騎士の学校 ~走る~
俺の騎士学校での生活が3ヶ月目に入る。学校での生活も落ち着いてきた、かと言えばそうでもない。相変わらず文句をつけてくる輩は減らない。
最近特に鬱陶しいのは上位クラスにいるあいつ、才賀秀次だ。よく理由はわからないが、最近やけに絡んでくる。
「おい、剣なし」
また来た。
「なんだよ、なんか用か?」
「次元刀もないくせに、よく平気な顔してこの学校を歩けるな」
「たしかに次元刀はないが、俺にはこれがあるから」
俺は肩から下げている鞘に入った木剣に手をかける。
「そんな木屑でなにができるっていうんだよ?」
「お前にとっては木屑でも、俺にとっては大事な相棒だ」
「ふん、くだらないことをごちゃごちゃと。なんでお前なんかに小泉さんは……」
「小泉……? 夏陽はこの話に関係ないだろ?」
「夏陽だと……そういうところが気に食わないんだよー!」
秀次が殴りかかってくる。俺はそれを避けようとおもったが、避ける前にその拳は止められた。
「!?」
「衛上くんを傷つけることは僕が許さない」
隣で一緒に歩いていた帝が、秀次の突き出した拳を片手で止めた。
秀次は腕を前に動かそうとしても動かせなかった。
「帝、もういい」
帝は秀次の拳を掴んでいた力を弱める。秀次は腕を引っ込めた。
帝が一見なよなよしてるイメージがあるが、力はとても強いことを最近知った。
「なんだお前は?」
「僕は、早見帝。衛上くんの友達です」
「早見……まさか生徒会2年の司先輩の弟なのか?」
「そうですよ」
「なんでどいつもこいつもこんなカスみたいな奴を……今に見てやがれ」
鼻を鳴らして秀次はその場を去った。
俺と帝は教室に戻った。
「最近妙に上位クラスの才賀秀次が絡んでくるんだよなー、俺なんかしたっけ……あと才賀ってどこかで聞いたことがあるんだよな」
「上位クラスの担任が才賀先生ですよ」
「じゃあもしかして……あいつ才賀先生の弟かよ。そう考えるとたしかにどことなく似ている気が……」
俺と帝が話しているとき、由良は珍しく黙って聞いていた。
「由良どうしたんだ?」
「えっ……なんでもないよ……」
「由良は才賀秀次って奴知ってるか?」
「うん……少し……知ってる」
「そう……なのか」
由良の態度が少しおかしかったのが気になった。
それ以降、才賀秀次はなにかと俺に決闘を申し込んでくるようになる。
「おい、俺と決闘しろ。お前を皆の前でたたきのめしてやる」
「悪いが、それはできない。俺はお前と決闘をやるつもりは全くない」
決闘とは、監督役の先生を一人つけて、騎士学校の生徒同士決められた場所で戦うことを言う。
「逃げるのか、それでもお前は名誉ある騎士学校の生徒か?」
次元刀を出せない俺でも、次元杉で出来たこの木剣を使えば勝てるかは置いておいて少しはやりあうことはできる。
しかしそれは隠している秘密を露見させてしまうことになる。
逆に、ただの木剣を使って戦えばあっという間に俺の意識は二日ほど闇に落とされるだろう。
ならば答えは1つだった。
「俺はお前とやりあうためにこの学校に入ったわけじゃない。だから戦わない」
俺は軽くあしらう。そしてクラスに戻ろうとする俺はたまたま由良と会った。
「どうかしたの?」
「なんでもないよ」
才賀秀次は、一緒にクラスに戻ろうとする俺と由良の姿を見かける。
「あいつは由良と友達なのか……なら」
才賀秀次は口元を歪ませた。
「お前は俺と戦うことから逃れることはできない、くっくっく」
俺は一人歴史の宿題のため、図書館に来ていた。
すると帝が息を切らして、俺を呼びに来た。
「やっと見つけた……衛上くん大変だ、遠川さんが決闘をしている」
「決闘……相手はまさか……」
※※※
――決闘用のステージ(由良視点)
私の次元刀と才賀くんの次元刀が、激しく火花を散らしぶつかっている。
私の次元刀は雷を帯びているから雷剣、才賀くんの次元刀は炎を帯びているので炎剣と呼ばれる種類の次元刀だ。
「熱い、くぅ」
私は次第に押されていく。
炎剣は相手の次元刀に触れるだけで相手の次元刀を熱していく。
だから長時間私の次元刀の刀身を触れ合わせているわけにはいかない。
「ほらほら、そんなものか。お前にはもっと苦しんでもらう。お前の友達である衛上を呼ぶためにな」
私が負けて怪我をすれば。きっと夾くんは才賀くんに向かっていくことになる。
でも次元刀が出せない夾くんが才賀くんと戦ってしまったら、必ず私よりもひどい怪我をすることになる。
だから。
「負けられない……私は」
刀身がぶつかり合い次元刀が熱しられながらも、相手を睨む。
私にできることをやるんだ。私にできるのは刀身から雷を出すこと。
ならばそれを走らせることも……できるはず……!
「なに!?」
私の次元刀の刀身から相手の次元刀の刀身へと雷が伝う、そしてそれが相手の腕まで到達し、腕の力が一瞬麻痺する。
私の精神状態は限界に近い、この一瞬のスキを突けなければ私は確実に負ける。ならば。
「はあぁああっ!」
この一瞬のスキを突けばいい。
キーン。才賀くんの次元刀は甲高い音を立て、宙に飛ばされる。
その手に激しい衝撃を受けると同時に、才賀くんは負けたショックでぼうぜんと立ち尽くしていた。
周りで見ていた生徒から歓声が沸き起こる。
勝負はついた。
※※※
俺と帝は走り、道場にたどり着く。
俺たちの不安は杞憂だったようだ。
俺が道場に入り最初に飛び込んできた景色は、由良が秀次の次元刀を甲高い音とともに宙に弾き飛ばした瞬間の光景だった。
由良が秀次に背を向け、歩き出す。
そして俺と帝の姿を見つけ、にこっと微笑みながらピースをした。
「ありえない……こんなこと……お前は終わりだ。俺を怒らしたんだ。お前の両親が経営するあのおんぼろ鍛冶屋も潰してやる。俺の親父に言って援助を止めさせてやる」
「えっ……約束と違う。私が戦えばそれでいいって約束だったじゃん」
「そんなこと言った覚えはない。だがまだ気がすまない。お前にも一撃を入れてやる」
秀次がまた次元刀を顕現し、斬りかかってきた。
満身創痍の由良は一瞬反応が遅れた。
俺も反応し、止めに入ろうと鞘から木剣を引き抜いたが、間に合わない。
「えっ」
秀次の炎剣は同じ炎剣に止められていた。
「みっともないぞ、秀次。お前は負けたんだ」
「透兄ちゃん……」
秀次は兄が出てきた時点でもはやこれまでと観念し、次元刀を消した。
「遠川くん、弟がすまなかった。君の最後の一撃は素晴らしかったよ。下位クラスに置いとくのはもったいないくらいだ」
「才賀先生、ありがとうございます」
「秀次お前は卑怯なことをするから勝てないんだ。そういう部分はお前の心の弱さの現れだからな。ほら行くぞ」
秀次は才賀先生が連れて行った。
「由良そんなに強かったんだな。最後の一撃しか見れなかったけど、ほんとにすごかったよ」
「僕も遠川さんがあんなに強いなんて知りませんでしたよ。僕の心配は無駄だったようですね」
「ううん。二人とも来てくれてありがとう」
それ以降、才賀秀次の俺への嫌な絡みはなくなったし、由良の両親の経営する鍛冶屋への才賀一族からの援助も途切れることはなかった。
この一件を最後に俺の一学期が終わり、夏休みにはいった。