騎士の学校 ~疑心~
「夾くん、おはよう!」
「由良、おはよう」
「そういえば、今日の朝夏陽さんと義朝が話してるのを見たよ。なんか真剣そうに話してたけど、なにかあったのかなー」
「……あったんじゃないかな」
「えっ」
俺は夏陽と義朝がなんの話をしていたか、本当はだいたいは想像付いていた。ちょうどその時義朝が教室に入ってくる。
「夾也、ちょっと話がある」
俺は義朝に連れられるまま、あまり人の来ない廊下まで来た。
「夾也、おまえがあいつを、高等妖魔を倒したのか?」
「……俺じゃない」
夏陽や騎士団の諜報部の人に答えたように返事をする。
「俺たちに、嘘を付くのか……」
「嘘……?」
「俺は意識が朦朧としながらも、お前も見たんだ。次元刀を手に持ち、奴に向かっていくお前の姿がな」
「夢でも見たんじゃないか、その証拠に……」
俺は次元刀を顕現しようとしてみせる、やはり出ない。
「そんな……いや、あれは夢じゃない。夾也お願いだ、本当のことを教えてくれ、頼む……」
「義朝……」
それでも俺は言えなかった。
高等妖魔を倒したのは、俺じゃなくて……あれは。
「……」
「分かった。お前がどうしても言わないなら、俺がその力を無理やり引き出してやる」
「義朝なにを!?」
義朝が次元刀を顕現する。そして俺に向かってそれを振り下ろす。
次元刀の力を弱め、殺傷能力をなくすブレスレットを付けているとはいえ、お互いが了承した上での公式戦や決闘でもないのに、次元刀で他の生徒や先生にいきなり斬りかかるのはあきらか校則違反である。見つかれば停学、ひどい場合だと退学まである。
俺は咄嗟に、鞘から木剣を引き抜く。しかし相手は次元刀である、普通の木剣なら簡単に折れてしまうのだが。
「なに!? 木剣で俺の次元刀を防いだだと」
俺の木剣が義朝の次元刀を受け止める。
「俺も最近知ったがこの木剣は次元杉で出来ているんだ。次元刀を出せない俺にとっては、この次元杉の木剣がその代わりになるらしい。そして俺はこの木剣で奴に向かっていったが、不意こそつけはしたが、敵わず、義朝や夏陽と同じように腹に一発入れられて、気を失ったんだよ。あとは……分からない」
「なら俺の、あの時みた姿は夢だったのか……俺達は本当にたまたま助かっただけなのか……」
義朝が俺に向けていた次元刀の力を緩め、次元刀を消した。
俺も鞘に木剣をしまう。
「すまない、夾也……でも、まだ俺は……お前を信じきることができない……」
義朝は歩き出す。
「義朝待ってくれ」
義朝の返事はなかった。
義朝が去り、俺は呆然と立ち尽くす。
信じれるはずないよな……だって俺はまだ、本当のことを話せずにいるんだから。
ーー ーー ーー
あれから一週間が経つ、俺は今も義朝に無視というか避けられ続けていた。
「夾くん、義朝との間になにかあったの?」
「うん……」
「そうだよね……そうじゃなかったらこんな急に変わらないよね」
「俺のせいなんだ……」
俺はおもむろに席を立つ。
夏陽も俺達の異変に気付いて、義朝に少し話してくれたみたいだが、解決には至らなかった。
それからまた一週間が経つ、いぜん俺は避けられたままだった。
「神木義朝君の移動が決まった。彼の素質は上位クラス相当だと判断し、私が推薦した」
担任からいきなりそう聞かされた。たしかに義朝は俺達下位クラスの中では特別優秀だった。そもそも義朝は入学試験での成績も良かったが、騎士適正診断で心の問題を指摘され、そのせいで下位クラスに入っていた。
それが、試しの儀での黒剣の召喚や実技の優れた成績を残したことにより、担任に気に入られクラス移動の推薦が来ることも遅いか早いか、ただの時間の問題だったのかもしれない。
義朝が下位クラスから去る。由良はショックを受けていたが、俺はどうすることもできなかった。
けど、俺は下位クラスを去る義朝に最後に声をかける。
「義朝俺……」
無視されるかとおもったが、義朝は俺の方に振り帰らず、話し始める。
「夾也、俺……俺強くなりたいんだ。お前にも夏陽にも誰にも負けないくらい。だから俺は上のクラスへ行く」
「俺達結局は、同じこと考えてるんだな。俺はいつか……みんなを救えるような強い騎士になりたいんだ……!」
「みんなを救えるような強い騎士か……」
義朝は小声でそう呟いた後、一瞬口元を緩める。
そして義朝は止めていた歩を進め始めた。
俺はそれ以上声をかけなかった。
ーー ーー ーー
――それから1ヶ月が経過した。
「衛上くん、遠川さん、おはよう」
「おはよ帝、今日は早いな」
「おはよ、帝くん」
義朝が下位クラスを去り上位クラスに移ったように、落ちてくる生徒も稀にいる。
大抵は実技の成績などが原因のことが多いようだ。
クラスでも浮いてる俺に最近できた、異様に話し方が丁寧な友達の帝がまさにそれだった。
「今日実技ありますよね? 嫌だなー」
「帝は次元刀が顕現できるだけ、まだましだろ」
「帝くんの次元刀ってなんか不思議な感じだよね。なんとういうか、うーんなんだろう」
帝の次元刀は一見たいしたことなさそうだが、俺にはなにか特に感じるものがあった。
「底がみえないんだよな帝のは」
「そんなことないですよ、僕なんて才能がなくて落ちてきたんですから。上位クラスから下位クラスまで落ちてくるのは僕くらいですよ」
確かに、下位から中位クラスを超えて上位クラスまで一気に上がった義朝も珍しいが、上位クラスから2段階落ちて下位クラスに来る生徒は、剣術部の先輩から聞いたが極めて稀だそうだ。
「でも僕友達ができてうれしいですよ。上位クラスにいた時は全然できなくて」
夏陽に上位クラスにいた時の帝の話を聞いてみたことがあるが、夏陽曰く誰に話しかけられても愛想笑いを返すだけで、ずっと一人で本を読んでいた、影の薄い生徒だったらしい。
しかし俺にはそれが信じられなかった。
なぜなら下位クラスに来た帝は、俺にいきいきと話しかけ、もとい質問攻めにしてきたからだ。
席も隣になったし、なにかと絡んでくる……というかいつのまにか友達になっていた。
そして実技の時間が始まる。俺はまだ隠していた。
次元杉でできた木剣で次元刀の変わりとして用いることができるということを。なぜならこんな話聞いたこともなかったからだ。だから誰かに話してまた変な噂が広がるのも嫌だった。
俺はもうすでに悪い意味で目立っているし。義朝にはこないだ見せたが、誰かに話してはいないようだ。
だから俺は実技の時間も、次元杉で出来た木剣の能力は引き出さず、素振りだけをしていた。
素振りだけと言っても手を抜いてはいない。俺は汗だくになって振り続ける、兄貴の剣に追いつくために。
「なにか違う……」
こんなんじゃ全然だめだ。
そして俺は、あの高等妖魔を斬った時の感覚を思い出そうとする。
あの時のことは無我夢中だったしであまり思い出せないが、感覚はまだこの手の中にあった。
シュン。俺の木剣が風を置き去りにした。
「今の感触……ってまずい」
今一瞬力が漏れてしまった。
木剣を次元刀の力のバックアップなしに振り切ることができないくらいの速さで俺は振り切ってしまった。
これを誰かに見られるのはまずい。俺は素早く周りを確認する。
「良かった、誰にも見られていな……ん?」
視線を感じた。俺はその方向に振り向くと、そこには帝がいた。
目こそ合うことはなかったけど、見られてなければいいが。