大演武(弐) ~北領の怪物~
「夾くん、おはよう」
「衛上くん、おはようございます」
「由良、帝、おはよう。二人は相変わらず早いな。まだ集合五分前なのに、俺が遅刻してきたみたいじゃんか」
「私も今来たところだよ!」
「なんだそうだったのか。ちなみに帝は?」
「僕は20分前からいましたよ」
「……」
さすが帝、たしかに帝が遅刻をしているのは見たことない。
そんなこんな話をしていると、後ろから忍びよる影が……。
「お兄ちゃ~ん」
後ろから突然抱きつかれた。相手はもちろん。
「彩萌、だから抱きつくなよ」
桜色の髪を揺らし、弾むような高い声で俺を呼び、抱きついてきた。帝と由良はまた始まったというような顔でこちらを見ている。
「なんで~?」
「それは……」
いろいろな所が当たっているからとは口が裂けても言えない。
「……恥ずかしいから」
「夾ちゃんは可愛いな~」
そう言って俺から彩萌は離れた。
「からかうなよな~」
「からかってないよ~。でもそういうところが……」
「そういうところがなんだよ?」
「……ううん、なんでもない」
「気になるじゃん、教えてくれよ~」
「今は教えてあ~げない」
彩萌はたまにこういうところがある。肝心なことはなにか俺に隠している気が、昔からしていた。
「そういえば彩萌、夏陽と一緒に生徒会の仕事があったんじゃないのか?」
「もう、先輩一人で大丈夫そうだったから抜け出してきちゃったんだ」
おい、それ。夏陽の怒っている顔が安易に想像できた。
「まあじゃあそれはいいとして、彩萌は今日初戦だろ。大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
「負ける心配とかないのか?」
「ないよ。私は負けない」
そう言う彩萌の顔はどこか明るくて、どこか影があるように見えた。
大演武の会場となるコロシアムまで来ると、人がたくさんいた。それもそのはずである、なぜなら今日から大演武が始まるし、開会式もあるからだ。
知った顔がいないか俺は周りを見ていると。突然帝が俺たちに声をかけた。
「あれを見てください。北領の選抜メンバーですよ」
帝が指を指した方向を見ると、そこにはまとまって歩く団体がいた。そしてその先頭を歩く少女に俺は見覚えがあった。
「北領は伝統で、毎年ああして選抜メンバー全員で開会式の会場に来てるんですよ。そしてあの先頭にいる生徒が、去年2、3年合同の部の大演武で優勝した、北領の怪物と言われている……黒曜雅ですよ」
「……黒曜、雅……!?」
俺は去年、兆也に負けてから入院していて閉会式に出れなかったので、2、3年生合同の部の大演武優勝者を知らなかった。だけど、まさか……。