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男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
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第39話

「シルエットを見る限り新しい敵のようですし、私がまず仕掛けて様子を……」


「っだらァアァァ! 死にさらせええええぇぇぇ!」


アイは妙な既視感デジャブを覚えて、頭を抱えそうになる――いや、実際にあったことだから既視感というのは正しくないのだろうが、いま重要なのはそこではなく葉月だ。


暴走とか関係無しに、彼女は純粋に血の気が多いのだろうか。


レベル9になったことで、葉月は速度に一層磨きがかかっている。

戦闘ステータスすべてに補正のかかったアイでなければ、追い付けはしないだろう。


「葉月っ! ああもう、待ってください、この脳筋(NOUKIN)!」


かくしてアイと葉月の2トップは、新たな敵へと躍り掛かった。


          *


――ギチギチ、ギチチ。


「ははは……オレごときが出過ぎたマネをしてワリィ。ここはアイさんに出番を譲るぜ」


「ふふふ……何を言ってるんですか? 貴女が飛び出したのですから、責任を持ってコイツの相手をお願いしますよ」


それを一口で表すなら巨大ムカデだった。


頭には2本の触覚と鋭い顎肢があり、そこからビュクビュクと液体を漏らし。

頭の下に続く固い体節には左右一対の脚が生え。

その体節がいくつも繋がって数十本の脚で移動する節足動物。


そんなモノが"人間サイズ"で目の前に現れたときの生理的嫌悪感は筆舌に尽くしがたい。


"鉄雄"の感覚では『気持ち悪い』程度だが、アイという少女の肉体は明確に拒絶反応を示してくる。


しかし、そうは言っても地下1階を戦い抜いてきた経験もまた、この肉体に蓄積されている。


――キシャアアアア!


「うおっと」


緊張と硬直で足が動かない葉月を抱えて横へ飛ぶことで、真正面から襲ってきた巨大ムカデをの攻撃をかわす。


「ンの野郎!」


そしてこうなると大和撫子な見た目に反比例し、血の気が多い葉月もいつまでも怯んでいない。

ムカデの側面に回り、コンバットナイフを振りかざす。


――ガキン。


「なっ……コイツ、硬てぇ!」


「クッ……そのようですね」


密かに葉月と反対側に回り込み、背中を殴りつけたアイだが、甲殻に覆われた体節にわずかにヒビを入れたばかりだ。


「普通に殴って駄目なら、これはどうです?」


アイはコボルト相手に猛威を振るった手刀を用い、体節と体節の継ぎ目を狙って振り下ろす。


――アアアアアアア。


「さすがにこれは効果があったようで……かはっ!」


ブチブチと切断する手ごたえは確かにあった。

しかし真っ二つにされたムカデは暴れ狂うように胴体を振り回し、アイの肢体を壁へと叩きつける。


くそっ、たしかに油断もあったが――こいつ、コボルトとは段違いの強さだ。


【戦闘系ステータス×150%】の恩恵で、地味に塔子より防御力のある自分ですら、いまのは"効いた"。


ならば、耐久力に不安のある葉月がこんな攻撃を喰らったら……。


「こんのおおおおおおおッ!」


しかし、そんなアイの不安が現実となることはなかった。

たしかに葉月は壁とムカデの巨体の間に挟まれそうになったものの、ようやく追い付いてきた楓が、勢いを殺すことなく丸太の先端をムカデの顔面に叩きつけたからだ。


【貴真志塔子 レベルアップ 7→8 ボーナスAP2】 所持AP:156


レベルアップアナウンスが流れたということは、ムカデは完全に息絶えたのだろう。


「ペッペッ……うえぇ……汚いわね」


「大丈夫ですか先輩……はうっ!」


頭を潰したことにより、ムカデの体液をまともに浴びた楓。

彼女の着ている体操服が濡れて透け、桃色の下着が露わになっていた。


――ふむふむ。これはなかなかに"いいもの"だ。

直接ではなく半透明の体操服というフィルターごしだからこそ、フェティシズムに溢れているというか、ぶっちゃけさっきの晃もこんな気持ちだったのだろう。


「ちょっと、アイ、あんた目つきがヤらしいわよ」


興奮したら股間が膨らんでモロバレな男とちがい、女の子の体は昂っていることがバレづらい。

にも関わらず楓にジト目をされたということは、自分はいったいどれほど欲望にまみれた目をしていたのか。


(実はコレ、あんたのとブラショーツもお揃いなのよ)


楓は表面上は呆れてみせつつも、アイだけに聞こえるよう、こっそりはにかんでみせる。


いくら肉体の性別が同じといえ、好きな女の子とまったく同じ(ただしサイズ以外)女性用下着を身に着けているという事実に、倒錯感を覚えてしまう。


と、そんな奇妙でありながら甘ったるい空気は、葉月の何気ない一言でぴしりと凍りついた。


「楓さんの下着ってアイさんのと色や形が同じなんだな。ペアルックって奴か?」


「……葉月。何でアンタがアイの下着を知ってんの? しかもいつの間にか、アイはあんたのことを呼び捨てにしてるわよね」


――有賀の被害者である葉月と、その有賀を倒したことで知り合った楓は、ひょんなことから意気投合して、体操服の貸し借りをするほど仲がいい。

ちなみに『ひょんなこと』とは、貸し借りできるほどの体操服の"サイズ"に端を発するのだが、それはさておき。


「ああいや、その……実は……」


          *


「……ふーん、そう、そうなのね」


アイ主観では、葉月は状況を説明しただけに過ぎないが、楓はその目線や口調、雰囲気などから"何かしら"を読み取ったようだ。


まるでお気に入りのオモチャを取られまいとする子供のように、アイにすすっと身を寄せ、がばっと抱き着く。


「このおっぱいは――アイはあたしのよ! 誰にも……そう。たとえ貧乳仲間のあんたであろうと渡すわけにはいかないわ!」


「ひゃあっ! あっ……せ、先輩!?」


ほぼ一日ぶりとなる楓からの胸揉み。


はじめは体操服の上から。

やがて行為はエスカレートしていき、楓の腕が体操服の隙間から侵入し、彼女の細い指がブラジャーの上からアイの胸をひたすらにこねくり回す。


「やっ……んうっ……ああっ……」


――うあっ、ヤバい。昨日よりも"感じて"しまう。

先輩、昨日よりも上手くなってないか?


もみもみ。

もみもみもみもみ。


――いや、ちがう。これは揉まれる側の……俺の心境の変化によるものだ。

淡い気持ちを抱いていただけの相手に揉まれた昨日より、晴れて両想いになった相手に愛撫されることを、体自体が悦んで受け入れようとしているんだ。


もみもみもみもみもみもみ。

もみもみもみもみもみもみもみもみ。


「あっ……ふあっ……んんうっ……」


相変わらず、アイの体は当人の意思を無視して女の子としての声をあげてしまう。

ともすれば気持ちよさで狂ってしまうのではないかという不安に苛まれ、視線を動かす。


「…………うぅ……いいなあ」


すると、こちらをやたら物欲しそうに見る葉月と目が合った。


例えるならおあずけを延々とくらった子犬のような、憐みを誘う視線。

あるいはショーウインドウのトランペットを眺める黒人少年のような羨望の眼差し。


どうにも揉まれるほど大きなモノをつけているアイにではなく、揉んでいる楓の方を羨ましがっているようだ。


え、何?

もしかしてお前も俺のおっぱいを揉みたいの?


「うっ……くっ……そんな目で見られたら……あたし……」


葉月の視線と、視線の中に込められていた"想い"を感じた楓は、どれほどの葛藤と戦っていたのか。

やがて彼女は何かに負けたかのように言った。


「……いいわ、葉月。あんたにアイの右胸を揉ませてあげる」


「ほ、本当か!?」


「ええ。あんたはナイチチだけど、特別にあたしのおっぱいハーレムに入れてあげるわ」


「楓さん……すまねえ……横から割り込むようなマネしたオレに対して……そこまでしてくれるなんて……」


「いいのよ。もしあたしがあんたの立場だったらって考えると、手を差し伸べられずにはいられなかったの」


――いや、あの。

二人でいい雰囲気作ってるけど、結局のところ『二人で一緒にアイの胸を揉みましょう』ってことだよな?


本人を無視して、勝手に人のおっぱいを片方分け与えるの止めてくれませんか?


「……いや、やっぱ止めとく。好きでもないオレに"そんなこと"されたら、アイさんはいやだろうし」


うっ、だからそんな目で見るのは反則だろ。

先輩もコレにやられたのか。


清楚な外見の女の子が、ガサツな口調でしおらしくする、というのはギャップという名の破壊力がありすぎる。


「……はぁ、仕方ありませんね」


胸を揉ませる相手が男なら全力でご遠慮願うところだが、女の子なら何とか許容範囲だ。

アイはまたひとつ、男として大切な何かを失っていくことを感じながら、楓から解放された片方の乳房を差し出した。


――ちなみに塔子は一連の場面を目撃したことにより、とうの昔に自ら流した鼻血だまりの中で轟沈していた。


          *


色々あったものの復帰したアイたち一行は、再び一本道を進み始める。


「たしかにこの恰好は動きやすいんですけど、別の服装を考えた方がいいかもしれませんね」


「アイさんに同意ですわ。個人的には眼福としか言いようがありませんが、ダンジョンの中でハプニングを招きこむ事態は極力避けるべきですわね」


今現在、塔子に背負われた少女を除けば、アイ、楓、塔子、葉月の四人は体操服にブルマといういでたち。

うち塔子以外の3人は濡れ透け状態で、楓が浴びたムカデの体液が、さっきの胸揉みの一件でアイと葉月にもびっしり付着したためだ。


ムカデの体液は透明に近く粘度も低くほとんど臭わないものの、やはりいい気持ちがしない。

一刻も早く拠点(比叡中学校)に戻り、体を洗って着替えたい。


そのためには何とかして帰り道を見つけるか、赤部屋を見つけて『ある技能』を買う必要があるのだが。


「あれ?」


巨大ムカデを倒して少し進んだところで、先の通路の雰囲気が少し変わって見えた。


先頭を歩くアイは、見たままを言った。


「青い光?」


そう。

通路の土壁は相変わらず光を放って周囲を明るく照らしているのだが、この先はこれまでの"黄色い光"と違い、淡い青色に輝いていた。

再度の告知になりますが、活動報告の方にその話で出たメインキャラのステータス表を掲載していますので、興味のある方は目を通していただければ幸いです。

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