決闘 ~再起~
夏陽から聞いたが霞河秋人は上位クラスに入り、うまくやっているらしい。
俺と霞河はたまに廊下ですれ違うことこそあるが、あっちは俺を視線にすら入れようとはしなかった。
俺が留学生霞河秋人になにもできずに決闘で負けたという噂は、見ていた他の生徒からまたたく間に広がる。
見物していた生徒の中には俺の大演武での活躍を見て、期待して見に来てくれた人もいたようだが、なにもできずに俺は負け、結局あれはまぐれだったのだろうと思った人が大半だろう。
あの決闘から2ヶ月が経とうとしていた。相変わらず俺は自分の力を見つけられていない。そして帝から聞いたが、霞河秋人の留学もあと三日で終わるらしい。
俺は学校の外にあるベンチに放課後から一人座り、考えていた。気がつくともう夜になっている。
どうしても見つけられない、自分の力を。
俺は、兄貴の力を封じている以上、今の俺の力は所詮こんなものだろうと、自分の中でも納得してしまっていた。
「違う……」
納得なんかできない。悩んでいた。強い騎士になりたいのに自分の力だけではなにもできない。
あいつの、霞河秋人の冷たい視線を思い出される。それはまるでトラウマのように自分の頭から離れない。そしてそれは俺の心を黒い霧に落とす。
こんなんじゃ兄貴のような強い騎士になんて……。
「衛上くん」
「帝か……」
帝が暗い夜の闇からすっと現れた。そして。
「話聞きますよ」
俺の気持ちを最初から知っているかのようにそう言ってくれる。
「聞いてくれるのか……」
俺は全部話した。兄貴の力のことや、それを封じたこと、そして自分の力を全然見つけられないこと。
「そうだったんですね」
「ああ、俺の力は所詮借り物で、俺だけじゃ全然強くなれないのかな」
「衛上くん、僕はそうは思わないですよ」
「えっ」
そう俺の意見を否定する帝の声は、いつもと声色が違っていた。
「大演武の2回戦で成瀬兆也との戦いの中で見せたあの力は、本当にお兄さんだけの力だったんですか?」
「あれは兄貴だけの……」
「最後の一撃は? 成瀬兆也を倒したあの一撃、あれは僕は……衛上くんの力だと思いますよ」
「俺の力?」
「たしかにきっかけはお兄さんの力だったのかもしれない。でもそれを引き出したのは衛上くんです」
「俺が……」
「才賀先生の言葉覚えてますか?」
「次元刀は思いの強い者の前で真に強さを発揮する」
「なら衛上くんには、成瀬兆也をも凌駕するだけの強さがあの瞬間はあったんじゃないですか? 僕はあの試合を見て心が震えましたよ、きっと衛上くんの中には……」
スッと心の黒い霧が晴れていくような気がした。
「ありがとう、帝……なにか掴めた気がするよ」
俺は立ち上がる。
「僕はなにもしてないですよ」
帝はにこっと微笑む。
「俺もう一度あいつと、霞河秋人と戦う」