表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男と女の1人2役で異界のダンジョンに挑んでみた  作者: 味パンダ
第1章 狭間の牢獄
20/49

第19話


有賀ありがッ!」


「ありゃりゃ。オレには"君"をつけてくれなんスか? 寂しいっスねえ」


廊下の奥から昇降口に姿を見せたのは、三人の男子生徒だった。


有賀と呼ばれたのは先頭に立った少年で、細身でキツネのような目をしており、ヘラヘラした笑みが印象的だった。

その後ろには、腰に木刀を挿したゴツい少年が二人。まるで有賀の護衛のように立っている。


「ま、別にい~んすけど、っと。そうそう、お姉さんたち、なんて名前なんっスかぁ?」


「人に名前を尋ねるときは、自分から名乗るのが筋ではありませんか?」


この闖入者のおかげで、塔子への憤りはある程度抑えることができた。

しかし、有賀の人を小馬鹿にしたような態度や、こちらの顔や胸やあそこを"食い物"でも見るかのように嘗め回す目が気に食わず、アイは冷たく言い放つ。


「ついでに言わせてもらえば、年上に対する態度も、女の子に接する態度もなってないわよ、あんた」


「「女ァ! 貴様、有賀さんになんて口を利いておる!」」


巨漢二人がステレオのように一言一句違わず楓に怒鳴るが、有賀はまぁまぁ、と彼らを手でたしなめる。


「ん~、赤毛さんは文句なしにSランク、こっちのポニーテールさんは……」


有賀は楓の顔を見て、


「ギリギリでS……」


腰を見て、お尻を見て、スカートに見え隠れする太ももを見て、そして最後にぺたんとした胸を見て。


「……いや、やっぱ総合でAランクっすわ」


「あんた、今あたしのドコを見てランク付けしたのよ! 言えっ! 言いなさいよッ!」


あのキツネ目は節穴か。

胸の大きさを審査点に入れたとしても、楓はSランクの美少女だろうに。


ああ、でも悪癖オッパイスキーがあるからなあ……"総合"だと……うーん。


いやまあ、それを言うなら中身が男の"アイ"は、ランク外になるんだろうけど。


          *


「んでオレ、生徒会副会長で剣道部主将もやってる有賀っス。よっろしくぅ~」


相変わらずのチャラいセリフと薄っぺらい笑み。さらに横ピースには正直イラッと来たが、名乗られた以上名乗り返さない訳にもいくまい。


「……金剛高校の葉鐘アイです」


「……同じく、金剛高校の八月一日楓よ」


「あ、えと、僕はこの学校の二年で……」


「野郎の紹介はイラネ。興味ないし~。どうせ犬人間のエ――」


「有賀ッ! お黙りなさいっ!」


と、そこまで黙っていた塔子が慌てて口を挟む。


「だ~か~ら~、黙るのは会長の方っスよ。"野郎と女の子の扱い"、それに"可愛い女の子の扱い"は、さっきの臨時生徒総会で決まったじゃあないっスかぁ~?」


「あんな茶番を生徒総会と呼べる訳がありませんわ!」


塔子は目の前のアイから意識を逸らし、この場に現れた少年と言い争いを繰り広げる。

もっともがなり立てているのは塔子だけで、少年の方はおどけるような素振りを見せるだけだ。


「大体にして、彼女たちは比叡中学校ウチの生徒ではありませんのよ! 今すぐにこの学校から追い出すべきですわ!」


「この人たちは迷宮の中を、犬人間から逃げながらここまで必死でやってきたんですよぉ。それを門前払いなんて可哀想じゃないですかぁ?」


「バカにしないでよ! あたしたちはコボルトを蹴散らしてここまでやって来たのよ! ほら、この丸太ぶきが見えないの!?」


「「女。貴様が『自分たちは戦えますからここに置いてください』などアピールせんでも、寛大な有賀さんは保護してくださるおつもりだ。感謝するがよい」」


……各々の思惑が絡み合って好き勝手言ってるようだが、少し整理してみよう。


生徒会長の塔子は、晃を含む自分たちをここから追い出したがってる。

逆に副会長(兼剣道部主将)の有賀は、自分たちを受け入れたがっている。


そして、この二人は反目し合ってる、と。


ついでに、楓は有賀の態度にムカついていて、巨漢二人は有賀のイエスマンみたいだが……まあ、これはとりあえず置いとくか。


普通に考えれば有賀の申し出の方がありがたいんだが、どうにも引っ掛かるんだよな。


塔子と有賀。

どっちの態度も露骨に怪しく、何かを隠してるように見える。


アイは、楓、塔子、有賀が三つ巴のようにぎゃあぎゃあ言い合ってる隙に、晃に小声で話しかける。


(この状況に何か心当たりはありますか?)


(いえ。僕にも何がどうなってるのかわかりません)


聞き方を変えてみるか。


(晃が知っている限り、生徒会長と副会長はどんな人間ですか?)


(会長は生徒のことを第一に考える立派な人で、副会長は権力や剣道の実力を鼻にかけ、好き勝手しているイヤなヤツです)


『副会長は誰々を妊娠させたとか、誰々をいじめて自殺まで追い詰めたとか、常に黒い噂が耐えないんですよ』と晃は付け足す。


(有賀の方は、よくそんな具合で副会長を続けていられますね)


(会長は学校から追い出したいみたいですが、なまじ剣道の実績があるから難しかったようなんです)


晃は苦虫を噛み潰したような表情になる。


剣道部は全国大会でも常に優勝候補だと言うし、仮に"噂"が本当だとしたら、スポーツに力を入れている学校側が悪事を隠ぺいしていたということか。


……ん? となると、有賀はあんな見た目と性格だけど、メチャクチャ強いってことだよな?


(かくいう僕も、仲のよかった友達が数日前に登校拒否になってしまって、その原因を調べ始めた矢先に……)


(学校ごと異界に転移されたという訳ですか)


話を聞けば聞くほど有賀に対して憤りを覚える。


もちろん裏付けや証拠もなく、晃から聞いただけの話だ。

しかし、先ほど有賀が向けてきた、"女を食い物のように扱う視線"を浴びた身として言わせてもらえば、あながち間違ってないように思える。


有賀は女の子を人間としてではなく、性のはけ口という"道具"として見ているようで胸糞悪い。

だから楓も、あそこまで敵意を剥き出しにしているのかもしれない。


(さて、どうするかな)


いまのところ、アイや楓が有賀から直接的に何かをされた訳ではない。


アイとしては正義の味方を気取るつもりはないし、有賀が敵として立ちはだからないのなら、積極的に介入していく理由はない。


だが、ここで不干渉を貫くことが正しいとはどうしても思えない。


自分が孤独と絶望に苛まれているとき、楓に救われたように。

虐げられる者の気持ちが分かるからこそ、"理不尽に"苦しんでいる人がいるなら何とかしてやりたい、と考えてしまうのは偽善だろうか。


――自分が生きるため。楓を守り抜くため。

その目的から逸脱しない限り……せめてこの手が届く範囲であれば、困っている人の力になってやりたいという思いは、"人として"生きることに繋がるのではないだろうか。


          *


「それじゃオレはA級ちゃんを2人待たせてるんで行きますけどぉ。後は分かっるっスよねぇ?」


「…………わかりましたわ」


力関係は有賀の方が上らしい。


スキップでもしそうな足取りで一人去って行く有賀を、塔子はまるで親の敵のような目つきで見送る。


「さて、高校生の女どもはこっちで」「小僧はこっちだ」


有賀に付き従っていた巨漢の一人がアイと楓の前に、もう一人が晃の前に立つ。

その様子は校舎を案内するというより、咎人を処刑場まで連行する水先案内人のように見える。


「……やっぱり見過ごせませんわ! 三人とも、理由はきかずに逃げてくださいまし!」


「この金髪女が!」「"あ奴ら"がどうなっても構わぬと言うか!」


「きゃっ!?」


塔子が巨漢二人の足にすがりつくも、大の男の力に敵うわけもない。

いともあっさり振り払われ、床に倒される。


しかし、巨漢はそれで済まさず、腰の木刀を抜き放つ。


「武士の情けだ。"今回も"顔は狙わずにおいてやろう」


床に蹲った塔子のブラウスの隙間からは、無数の打撲傷が見えていた。


「もう迷う必要はありませんね」


アイは感情の赴くまま、巨漢の一人に狙いを定めた。


※2015年2月27日 一部文章を変更しました。

また、塔子の服装のミス(セーラー服からブラウス)を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ