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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
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第40話

幻想的な光を放つその青い壁に近づくと、頭の中に警告がながれてきた。


――技能【罠感知】発動――

――通路の5メートル先に罠があります――

――通路の5メートル先に罠があります――

――通路の5メートル先に罠があります――


「みなさん、止まってください。この先に罠があります」


3度目の正直。

今度の今度こそ【罠感知】を使いこなすことができた。


……のはいいのだが、警告を3回も繰り返されるとさすがにウザい。


「罠? もうさっきみたいな一方通行は勘弁してほしいわね」


「けどよぉ、階段を下りてずっと一直線だったから回り道なんてムリだよな? ここは進むしかねえんじゃねえか?」


「お待ちくださいな。たしか階段からは反対方面にも通路が伸びていましたわよね? そちらへ行ってみるというのはいかがでしょう?」


多少時間はかかるが、万が一のリスクを考えれば塔子の意見に賛成だ。


アイが同意したことで、パーティは来た道を引き返した。


――ズグン。


「ぐっ!」


「あうっ!」


その瞬間、体が内側から破壊されるような痛みを感じて悲鳴を上げてしまう。


「2人とも、ど、どうしたの?」


「アイさん、子都さん、しっかりなさってくださいまし!」


どうやらアイの他にも、葉月が同じタイミングで異常を覚えたらしい。


「ああ、悪りぃ。もう大丈夫、何ともねえぜ」


「私の方もです。失礼しました」


しかし葉月の言葉同様、こちらも痛みはもう治まっている。

体の内側から"活力"が奪われたような感じがして少しだるいものの、いつも通りに動けそうだ。


単純明快な葉月、そしてアイは『疲れが2人同時に出たのだろう』という結論を出し、心配する楓たちをよそに歩を進めた。


……しかし。


「ぐはっ!」


「痛ッ!」


あれから数十メートル歩くたびに、2人揃って激痛に襲われる。

それが3度繰り返された頃には、アイと葉月は目に見えて衰弱していた。


「アイ……大丈夫!? しっかりして。お願い、死なないで……あ、そ、そうだ! 【回復1】!」


あまりの弱りっぷりに見かねた楓が何とかしようと【回復1】をかけたところ、急に体が楽になる。

どうやらあの激痛は、生命力そのものを奪っているらしい。


「【レーテ川の癒し】ですわ……あら?」


かたや塔子も葉月に回復魔法をかけようとし、そこでぴたりと動きを止める。


「どうしたの、塔子?」


「いえ、【回復1】のショートカット発動として登録していた【エリュシオンの雫】という言葉がイマイチしっくり来ませんでしたので、タブレットの【魔法管理アプリケーション】から直接発動しようと思ったのですが……」


「ですが?」


あ、先輩の声が若干の呆れを含んでいる。


「画面に表示されたアイさんと子都さんの名前の横に【毒】の表記を見つけたのですわ」


「な、何ですって!?」


「オレたちのこの"激痛"は毒のせいだってのか?」


「ですが、毒なんていつの間にもらったのでしょう?」


って、考えるまでもないか。


「やっぱりコレって……さっきのムカデのせいよね? あいつの体液をべっとり浴びたあたしが、アイや葉月に移しちゃったんだわ!」


泣きそうになりながら頭を下げて謝罪する楓。

しかし、当然のことながら楓のせいにする気など毛頭ない。


「ムカデの液体をびっしょり浴びた先輩が無事なことから推測すれば、毒をもらうかどうかは完全にランダムみたいですね」


「そのようですわね。まったく、『転ばぬ先の杖』とはよく言ったものですわ」


「おいおい、アイさんも会長も何でそう冷静なんだよ? この毒は回復魔法でも治らねえんだぞ!?」


 毒は自然治癒するかどうか分からないうえ、時間経過でダメージを与えるタイプだとしたら生死の危機に直結する。 


 葉月は毒でHPが減る度に【回復1】を使い、それを繰り返してMPが尽きても毒が治らなければ……という事態を想像したのだろう。


「そっか、葉月はあたしがどんな技能を持ってるか知らなかったわよね」


楓は言って、タブレットを操作。


「今後のことも考えると、ショートカット登録しておいた方がいいかもしれないわね……【解毒】」


その瞬間、淡い光がパーティメンバーを纏めて包みこむ。

光が消える頃には体が楽になり、ためしにタブレットでステータスを開いたところ、毒の表示が消えていた。


「うおおおお、すげー! 楓さん、ありがとな!」


「【魔法管理アプリケーション】によれば、この魔法はPT全体が対象なの。消費MPは1だから、よっぽどのことがない限りガス欠(MP切れ)は起こさないと思うわよ」


アイが知っている限り、今日になってから楓が消費MP6の【回復1】を使った回数は3回だ。


今朝……というより午前2時に鉄雄に1回かけて、MPは最大値の17マイナス6で11。


そこから、レベル6から10までレベルアップしたことによるMP増加量が10だから、11プラス10でMPが21。


さらにさっきのコボルトの群れ相手に負った自分の怪我を治すのに1回、たった今アイにも1回【回復1】を使ったので、21-6-6でMPは9。


加えていまの【解毒】でMP1を消費したので、残MPは8。


……あれ、実は思ったより余裕ないんじゃないか?


1回の発動でパーティ全員が回復するといえ、だれか1人でも毒になったら使わないわけにはいかないだろうし、毒液は極力浴びないよう皆に注意を促そう。


          *


その後、毒で減った葉月の体力を塔子が回復し、歩き続けること少し。

階段を挟んで反対側の通路で敵影を発見した。


また大ムカデかと思い、気を引き締めて身がまえるものの、


――グルルルルル。


敵がコボルトだったことにホッとしながら、サクッと倒す。


最初に出会ったときはあれだけ恐ろしかったコボルトが出てきて安堵するとは、まったく感慨深い。


          *


――技能【罠感知】発動――

――通路の5メートル先に罠があります――

――通路の5メートル先に罠があります――


「さて、"これ"はどう思います?」


アイは何とも言えない表情で通路の先、"赤い光"を放つ空間を見やる。


地下2階から降りた通路のうち、片方は青い光を放つ通路、反対側のもう片方は赤い光を放つ通路で、途中に脇道はなし。


地下1階は一方通行のせいで『巨大空間』までしか戻れない。


つまり、先へ進むためには青と赤、どちらか罠のある通路を必ず通らなければならないのだ。


「どっちにしろ進まなきゃなんねえんだし、また引き返すよりは、このまま赤い通路を進んでみようぜ」


「そうですわね」


「それしかないわね」


今度は葉月の意見に異を唱えるものはいない。


念の為にアイが先行して罠のある赤い光を放つ空間に飛び込み、他の3人プラス気絶している1人は、この場で"タブレットに着目しながら"様子を伺う。


「どうです? 私としては何か変わったという自覚はないのですが」


「んー、アイがパーティから外されたわね」


と、楓。


どうやら罠は、地下1階にもあったパーティ強制離脱という種類のようだ。


「それ以外に問題がねえようなら、先に進んでみるか」


「そうですわね。全員が赤い光の通路に入ったところで、再度パーティを組み直すことにいたしましょう」


先行した赤毛の少女に続き、ポニーテールの少女、そして黒髪の大和撫子と金髪縦ロールのお嬢様が進んでくる。

そのまま進むことしばし。


「行き止まりね」


楓がポニーテールを揺らしながら首を傾げた。


「反対側の青い通路の方が"正解"だったのでしょうか?」


「また向こうまで歩くのかよ。あー、面倒くせーがしゃあねえか」


アイは葉月と共にUターンしようとしたとこで、ふと塔子のことが気になって声をかけた。


「ずっとその子を背負うのはきついでしょうし、私が代わりますか?」


「お心遣い痛み入りますわ。ですが、わたくし以外の方は大ムカデの毒液が服に付着しているので、念には念を入れた方がよろしいかと」


なるほど。

本当に彼女は全体をよく見ているな。


「塔子にだけ負担を押し付けてしまい、申し訳ありません」


「かまいませんわ。そのおかげで先ほどは良い物を見ることができましたし」


「あうぅ……」


思い出したらメチャクチャ恥ずかしくなってきた。


アイは赤くなった顔を見られないよう、そそくさと歩きはじめた。


          *


――技能【罠感知】発動――

――通路の5メートル先に罠があります――

――通路の5メートル先に罠があります――

――通路の5メートル先に罠があります――


そして再びやってきた青の通路。

相変わらず頭の中ではガンガン警報アラートが鳴り響いてやかましい。


「なあ、今度はオレが先に進んでみていいか?」


葉月が進んで青の通路に入りたがる。

パーティメンバーが危険な目に遭わないように――ではなく、単純に自分が興味あるからだろう。


「何かあったらどうすんのよ?」


と言いつつ、楓もあまり危惧してないようだ。

やはり反対側(赤通路)の罠のしょぼさが影響しているのか。


「んじゃ早速……痛てえっ!」


青い通路に足を踏み入れようとした葉月だったが、まるで見えない壁にでも阻まれたように、何もない空間でガツンと頭をぶつける。


楓は、葉月が頭をぶつけた空間を拳で叩いてみる。


「ガラスでも張ってんのかしら? にしては透明すぎるわね」


すると、コツコツと固い音が返ってきた。


「こっちのトラップは、この透明のガラスもどきみたいですわね」


と、塔子。


ここまで来るともはや罠と言うより、イヤがらせとしか思えない。


「ならば私が蹴破ってみます。ガラスだったら破片が飛び散るでしょうから気を付けてください」


アイはパーティメンバーを下がらせると、助走をつけて跳躍し、飛び蹴りを放つ。


足全体を包む白のブーツが"見えない壁"にぶつかる瞬間、足首に受けるであろう衝撃を予測したが、それが全くない。


「え?」


勢いづいたアイはそのまま青い通路内に転がり込み、体に受ける"重さ"で自分に訪れた変化を悟った。


「鉄雄に……戻ってる?」


何が起こったのか理解が追いつかない。

慌てて振り返り、パーティメンバーに尋ねようとするが……。


「な、何っ!?」


そこには誰もいなかった。


いや。

正しくは、透明の壁があったはずの空間がいつの間にか土壁で塞がれ、鉄雄と楓たちはその壁によって分断されていた。


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