかにも悪役なセリフを吐き、佐々木は走りさっていく。
「きみ大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
俺は乱れた制服を直しながら答える。
「きみ、新一年生?」
「はい、そうです」
「私は二年の実技担当の教師よ、結衣賀先生って呼んでね。でさっき喧嘩してたみたいだけどなにがあったの?」
「……」
「あまり言いたくないかな……じゃあさっきの子ときみの名前教えてもらえる?」
「さっきのやつは下の名前は知らないけど、佐々木ってやつで、俺は衛上夾也です」
「衛上……」
「どうかしたんですか?」
「ええ……なんでもないわよ。じゃあこれからは喧嘩しないように気をつけてね」
そう言い残し結衣賀先生はそそくさとどこかへ行ってしまった。
結衣賀先生の今の態度はなんだったのか。ん。待てよ……俺はあの先生の顔をどこかで見たことがある気がした。でもどこで見たかまでは思い出せなかった。
そして考えを戻す。喧嘩しないようにって言われても、次から次へとさっきの佐々木みたいなやつが文句つけてくるんだよなー。噂広がるの早すぎ、俺の顔指名手配でもされてんのかよ。
ふと試しの儀で紋章が手に刻まれた瞬間を思い出す。
あの時、次元刀が手に掴めそうなところまでは来ていたように思った。でも俺は掴みとることができなかった。なにかが足りなかった。
次元刀さえ召喚できていたら、こんなことにはならなかったんだろうな~。
「はぁああ~」
俺はため息を漏らす。
ってはやく行かないと、義朝と由良が待っている。俺は急いで食堂に向かって再び歩き出した。
食堂につくと由良が席を確保して待っていた。
「こっちこっち、夾君遅いよー」
「ごめんごめん、あれ由良1人? 義朝は?」
「なんかねー、急用ができたとか言ってどっか行っちゃった。先に食べてていいみたいだよ」
「そうなのか、じゃお言葉に甘えて先食べてようぜ。腹減ったし、まずは買ってこないとな」
「そうだねー」
俺と由良は日替わり定食を頼む。
「ここむっちゃ安いな、しかもご飯おかわり無料じゃん。食費浮かすためにも、ここで腹いっぱい食っときたい」
「あんまりお金ないの?」
「まあな……親がいないから、親戚の叔父さんにお金工面してもらってこの学校に通ってる状態だし、贅沢して叔父さんに迷惑かけるようなことはしたくないからな」
「大変そう……なんかごめん」
「いいよいいよ」
そして2人して日替わり定食を受け取り、席に戻ってきた。
「めっちゃこの肉うまそう」
「さっき張り紙に書いてあったけど、アストランドの名産の豚使ってるっぽいよ」
「まじか、あれ高かったよな。じゃあ定食が安いのも国からの補助が出てるのかな」
「そうかもね」
俺が由良とそんなたわいもない話をしていると、後ろから突然声をかけられる。
「変な噂が流れているからちょっと心配してたのに、女の子と2人で食事デートしてるんだ、へぇー」
「その声は……」
振り返ると、夏陽がチャーハンを持って後ろに立っていた。
「夏陽……誤解だ誤解、俺達はそんな関係じゃない。このあと義朝も来るし、3人で飯食いにきたんだよ」
「へぇー、まあ私はどっちでもいいけどね」
夏陽が夾也と3席ぐらい間をあけて座る。由良に小声で尋ねられる。
「この綺麗な人だれ? 知り合い? たしか入学式で新入生代表のあいさつしてたよね」
俺も由良に小声で耳打ちした。
「こいつは小泉夏陽っていって、なんというかうーん、そう幼馴染だよ」
「……そうなんだ」
ちらちら俺達を見てくる夏陽の目線が痛い。
俺は夏陽に話を振る。
「夏陽はまさか1人で食べに来たわけじゃないんだろ? このあと何人ぐらい友達が来るんだ?」
「こない……」
夏陽が小さくぼそっとつぶやく。
「ごめん聞こえなかった、もう一回頼む」
「誰も来ないって言ってるの! 私は1人で食べにきたの!!」
「まじか……なんかごめん」
「……あんたも義朝も違うクラス行っちゃうし、誰も話しかけてこないし……」
「俺も夏陽も昔から変にシャイなところあったからなー。って言っても俺も義朝がいなかったり、由良が話しかけてくれなかったら、今頃1人で屋上とかで食べてたかもな」
夏陽がじっと俺をうらやましそうに見る。
「なんだよ、その目は」
「うう……」
「夏陽さんは、綺麗だし優秀だから、みんな最初は緊張してるんだよ」
由良ナイスフォローと心で思った。
「そうそう、夏陽ならすぐに出来るよ! とりあえずさー誰も来ないなら一緒に食べようぜ、隣り座れよ! 1人で食ってても美味しくないだろ?」
夏陽が無言で立ち上がり、俺の隣に座った。
ちょうどその時義朝がパンを持って現れる。
「待たせてすまん、この学校の、数量限定特製パンが食いたくて、ちょっと売店寄ってきたんだ。なんとか確保したぜ、って夏陽もいるじゃん。パンわけてやろうか?」
「いらないわよ、カレーあるし。義朝は相変わらずね」
「俺が変わるはずないだろ」
俺と由良は、義朝と夏陽の会話に笑った。
「夏陽さんと義朝も幼馴染なの?」
「そうだよ、俺と義朝と夏陽は同じ小学校にいたんだ。俺達3人でよく遊んだんだぜ」
「いいなー、うらやましい」
俺達は四人で話しながら、昼食を食べる。1人で食べるより、友達と一緒に食べた方がやっぱり楽しいと改めて感じた。
食堂から出るとき夏陽に呼び止められた。
「由良ちゃんいい子ね、義朝も相変わらず面白いし、それに……」
「それに?」
「なんでもない。あーあ、私も下位クラスに入りたかったなー」
「成績トップがなに言ってんだよ」
「冗談よ」
夏陽がペッと舌を出す
「夾くん、夏陽さん、はやくー授業始まっちゃうよ」
「夾也、夏陽なに話してるんだー。あんまり遅いと置いていくぜ」
義朝と由良に呼ばれる。二人は食堂の出口付近でこっちを見ていた。
「呼ばれてるわよ、早く行きましょ」
「ああ!」