大演武 ~初戦~
もうすでに試合開始の合図は出ている。とうとう俺が大演武で戦う時がきた。俺はコロシアムの特設ステージに立ち、相手を見る。相手は西領の1年の6位、兆也にくっついていた朔夜とか言うやつだ。
「いやー、まさか僕の対戦相手が君とはなー」
「俺も初戦の相手がお前とは思わなかったよ。そしてお前と無駄話をするつもりもない」
俺は鞘から木剣を引き抜く。俺が木剣を引き抜いたのを見て、観客からブーイングが起こる。それもそのはずである。観客は次元刀同士の戦いが見たくて大演武を見に来ているだ。
「木剣って……東領1年に、次元刀も召喚できないのに推薦枠で出場してるやつがいるって噂は本当だったんだ。まあこの噂は兆也さんから聞いたんだけどね」
朔夜はにやにや笑っている。
「行くぞ」
激しいブーイングの中俺は朔夜の話を無視して突進する。距離はまだある、朔夜は次元刀も出さずに余裕でこちらの動きを観察している。こいつは西領の6位だ、兆也と比べればこそ劣るが、弱いはずがない。しかし朔夜は俺の木剣に油断していた。
だからこそ突進する俺の動きを見ても次元刀も出さずに余裕を見せていたのだろう。
俺の木剣は次元刀と同じく俺の身体能力を強化してくれる。そしてこれは俺の他は一部の人しか知らない。俺は加速度的に斬りかかる。
「兆也さん話がちがっ……」
俺の速さに気づいて次元刀を顕現した時にはもう遅い。俺の木剣は朔夜の体をなぎ払う。
朔夜の手から次元刀が手からこぼれ落ち、それに続き朔夜の体も地に落ちる。
「その兆也なら、躱せたかもな」
ブーイングが起きていた会場が静まり返り、その直後さっきまでのブーイングが全て歓声に変わる。観客のほとんどはなにが起きたかわかってないかも知れないが、一部の人は確実に今のイレギュラー性に気づいただろう。また変な噂が流れるか、先生とかに質問攻めされそうだ。
俺は特設ステージを後にして選手控え室に行くと、夏陽がちょうど走ってこっちに来た。きっと試合を見ていたのだろう。
「夾也すごいじゃない! だから義朝は夾也を出せって言ったんだ」
「ありがとう夏陽。でも今のは不意打ちみたいなもんだから」
「試合が始まってるのに、不意打ちもなにもないわよ」
「たしかに、そうだな」
俺は夏陽の発言に笑った。
「次の相手はこうはいかないわよ、どうするの?」
夏陽が急に真剣な顔で聞いてきた。
「まだ考えてる……でも……俺は兆也にあっけなく負けるつもりはないから」
「兆也……あいつとなにかあったの?」
夏陽が俺を心配してくれているのが、伝わってくる。
「許せないんだ……あいつだけは」
でも俺はこれぐらいしか言えなかった。今ここで夏陽に二日前のことを愚痴るのはなにか違う気がしたからだ。
2回戦は明日だ。あいつには俺の次元刀で……。