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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
9/49

第8話

          *


赤い扉をくぐった先は、アイが戦闘用義体を手に入れた別の赤い部屋と同じような造りだった。


8畳間ほどの広さで、土畳で構成されたダンジョン通路とは明らかにちがい、リノリウムのような素材でできている。


室内の壁には、やはり鏡が立てかけられている。

アイはそれを覗きこもうとしたが、自分の姿に見とれて時間を費やすのを怖れて断念した。


「この部屋で色々な強化ができるわけね」

「制限時間があるので、あまりゆっくりできませんけどね」


室内のタイマー表示は残り15分。

ハッキリ覚えてないが、戦闘用義体を手に入れた別の赤い扉の部屋とは残り時間が違う気がする。

部屋によって滞在できる時間が違うのか。


「さっきはこの部屋を覗いただけで、素通りしたのよね」


なぜ、とは聞かない。

楓が自分を探していたからだということを、アイは知っているからだ。


だからただ、ありがとうございます、と頭を下げた。


「べ、別に改まってのお礼なんていいわよ……そ、それより、あんたの話を聞いた限りだと、タブレットが……あった、これね」

「多分ですけど、タブレットを持ってない人が部屋に入る度に、勝手に補充されるんでしょうね」


1部屋に1個しか置かれていない可能性もあるが、2人ともタブレットを手にした以上はどちらでもいいか。


「何コレ面白いわね。あたしの名前と現在時間が表示されてるわ。こっちは……ダンジョンの名前と、今持っているAP数ってヤツね」

「そこに【技能取得】っていうアイコンがありますよね? それを起動させて、APで技能を買うんですよ」


試して分かったことだが、技能取得も義体(男と女)の切り替え同様、ダンジョン内に複数点在する赤い部屋か地上でしかできないらしい。


「APはどうやったら溜まっていくのかしら?」

「これも予想ですけど、このダンジョンで『特定の行動をした最初の1人』にAPが入るんだと思います」


――ファストアクション。


半ば強制だったといえ、『鉄雄』が先頭でダンジョンに足を踏み入れたとき、【異界侵入】【ダンジョン侵入~狭間の牢獄~】というセリフが自分だけに聞こえた。

先頭を歩いていてコボルトと遭遇したとき、同じく【接敵】が聞こえた。


コボルトの攻撃を最初にくらった比野が【被弾】という声が聞こえたとのことだが、これは『鉄雄』には聞こえなかった。

コボルトを攻撃した際の【攻撃】は周囲に誰もいなかったので割愛しよう。


アイはそれらをかいつまんで説明する。


「あとはレベルアップですね。コボルトを殺した後、レベルアップと同時にAPが1増えました」

「そう言えばそうだったわね。ダンジョンで色んな行動をしてみればそれが強化に繋がるわけね」

「ええ。この部屋でやることをやったら、色々試してみましょう」


……あれ、いまの会話の流れに、違和感がなかったか?


まあいいか。


ともあれ、楓と会話することによって、ようやくその重要性に気付くことができた。

APがもらえる行動と人数に限りがある以上、ファストアクションによるAP取得は『早い者勝ち』だ。


自分と楓でAPを寡占することができれば、それだけ探索を有利に進められる。


だが、金剛高校の連中は無視していいが、同じように異空間に飛ばされた他の学校の生徒もいる。

そのうちの一部でもダンジョンの攻略を開始したなら、時間が経てば経つほどファストアクションによるAP入手は厳しくなるだろう。


「どういう行動でAPをいくつもらえるのか法則性が分からない以上、手当り次第試してみるしかないでしょうね」


経験則によれば、基本は1ケタか。

最初に貰ったAP300というのは明らかに異常だが、異世界そのものに足を踏み入れるという、本当に最初の行動をしたことによるご祝儀だろう。


まあ、そのご祝儀はそっくりそのまま、女の子の体に変わってしまったが。


「まずはどんな技能があるか確認しましょ」

「そうですね。その後でどの技能を買うか打ち合わせをしますか」


アイはアプリを起動し、そこに表示された文字の羅列に目を通す。


**********

技能取得アプリケーション Ver1.01


※バージョンアップにより、新たな技能が追加される場合があります。

※戦闘技術系・ステータス強化系については、次回バージョンアップにて追加予定です)


葉鐘鉄雄 所持AP18

取得技能:戦闘用義体♀(希少度1)


<戦闘技能系>

拳1 AP3

刀1 AP3

剣1 AP3

短剣1 AP3

槍1 AP3

槌1 AP3

弓1 AP3


<戦闘魔法系>

火焔1 AP5

轟雷1 AP5

烈風1 AP5

氷華1 AP5

土砕1 AP5


<回復系>

回復1 AP5

??? AP20

解毒 AP10

??? AP150


<補助系>

アイテムボックス拡張+1 AP1


<探索系>

地図(狭間の牢獄) AP5

照射 AP5

出口表示 AP5

入口表示 AP5

罠感知 AP10

??? AP30

??? AP50

??? AP50

??? AP100


<生活生産系>

ろ過1 AP10

加熱1 AP10

冷却1 AP10

布・革加工 AP10

??? AP30

??? AP90 

食料品召喚 AP5

生活品召喚 AP5

??? AP50


<特殊系>

??? AP100

??? AP200

【売り切れ】AP300


**********


「あれ?」


一瞬バグったかと思ったが違うようだ。


「現在持っているAP以上の値段のものは、表示が見えなくなるのか?」


特殊系のAP200が必要な技能は、戦闘用義体(♂)だったはずだが、???で表示されている。

恐らく200以上のAPを持っていれば、普通に見えるのだろう。


「でもって、AP300の売り切れが、俺の買った女性型戦闘用義体って訳だな……ん? 売り切れ?」


まずい!


「AP取得だけじゃなく、技能を覚えるのも早い物勝ちなのかよ!」

「何ですって!?」

「戦闘系技能は当面この義体で何とかするから後回しにするとして、普通に生きていくために必要な技能を習得しないと!」

「わかったわ!」


優先順位でいけば、水→食べ物→その他(衣と住など)か。

とにかくAPは18しかないのだから、慎重に選ばなくては。


「うーん、名前だけじゃイマイチ自信が無いが、【食料品召喚】がそれっぽいな」

「そうね」(ピッ、ピッ)

「いや、でも【ろ過】も取りたいな。こっちは効果が簡単に想像つくし」

「両方取ればいいじゃない」(ピッ、ピッ)

「うーん、そっちの方がいいのかな? だけど本音を言えば回復系も欲しいんですけど、そっちを取得できるのはいつになるやら」

「あたしに任せて」(ピッ、ピッ)


……ん?

さっきから何かおかしくないか?


「そういえばアイ、あんたの本体って腕とか目を失ってるのよね。『これ』も回復系だし……」(ピッ、ピッ)

「おい、ちょっと待て!」


思わず敬語を忘れ、ツッコミを入れてしまう。


「何よ?」

「……先輩の画面を見せてくれませんか?」

「いいわよ、はい」


そしてアイは楓の液晶画面を見たとたん、固まってしまった。


**********

技能取得アプリケーション Ver1.01


※バージョンアップにより、新たな技能が追加される場合があります。

※戦闘技術系・ステータス強化系については、次回バージョンアップにて追加予定です)


八月一日楓 所持AP36

取得技能:食料品召喚(希少度1,000) ろ過(希少度100) 

取得技能:回復1(希少度∞) 欠損補填(希少度3)


   ・

   ・

   ・


**********


――技能の横にある希少度というのは、その技能を習得できる人数上限だろう。


俺の戦闘用義体♀は希少度1だから、俺1人の購入で売り切れ。

先輩の食料品召喚は1,000人まで習得可能。

回復1は売り切れなし、といった具合か。


――ああいや、いま着目すべきはそこじゃない。

うん、分かっているんだ。とりあえずという形で一呼吸置きたかっただけだ。


さて、と。


「……あの、何で先輩がこんなにAPを持ってるんですか?」

「え? ファクトアクションとかで手に入れたからだけど」


それがどうかしたの? とばかりに小首を傾げる楓。

そのきょとんとした表情は愛くるしくて、見てるとほっこりさせられる。


「……ってそうじゃなく! 先輩! ファストアクションを起こしてたんですか!?」


どうやらお互い思い込みをしていたらしい。


アイにしてみれば、楓はAPが無いと思い込んでいた。

楓にしてみれば、『アイが楓はAPを持っていると思っている』と思い込んでいた。


「あっちゃ~」

「あうぅ……」


互いに顔を見合わせ、バツの悪い顔をする。


考えてみれば楓は無力な少女などではなく、武器を引っ提げて単独行動するようなバイタリティ溢れる少女だ。


『楓がAPを持っているはずはない』という考えは『楓にAPを取れる訳がない』と、彼女を軽くみているも同然。

アイはその無礼に気付き、自己嫌悪に陥る。


「すいませんでした、先輩」

「ううん、あたしの方こそごめんなさい。技能を確認して打ち合わせするときに所持AP数を申請すればいいや、って思ってたから」

「だったらなおさら俺のせいですよ。売り切れを恐れて急かすようなことを言っちゃいましたからね」


がっくりうなだれるアイ。

その拍子に長い髪の毛がふぁさっと揺れる。


「んー、責任の奪い合いをしてもキリがないし、ここは1つお互い様ってことで手を打ちましょ」

「そうですね」


別にケンカしている訳ではないが、和解の印に握手をする。

差し出された楓の手は、自分アイの手と同じくらいに白くて細い。


つくづく、女の子の体というものは小さいのだと思い知らされた。



『ファストアクションやレベルアップでAPを貯めて、技能と交換して強くなろう(生活を豊かにしよう)』というのがシステムの根幹になります。


私の技量不足でやたら説明が回りくどかったり、理解しづらい部分がありましたら申し訳ありません。

需要が無いとは思いますが、場合によっては別途、システム的な資料ページ(本文で公開した範囲)を作って整理することも考えてみます。


※2015年2月12日 誤字を修正しました。

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