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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
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第4話

「ああもう、一体何だよ!?」


音のした方を見ると、壁にデジタル時計がはめ込まれている。

いや、カウントがどんどん減っているからタイマーか。


180……179……178……。


何かの3分前になったから警告音が鳴った?

問題は、それが『何か』だ。


「女の子の姿でいられる制限時間? いや、違う」


答えはすぐに分かった。

天井が少しずつ低くなってきてる。


カウントが0になると押しつぶされるから、その前に部屋を出ていけということだろう。


「……って、冗談じゃねえぞ!」


せっかく辿りついた安全地帯セーフティーゾーンは時間制限付きかよ!

ここを追い出されたら、犬面人が待ち受けてるダンジョン通路に追い立てられてしまう。


「クソッ、その前に何かしら手を打たないと……そうだ、タブレットだ!」


この10インチタブレットを操作したから、自分の体が女の子になってしまったんだ。

三途の川に片足を突っ込んだ状態で操作したのでうろ覚えだが、今の俺は戦闘用義体とかいうモノのはず。


このまま戦えるのか、何か特殊な挙動が必要なのか。

タブレットを見れば何かしらの打開策ヒントが書かれているかもしれない。


鉄雄は慌ててタブレットを手に取り、表面下部についているボタンを押しこんで画面を起動させる。


【AD2015年6月12日 AM10:38:08】

【葉鐘鉄雄 現在地:狭間の牢獄B1F 所持AP:12】


1行目は現在の日時か。

日付は今日で間違いないし、時間はスマホが『体ごと』どこかに行ってしまったから確かめようがない。


2行目は俺の名前、そして狭間の牢獄というのがダンジョンの名前だな。

B1Fってことは、もっと地下があるってことかもしれないが、そこを今悩んでもどうしようもない。


むしろタブレットがこんなところにあったり、それが日本語で表示されている方がよっぽど気になってるんだ。

それらの謎ともいずれ向き合わなければならないんだろうが、今は目の前の脅威(犬面人)を何とかする方が先だ。


というワケで次だ次。


所持APが12……AP?

AP……AP……ああっ、あれか!


俺にしか聞こえなかったから空耳と思ってたが、このダンジョンに入るとき、こんな声が頭に響いたはずだ。


【ファストアクション 異界侵入 ボーナスAP300】

【ファストアクション ダンジョン侵入~狭間の牢獄~ ボーナスAP10】


「いや、それだけじゃない」


いつもの髭剃り跡とは無縁の、ツルっとした顎に指をあてて考える。


「犬ヅラに襲われたとき【ファストアクション 接敵 ボーナスAP2】って言葉が浮かび上がったよな?」


これらを足せば、俺の所持APはこの部屋に逃げ込んだ時点で312。


そこから戦闘用義体を買った残りが12AP。

そのときのことは記憶が飛び飛びだが、この体の価格は300APということだ。


その300APというのが安いか高いかはさておき、コレを選んだおかげで生き永らえることができたのだから良しとするか。


「現状から察するに、APを貯めて技能を買って自分を強化するわけだよな?」


残りの12APを使ってさらに強化するのもいいが、まずこの身体の使い方を知ろう。


という訳で、画面に表示されたアイコンの中から【義体管理アプリケーション】という項目を起動させる。


戦闘用義体♀を収納しますか?

はい/いいえ


注意:本体と戦闘用義体への切り替えは、地上とダンジョンの特殊部屋でのみ可能です。


「このアプリを使えば、場所は選ぶけど、いつでも男の体に戻れるってことだよな」


男に戻れず一生女の子のまま、という事態は何とか回避できたか。


「問題はいま男に戻ったら、死にかけの状態に逆戻りってことなんだよな」


タブレットに表示されている自分自身(鉄雄本体)のグロ画像を見ながらため息をひとつ。

鉄雄はさらに、画面に表示された注意文を読み進めていく。


どうやら義体で活動するときは本体が、本体で活動するときは義体が時間の止まった状態で、このタブレットに収納されるらしい。


「怪我を治す方法を見つけるまでは、女の子のままでいるしかないか」


ここまでゲーム的なシステムが幅を利かせている以上、APで回復魔法的なモノを買うことはできるだろうし、何とかなりそうで一安心だ。


「それにしても体がこの中に入っているのなら、タブレットは絶対に手放せないな」


そのことを強く意識した途端、タブレットが体内に取り込まれる。

逆に取り出そうと思えば、体の中からタブレットが出てくる。


至れり尽くせりとはこういうことを言うんだろうな。


「っと、いけないいけない。早く戦闘用義体の使い方を調べないと」


鉄雄は【戦闘用義体♀の使い方】という項目をタップし、そこに表示された文面に目を通す。


1・義体の設定年齢は15歳です。

  外見、身体能力は永遠に変わらないのでご留意ください。

(レベルアップおよび強化系技能等を取得した場合は、例外として身体能力が向上します)


「不老ってことか。マジでデタラメな体だよなあ」


もっとも不死じゃないので、敵にサックリ殺されるかもしれない。

そうならないためにも、戦い方というのを知りたいわけで。


それと、レベルアップという概念もあるのか。

こっちも後で余裕ができたら調べてみよう。


2・義体は本物の女性と同一の機能を持っています。

  ご利用の際はご注意ください。

(義体をタブレットに収納することにより、生理周期がずれるのでご注意ください)

(妊娠中の義体をタブレットに収納することにより、出産期間がずれるのでご注意ください)


「いや……あの……」


いきなりそんなことを言われても困る。

知りたいのはそういうことじゃなく、この体を使った戦い方なんだが。


3・義体をメンテナンス(食事、睡眠、洗浄・排泄など)する際は、本物の女性のメンテナンス方法を参照ください。


「……………」


絶対に手放せないタブレットだが、そろそろヘシ折りたくなってきた。


4・義体の右胸、左胸それぞれに、1日の活動に必要な量のカロリーをミルクの形で保存することができます。

(消費したミルクを補給する際は、同カロリーの食事を採取ください)


「何だよその機能はァァァァ! 何で男の俺が母乳を出さなきゃいけないんだよ!」


しかも、サバイバル的な視点では物凄く使える機能だということが、逆に腹立たしい。


5・義体には戦闘に関連する特殊能力は備わっていません。

  あくまでも【基本性能が極めて高い女性】として戦闘することを推奨します。


「そうそう。俺が知りたかったのはこういう情報だよ」


目からビームが出せるとか、体内に重火器が内装されているとかを密かに期待したが、さすがにそこまでは無理だったか。


「問題は、この体の基本性能がどこまで高いかなんだが……ってうおおおおおおおおおっ!?」


タブレットに没頭しているうちに、天井がすぐ頭上まで迫っていた。

鉄雄は咄嗟にヘッドスライディングで部屋から飛び出す。


かなり勢いをつけて滑ったつもりだが、飛距離は思ったほど伸びず、部屋を出てすぐ止まってしまう。


「このデカいおっぱいが引っ掛かってブレーキになるなんて、予想外すぎだろ」


それはそれとして、おっぱいを床に擦りつけるのは気持ちいいな、など想定外の刺激を反芻するも……。


―ールルルルルッ。


一難去ってまた一難。


釣り天井から逃れ、通路でうつ伏せになる鉄雄の目の前に立っていたのは、件の犬面人だった。


この獣が鉄雄のことを、先ほど嬲った男と同一人物として認識しているかどうかは分からない。

だが、目の前の人間は全て殺すとばかりに、鉄雄の返り血で濡れた爪を振り下ろす。


鉄雄はただ、その光景を他人事のように見ていた。


どうやら敵は、今回はいたぶるつもりが無いらしい。

むしろ何かに怯えているように、鉄雄を一刻も早く始末してやろうと顔面に狙いをつけている。


犬面人の動作が、やけにのろく見える。

死の間際には時間がゆっくりに感じるというが、それだろうか?


別人になってまで復活したのに、これで終わりかよ。

もしあの世があって、死んだらそこに行くとしたら、向こうでの俺の姿は男に戻るのかな? 女のままなのかな?


いやいやいや、なに弱気になってるんだよ。さっきはあれほど足掻いて生きることに執着したじゃないか。

状況的には『詰み』かもしれないが、最期の瞬間まで抵抗しよう。


……って。


そこまで考えるほどの余裕がありながら、敵の爪はまだ半分も進んでいない。

男のときは目で追うのがやっとだった動きが、『間違いなく』ゆっくりに見える。


「これなら、避けれる!」


鉄雄は横に転がり、空振りした犬面人の爪が地面に突き刺さった。


―ーフシュルァァァァァ!


必殺の一撃を避けられたことで頭に血が昇った犬面人が、離れたところで起き上がった鉄雄に突進してくる。


「やっぱりコイツ、遅くなってる……いや、この体だからそう感じるのか!?」


基本性能が極めて高い、というのはウソではないようだ。


鉄雄は闘牛士のようにひらりと体を90度回転させ、犬面人の攻撃を避ける。

人型野獣の牙は、そのまま何もない空間を素通りすると思いきや……。


「げ、おっぱいがある分、避けきれてねえ!」


大きく動いた反動で巨乳がぷるんと揺れ、重力に逆らうように浮き上がる。

その横乳がいままさに、犬面人の牙の餌食になろうとしていた。


「やめろおおおおっ!」


―ーギャウンッ!


とっさに放った掌底が敵の下顎にヒットし、犬面人は悲鳴をあげて数メートル分吹き飛ばされた。


【ファストアクション 攻撃 ボーナスAP5】


「やった!」


顎の骨を砕いてやったという、確かな手ごたえを感じる。

その証左に犬面人は床に倒れ込み、ぴくぴくと痙攣したまま動こうとしなかった。

※平成27年2月7日 内容に不備があった(レベルアップがあることの描写が抜けていた)ので追記しました。

※平成27年2月8日 一部誤字を修正しました。

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