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ディメンション×ソード   作者: 空のいさや
第一章-騎士の学校-
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騎士の学校 ~決定と継承~

 生徒指導室に連れて来られた俺は椅子に座って待ちながら、手に刻まれた紋章を見ていた。


「決定を待てって言われたが……俺どうなるんだ……俺は兄貴みたいな強い騎士に……ならなきゃいけないのに」



※※※


――校長室での会話


「あの子はどうしますか? 紋章が発現して次元刀を召喚できないなんて聞いたことがない」

「次元刀を召喚できなかったのだから退学が適切でしょう。他の召喚できなかった生徒と同じように」

「だが彼の手には紋章が刻まれている。その意味では、彼は次元刀に選ばれた騎士だ」

「次元刀がなければなにもできないだろ。今後召喚できる確証があるわけでもないし」

「じゃあ我々の判断としては……衛上くんは退学ということで」


 校長先生が閉ざしていた口を開く。


「衛上……そうか、君たち席を外したまえ、教頭先生だけは残るように。衛上夾也君のことは私たちで判断させてもらう、いいかね?」

「校長先生がそう言うのでしたら」


 校長室に校長先生と教頭先生だけが残る。


衛上えがみ凍也とうやくんをしっているか?」

「知らないです。衛上凍也とは誰ですか?」

「そうかそうだったね。君が赴任してくる前にいた生徒で、我が校の誇るべき卒業生の名前だよ。青騎士とは聞いたことあるかね?」

「青騎士……あの円卓の騎士にいた……まさかこの学校の卒業生だったとは。でもたしか五年ほど前に青騎士は……」

「そう、彼は死んだ。その理由はおおやけには公開されていないから君は知らないだろうが、弟を妖魔から守ったため死んだと、わたしは騎士団幹部の友から聞かされた」

「同じ衛上という珍しい苗字、じゃあ彼は……」


 校長先生は机に置かれた、衛上夾也のプロフィールを見る。


「やはり、これを見て確信したよ。衛上夾也くんは、凍也くんの弟だ」

「お言葉ですが校長先生、兄がいかにすごく、そしてその兄が弟を守って死んだとしても、それが弟をこの学校に留まらせる理由になるのでしょうか?」

「君は継承の儀というものを知っているか?」

「継承の儀……聞いたことはありますが、あれは実在するのですか?」

「これはアストランド騎士団の中でも極秘とされている話で知るものは少ない、私も君に話すことはないと思っていた。だが事情も事情だ、断言しよう、継承の儀は実在する」

「……単なる噂ではなかったのか」

「しかし条件は極めて難しい。最上級騎士レベルでないとできない上に、継承するとその騎士は次元刀の力と命を失う。しかし継承を受けたものはその力の一部を身に宿すと言われている」

「円卓の騎士……死の間際近くにいた弟……」

「そういうことだ。まああくまでその可能性があるというだけだがな」

「可能性って……校長先生はそんな不確かなものを信じるのですが」

「もう一つ、継承の儀を受けた者は、次元刀の召喚が非常に不安定になるとも言われている」

「召喚が不安定……まさか」

「本来その身に宿す力と他者の力両方を制御する必要があるからだ。そのかわり本来次元刀を召喚することができる唯一の機会である試しの儀以外の場面でも、次元刀が召喚されることがあると言われている」

「校長先生はつまり、衛上夾也くんのこのイレギュラーな状態下でも、まだ騎士としての可能性をつなぐべきだと?」

「私はそう思うね」


※※※


 生徒指導室に教頭先生が入ってきた。


「衛上君、待たせてすまなかったね、きみに対する決定が出た。結論から言えば君はこの学校に残ることができる、これはその紋章だけでも発現できたことに対する処置だ」


 俺は机の下で小さく拳を握り締める。良かった。


「ありがとうございます」


 教頭先生は継承の儀のことはあえて教えなかった。そして話を続ける。


「しかしこれは期限付きの残留である、きみがこの1年以内、つまり来年の試しの儀が終わるまでに次元刀を召喚できなければ退学とする。肝に銘じておくように。悔いのないようにがんばりたまえ」

「1年以内……はい……分かりました」


 俺は生徒指導室からクラスに戻る途中、教頭先生の言った言葉の意味を考えていた。なぜなら教頭先生が1年以内と言った意味が正直よくわからなかったからだ。 本来次元刀は、試しの儀以外の場面で召喚することは不可能と聞いていた。それならば1年以内という言葉を使うより、来年の試しの儀で召喚できなければ、という言葉を使うはずである。ここで1年以内という言葉を使った意味は……。


「……もしかしたら」


 もしかすると俺は、試しの儀以外で次元刀を召喚できるかのではないか。

 しかしいくら考えても結局答えは出ない。

 

 下位クラスに戻ろうと、上位クラスの前を通った時急に呼び止められた。振り向くと、振り向いた先の少女は険しい顔をしていて。


「夾也、あんた……退学になったの?」


 そこにいたのは夏陽だった。

 五年ぶりであるに関わらず、昔と同じように俺を夾也と呼ぶ声は、震えていた。


「夏陽」


 夏陽と呼ぶ自分の声の響き、すごく懐かしい気がした。


「俺は……退学にならなかったよ」


 夏陽の顔がぱっと明るくなる。


「ほんとに!? 私はてっきり……だったから、へぇー、そうなんだ!!」

「でも期限付きなんだけどな……来年の試しの儀までに次元刀を召喚できなかったら、退学になるらしい……」

「あんたはいつも……ほんといつも……中途半端なんだから、でも私信じてるから!!」


 夏陽は昔から俺の応援をよくしてくれた。俺はいつも夏陽の「信じてる」という言葉に元気をもらっていた。そして今回も。


「ああ! 俺はそのためにこの学校に来たんだ」

「そうですかー。とにかく、私を心配させたんだから、今度なにか奢らせるから」

「いいぜ! 夏陽団子好きだったろ? 奢ってやるよ。駅前で今日見つけたんだ、オープンは2週間後みたいだけどな」

「へぇー、結構楽しみかも」


 夏陽は俺に聞こえないくらいの声で一言ぼそっと呟く。


「え、なんだって?」

「とにかく絶対だからね! ってこんな時間じゃん、じゃあ私クラス委員で仕事あるから行くね」

「おう、またな」


 夏陽は上位クラスに戻っていく。夏陽の後ろ姿はどこか楽しそうに見えた。


 俺は下位クラスに戻ると、二人が急いで俺のところにかけつけてきた。


「夾也、お前次元刀の召喚に失敗したのか? でも紋章は発現してるようだし、どうなってんだ……まさか退学とかじゃないよな?」

「そうだよ夾君、まさかいなくなったりしないよね?」


 二人とも真剣に俺のことを心配してくれているのが、伝わってくる。


「俺もよく自分で自分の状況が分かってないんだ……でも今は、一年ぐらいは」


 俺は自分の手にある紋章を見る。 


「これのおかげで退学になることはないらしい」


 義朝と由良は声を合わせて


「よかったな」

「よかったあー」

「心配させんなよー」

「そうだよー」


 と言った。


「義朝、由良、ありがとう」


 俺は二人を同時に抱きしめる。俺は二人の温かさが嬉しかった。


「やめろよ、夾也、恥ずかしいだろ」

「そうだよー恥ずかしいよ」


 俺は二人を腕の中から開放した。


「ところで、けっこう減ったな……」

「ああ、正式な数はわからないが10人くらいはもう、荷物持って帰っていったよ」

「10人か、俺も危なかったな、今も危ないことに変わりはないが」

「笑い事じゃないよー」

「笑わせてくれ、でもほんとに俺、ここに残れて良かった」


 義朝と由良は「良かった」という時の夾也の顔が、ほんとに嬉しそうで、少し見蕩れてしまっていた。


 担任が入ってきて俺達を含む下位クラスのみんなが席に着く。


「下位クラスの諸君、改めて言わせてもらおう、入学おめでとう。これから3年間騎士としての道を学び、アストランド騎士団に入れるよう努力したまえ。そして最後に、知ってる者もいるかもしれないがこのクラスにいる衛上夾也君の特例について話しておく、同じクラスの仲間として知っておくほうがいいと判断してのことだ。彼は次元刀の召喚には失敗したものの、騎士の証である紋章は発現したため、来年の試しの儀で次元刀を召喚できる可能性が強いと判断され、残ることとなった。このことで冷やかすことはないように。以上だ」


 担任が教室を出ていき、冷やかすことはないようにと言われたにも関わらず、下位クラスのみんながひそひそ話し始める。

 次元刀を召喚失敗した生徒が、退学にもならず下位クラスにいるという噂が広まるのに、そう時間はかからなかった。










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